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ゾディアックサイン  作者: カラス
古代いろいろ
59/73

土産

遅れて申し訳ないです。

不定期ですが、楽しんでいただけたら幸いです

「ダァ〜、つっかれたぁ」


月光の座席に強く座り込んだエクウスは、ぐったりと全体重を預ける。長い旅の末、日焼けした体とそり落としていない髭、以前に比べてワイルドになったように感じる。


「おい羽月、宝島カレー」

「あれはエクウスさん限定メニューですよ。あんな経費を無視したメニュー、私たちでは作れません」


 お盆を胸に押し付けながら、羽月は呆れながら指摘する。


「へっ、そうかよ。なら、いつもの頼む」

「エクウスさんとくに決まったメニューないじゃないですか。もう」

「ああ? ほら、あれだ。この前のあれ」

「何ですか、あれって?」

「ほら、あれだ! あの、デカくて分厚い肉だ。忘れんじゃねえ」

「むっ……自分が覚えてないだけじゃないですか」


 羽月は頬を膨らませながら、向かいに座る二人に、「逸夏さんと睦月さんは?」と促す。


「あ、俺はコーラでいい」

「私はミルクティーで」


 泰吾たちの注文を受けて頷いた羽月は、小柄な体でてくてく厨房へ歩いて行った。「んじゃ、羽月が戻る前に鑑賞会と行くか」と切り出す。


「そういえば、旅に出ていたんだよな? どこに行ってた?」

「あ? へっ、太平洋だ」

「太平洋?」

「太平洋って、あの太平洋ですか?」


 世界最大の海の名前に、泰吾と空の目が点になる。エクウスは頷き、


「日本から大体4、5000キロ沖だ。色々見つけてきたぜ」

「なぜそんなところを探したんだ?」

「へっ、馬鹿野郎。宝探しに必要なんは、手掛かりじゃねえ。カンだ」

「カンで宝探しができるなら、世の中億万長者で溢れてると思うが」

「知るかよ。他の奴らが鈍いだけだろ」


 エクウスはそう吐き捨てながら、懐から銃を取り出す。橋の崩落を食い止めたあの銃だ。


「さっき使ったこいつも、太平洋のど真ん中で見つけた。いるか?」

「なんだこれ?」

「名前は知らねえ。まあ、簡易タイムマシンと言ったところか?」

「タイムマシン?」


 空は銃を掴み、眺め回す。エメラルドの光沢が高級品らしさが、銃という物騒な形になっていることに違和感を感じざるを得ない。


「色々試したんだがよ、どうやら撃ったやつを十分前の状態に戻すらしいぜ」

「十分前?」


 つまり、もしエクウスの帰国があと五分でも遅れていれば、橋の崩落を止められなかったということだ。

 血の気が引くのを見せまいと気を配り、泰吾は


「他には何かあったのか?」


 するとエクウスは仰々しいエンターテイナーのように「知りたいか? 知りたいよな?」とニヤニヤし始める。

 羽月もカウンターの向かいからこちらが気が気でないようだ。客がいないからいいようなものを。


「まずはこいつだ」


 エクウスの最初の出品に、泰吾と空は顔をしかめた。


「これは?」

「壺……ですか?」


 宝石のような煌びやかさなどかけらも無い土色の土器。ハニワがヨガポーズをしている姿が描かれており、泰吾には価値が分からない。


「これ、何に使うんですか?」


 泰吾の疑問を代弁した空。しかしエクウスは、特に躊躇いもなく


「ただのガラクタだ」


 切り捨てた。「欲しかったらやるよ」と空に投げ渡すが、もらっても困ると彼女の顔に書いてある。


「悪ぃな。もう粗方お得意様に出品済みだ。ガラクタと俺のしか持ってねえぞ」

「ガラクタ……? 役に立たないものしかないのか?」

「海底から釣り上げたもんだからな、八割がたはガラクタだ。まあ、テメエが興味持ちそうなもんはあるがな」


 そういいながらエクウスが引っ張り出したものは、確かに泰吾の興味を引くものだった。一見縦長の振り子メトロノームだが、針は金色、胴体も銀色と高級感あふれるデザインだった。遠い未来の時代である現代でも、かつてより変わらないのであろう動きを延々と続けている。


「原理はサッパリわかんねえが、海の中でもンな感じに動いてたぜ。こういうの好きなんだろ?」

「好きというより、興味はあるな。分解してもいいか?」

どら

 エクウスは「好きにしろ」と肩をすぼめた。泰吾は持ち歩いているドライバーを入刀しようとするも、空が慌てて止める。


「せ、先輩! これ、どんな貴重品かわかりませんよ! そんな分解はちょっと……」

「問題ねえよ」


 羽月が持ってきたビールを一気に飲み干しながらエクウスは念を押す。


「オレも馬鹿じゃねえからな。発掘したモンはその場でチェックしてんだよ。とくにオレたちのオーパーツみてえなトンデモパワーは持っちゃいねえよ」

「ならいいですけど……」


 あまり納得していない空をしり目に、泰吾はメトロノームのボディを開く。モノクロの内部の未知を目撃するも、


「……」


無言で閉じた。


「あれだな、人類にはまだ早い」

「素直に分かんねえって言えよ」

「そうともいう」


過去に半壊のテレビを修理しようとして粉々にしてしまった記憶が蘇る。


「逸夏よお、てめえジャンク屋向いてねえんじゃねえの?」

「うぐっ……否定はしない」

「自覚はあんのかよ……ならいっそ、オレと宝探ししねえか? 儲かるぜ」

「やめておく。これから先儲かるかわからないからな」

「てめえのジャンク屋だって似たようなもんだろうが。それより睦月」


 エクウスは空へ話の矛先を変えた。


「てめえどうした? あの蛇野郎とも戦えてねえみてえじゃねえか」

「ああ……」


 見られていた。曖昧な表情の空は、頬をかきながら、


「ちょっと、戦えなくなってしまって……エンシェントにはなれるんです。でも、その……雅風が、弓が掴めなくなって」

「なんかあったのか?」


 羽月が持ってきたポテトの山を一瞬で半分にしながらエクウスは尋ねる。


「ただのトラウマです。独皮極哉の瘴気にあてられただけですから、しばらくすれば治りますよ、きっと」

「どうだか? 前のオレの仲間もそういう奴いたぜ。でっけえ敵に怯えて戦えなくなった奴が。まあ、あいつは調査専門だったから問題なかったけどな」

「……なかった?」


 エクウスの過去形が引っ掛かった泰吾。しかし彼はそれに気づくことなくベルを鳴らす。


「何ですか?」


 エクウスの呼び鈴に不機嫌を隠さない羽月。彼の注文はまだできていないことは、エクウスもまた理解しているのだろう。指二本をクイクイと動かし、羽月を寄せる。


「なあ、オレはこれからまた世話になるわけだが……」

「大変不本意ですが」

「こいつらもまたやらねえか? 美月のやつがいなくなりやがったし、人手不足だろ?」

「二人とも部活で忙しいので、そんな手間かけられません。エクウスさんが福原さんのようにちゃんと働いてくれれば済む話です」

「部活? なんかやってるのか?」


メトロノームを懐にしまいながら、エクウスは尋ねる。泰吾は頷き、


「まあ人助けの部活だ」

「人助け?」

「ああ、そう言えば空、部活に関して聞きたいことがあったんだ」

「何ですか?」

「そもそも、世界平和部は必要あるのか? 学校内でゾディアックの活動をすることもないだろう?」

「ああ、そういえば……」


 説明を忘れていたという表情の空。彼女は、


「端的に言えば、理事長がゾディアックの人なんです」

「……」


 いつぶりか、泰吾は「ええええええええええええええええ‼‼⁉」と大声をあげて、羽月に注意された。

新学期ですけど、就活のせいで休めない……

皆さん体調にはご注意を!

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