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ゾディアックサイン  作者: カラス
古代いろいろ
58/73

橋の下にはご用心

たとえ、どれだけ時間がかかっても、中断はしません!

するなら告知します!

「さあ、遊ぼうぜええええ!」


 極哉は、両手を広げながら迫る。


「……くっ!」


 橋の下の河川敷なのが幸いし、周囲に人はいない。が、ここで大暴れすれば、上の橋が崩れてしまう危険性がある。

 しかも、上は人々がこちらの出来事など全く気付かずに車を走らせている。極哉をこの橋から外へ出すわけにはいかない。


「やるしかない!」


 泰吾は空に逃げるように指示し、極哉と正面から激突。突き進む彼を止めることは敵わず、その場で数回回転、バランスを崩して川へ落ちた。


「はははははは‼」


 泰吾は喧嘩慣れしているわけではない。だが、痛みがないはずがない。現に、泰吾の拳に痛みが跳ね返っているのだから、極哉にもそれ相応の痛みがあるはずだ。

 だが、


「お前でもいい……遊ぼうぜえええ!」


 前回の経験で理解していても、やはり殴られてもひるむことなく向かってくる極哉には、恐怖を感じる。泰吾は、こんなやつ相手に一人で空は戦っていたのかと思うと、彼女の精神面を案じるとともに、それが自分でなくよかったとも感じる。


「お前、いい加減にしろ! 一体何なんだ⁉ どうして空にそこまで付きまとう⁉」

「ああ? 俺はただ遊びたいだけだ。そして、その緑色が、これまでで一番俺を楽しませた! お前よりも、ルヘイスのやつよりも、警察のクソどもよりも!」


 極哉は泰吾を蹴り倒し、目標を空へ変更する。彼女は雅風を取り出しても、その口を付けようとはしない。その目から、彼女が再び極哉と向き合うことに怖がっているのは明白だった。

 しかし、極哉はそんなことお構いなしに空へ向かう。バシャバシャと音を立てる水が、極哉の勢力の一部に思えた。


「くっ……!」


 泰吾はジャンプで泰吾より先に陸に上がり、先回り。腕を交差させ、極哉の拳を止める。


「お前を、止める!」


心臓に響く鼓動。白い光とともに、イニシャルフィストの装備を纏い、極哉を川へ投げ飛ばす。


「空、お前は逃げて、他の奴らに知らせてくれ」


 川から出てきた極哉を睨みながら、泰吾は言った。すでに彼の体の上には、刺青の上にうごめく蛇が這っている。

 彼のオーパーツ、彼のエンシェントとしての姿だ。詳細は一切わかっていないものの、その凶悪性から、泰吾が一人で立ち向かえる相手ではないことはわかっている。


「行け!」

「は、はいっ!」

「おい……逃げるのか……?」


極哉は橋から出ようとする空の退路に、蛇を放つ。空の進路上にとぐろを巻く三十センチほどの蛇は、毒液が滴る牙を見せつけることで、空の足を止めていた。


「遊ぼうぜ……? なあ……ああ⁉」


 極哉を抑え、やがて格闘戦に突入する泰吾。彼の武器はマイや彼のものとは違い、わかりやすいものではない。大蛇からはぎ取ったものをそのまま使用しているような、ナイフのような大きさの牙だ。

 籠手で毒牙を防ぎながら、泰吾は拳を叩き込む。極哉はよろけるが、


「ははははははは‼」


 やはり動じない。むしろ痛みが活力の源になっているかのようにより力強く叫ぶ。

 すると、彼の手からするりと大蛇が伸び、泰吾の体をとらえ、川に引きずり込む。

 息苦しい水の中、泰吾と極哉は殴り合う。なぜか深い水の中、浮力を纏いながら泰吾の拳が極哉を川底へ叩き込む。砂利が舞い上がるが、彼は問題なくこちらへ浮かび上がる。

 彼の腕から伸びる蛇から逃れるために、水面(みなも)を目指す。もう少しで空気にありつけるところだったが、足が引っ張られる。

 暗い水の中を、黄色の蛇が絡みついていた。

 泰吾は蛇の頭を蹴り潰し、水面から橋の底までジャンプ。


「……! 空‼」


 水しぶきの合間から、雅風の風を纏う空の姿が見えた。彼女は流れるように弓を構える。だが、


「ははぁっ!」


 泰吾を追いかけるように出現した極哉。その姿を見た瞬間、空の表情が歪む。思わず手を放して発射された矢は極哉に命中せず、対岸の橋を少し削った。


 やはりまだ空は戦えない。


 泰吾は体をひねって、極哉を反対岸に蹴り飛ばす。

 まだ敵は倒れていない。長引かせないために、泰吾はここで決着をつけることを決意した。


「行くぞ‼」


 泰吾は白い右手を掲げ、腰のブースターを吹かす。紅色の噴射とともに、泰吾の体は拳となり、極哉を押し潰した。

 轟音とともに、誰しも無視できない揺れが橋を襲った。


「まだまだっ!」


 煙のなかで動く気配を断ち切るように、再びこぶしを振り上げる。白い光から放たれるそれは、神速のスピードでトドメを狙う。が、


「Wait for a moment」


 冷たい声とともに、泰吾の手に乗せられる肌色。驚いて飛びのくとともに、それが灰色のコートを羽織った人物だと理解した。


「Hello。先日はよくも邪魔してくれましたね」


 全く動じない言葉遣い。それがほんの数週前、泰吾たちの前に立ちふさがった敵、ルヘイスだと理解するのは容易かった。


「お前……!」


 空のもとに跳び戻り、身構える。空も震える手で弦を弾くが、素人目でもわかるほど、狙いが逸れていた。

 ルヘイスは特に気にすることもなく、極哉に手を向けた。すると、彼の袖口より黒い触手が出現、極哉を縛り上げた。


「んおっ……離せ! 離せえええ‼︎」


 極哉は暴れるが、頑丈な触手は一切動じない。ルヘイスは首を振りながら


「Oh、dear。知ってはいましたが、彼に手綱を付けることはできませんね」

「放せ、はなせええええええええええ‼」

「Shut up! 全く、マキラといいナラクといい、私の計画通りに動いてもらわないと」

「待て!」


 ルヘイスが泰吾たちに背を向けようとする瞬間、泰吾は呼びかけた。


「お前たち、何をするつもりなんだ⁉ この前の博物館も、お前たちレリクスの仕業なんだろ?」

「……その組織名はどこから聞きましたか?」

「……」

「マキラか……Should I get a key for her?」


 ルヘイスは頭を押さえながら正答にたどり着く。

 退却するつもりのようだが、今彼を捕まえられれば、有用な情報が手に入るかもしれない。そう判断した泰吾の行動は早かった。


「空、少し力借りるぞ!」

「え?」


 空の同意を待たず、泰吾は空の肩を叩いた。力を抜けていなかったらしく、彼女を地面に突き落としてしまった。

 しかし泰吾はそれすら確認せず、緑の風を全身に包ませる。白い武装が緑に変わり、その背中から雅風と同様の鋭い翼が生えた。

 右の籠手に握られた風たちが上下に伸び、弦を張り弓となる。弓をもって緑の風を切り破り現れた泰吾は、白いイニシャルフィストから緑の雅風の鎧へと変わっていた。


「お前たちは、ここで止める!」


 頑丈な翼を張り伸ばし、対岸の敵へ飛ぶ。


「フン」


 弓の斬撃を受け流し、泰吾の目前にカッターナイフのような刃渡りの剣が迫る。泰吾は左手に矢を生成し、それを防ぐ。


「It is so troublesome。私はあなたの相手をするつもりはないのですが」

「お前たちの行動が大きすぎる! お前たちは、ここで終わらせる!」

「I don't hate a brat like you」


 ルヘイスは極哉を壁に押し付け、泰吾の始末を選んだ。両手に握ったカッターの剣で、泰吾の弓と打ち合う。

 弓だと、接近戦は不利。泰吾は数歩引き下がり、川の上でジャンプした。翼が与える浮遊により、空中からの狙撃が可能となった。

 しかしルヘイスは、泰吾の矢をすべて切り落とす。にやりと微笑んだルヘイスは、そのままカッターの剣を投げた。まるでブーメランのように回転するそれらをよけた。が、


「You had a mistake」


 ルヘイスの言葉。その真意を悟ったときはもう遅かった。


「しまった……!」


 振り向いても事実は変わらない。泰吾の背後にあった目的、それは橋のたもと部分だった。エンシェントの力で容易く破壊されたそれは、耳では防ぎようもない崩落音を奏でていた。


「あなたの選択肢は二つに一つ。Save your friend or continue to fight discarding this bridge」

「……っ!」


 泰吾は唇を噛む。彼が提示した、空を救うか橋を見捨ててのルヘイスとの戦闘続行の二択など、即決するしかなかった。


「空!」


 泰吾は手に集めた空気の玉を空へ放つ。

 空が反応する間もなく、雅風のエンシェントは雅風の力により、橋の下からはじき出されると同時に、その姿が元に戻る。

 同時に泰吾は雅風をイニシャルフィストに戻し、崩れ始めるたもとを抑える。


「ぐっ……」


 いかに屈強なエンシェントとはいえ、橋を支えることが容易いわけがない。


「重い……!」

「ふふ、辛そうですね。それではまた。See you」


 その言葉を最後に、ルヘイスの気配がなくなった。極哉も引き取ってくれたことは喜ばしいのだが、橋の崩落が収まる様子はない。


「少しずつ安定してきたが、もしかして俺ずっとこうしなければならないのか……⁉」


 喉の水分がすべて蒸発した、と錯覚したところで、


 突然腕の重さが抜けた。


「……あれ?」


 見上げると、亀裂に不自然な光が入るとともに、徐々に修復されていった。


 何があった。

 その答えは、すぐに判明した。


「よう、逸夏」


 河原からのんびりと見上げる男が、黄色い玩具のような銃をクルクル回していた。


「……エクウス?」


 思わず泰吾は、その名を呟いた。

次回も少し時間がかかるかもしれませんが、必ず続けます。

……日常回とはいったい

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