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ゾディアックサイン  作者: カラス
古代いろいろ
56/73

大バトル()

部屋がいろいろ散らかってきた……皆さんも、散らかる前に片づけないと大変なことになります

「ふっ、甘いわね」


 マイは不敵な笑みを示した。


「それ程度で、あたしから逃げ切れるとでも思っているの?」


 まるで光の巨人のように両腕を十字に組みながら、マイは威嚇するかのようにか細い奇声を上げた。


「さあ、観念しなさい! この世に存在する最も忌むべき生命体! あたしが狩りとってやるわ!」


 マイが「キエエエエエエエエイ‼」と韓風映画の影響でも受けてきたのか、その標的に向かって飛び蹴りをした。相手もそれに応えるように、マイへ飛びかかる。

 そして、二つの影が交差し、敗者が地に伏せ、勝者がその背中に乗る。


「ぐぬぬぬ……だから……」


 マイは悔しさに、唇をかみ、


「猫は嫌いなのよおおおおおおおおお‼」


 勢いよく立ち上がる。勝者となったのは、三毛猫。茶色と白のオーソドックスなその猫は、揺らいだ足場に驚いて飛び降り、どこかへ走り去ろうとする。


「あ、こら! 逃げるな‼」


 慌てて先回りし、三毛猫の逃げ道をふさぐ。両手両足を広げ、自分の体を大きく見せているのだ。

 それを眺める泰吾は、思わず呟いた。


「六月も半ばになると熱くなるな」

「そうですね。でも、長袖はまだ手放せないです」


 小さな欠伸をしながら、空も頷く。


「思い出したかのように雨降るからな。あ、エスカ、逃がすなよ」

「わーってるわよ‼」


 目を吊り上げるマイは、頭に血が上っており、泰吾たちに視線を投げるのはほんの一瞬。ずっと猫の動きを警戒している。


「さあ、あたしたちの依頼を達成するわよ! あたしがやってみせるわ! 観念しなさい!」

「無理するな」

「猫に負けたら明日猿飛先輩に言いつけますからね‼」

「なにおう⁉ んがっ!」


 思わぬ空の毒舌に、マイが猫から目を離す。その隙を猫は逃すことなくチャンスと捉えた。ジャンプ、マイの顔に着地、そのまま蹴る。体のバランスを崩されたマイは、そのまま固いアスファルトに尻餅をついた。


「なにくそ……負けるか‼」


 怒り心頭のマイは、もう他のものは眼中にないのか、躍起になって猫を追う。しかし小さくすばしっこい四足哺乳類は、まるで彼女をあざ笑うかのように壁を泳ぐ。


「ムッキー‼」


 壁の上の猫を見上げながら、退化したように地団太を踏む人間。

 遠い未来もし人類が滅びるとすれば、、猫にこうして見下されるのだろうか、と考えながら、泰吾は空に向き直った。


「この部活動始まってからはや三日、それほど刺激的なものはないな」

「いいアイデアだとは思ったんですけど……」

「いや、いいとは思うぞ。ただ、」

「分かります、思ってたよりもちょっと地味ですよね」


 空が苦笑気味に笑った。


「いや、他にアイデアもないし、いいとは思う。見つけるまで三日かかったのは少し情けないけど」

「でも、マイ先輩のあんな姿はあまり見たくなかったです」


 空の憧れ(過去)は、今や猫に振り回され、ぜえぜえと疲弊するまで動きまわされた模様。


「あ、倒れた」

「マイ先輩よりあの猫さんのほうが強いということになりますね」

「あんたたちも見てないで手伝いなさいよ!」


 マイが怒りをあらわに怒鳴る。その美しかった髪は泥やごみその他もろもろによって薄汚れており、皇女の見る影もない。

 泰吾は空と一瞬目を合わせ、彼女の助太刀に行くことにした。


 なぜ彼らがこうして猫と格闘しなければならないのか。

 話は四日前にさかのぼる。




「すまない、もう一度いいか?」


 空の全体への謝罪のあと、彼女の提案に泰吾が聞き返した。


「だから、私たちで、学校のみんなのお悩みを解決するんです‼」


 空はこれぞ名案と言わんばかりの明るさだった。まだ雅風を扱うことができないらしいが、日常面ではもう今までの空だった。


「お悩み?」


 マイが首をかしげる。空は頷き、


「そうすれば、学校内でも私たちの地位も多少は向上します! もう生徒会長にちょっかいを出されるようなこともないですよ!」

「そもそも同じ学生にお悩みを持ち込む人なんているか?」

「そこは……まあ、私たちの口コミで広めるんですよ」

「口コミ……」

「口コミ……ねえ……」


 泰吾とマイは少し気まずそうに目を合わせる。


「俺はまあ、いいけど……」

「?」

「エスカは、その……俺以外に、友人と呼べるやつがいないからな……」


 空の中のマイの偶像を粉々にしたことを、泰吾はひそかに謝罪した。


「……と、とりあえず! そういうことで、今日は!」


 マイから漂う黒い空気を取り払うように、空は机をバンバン叩く。


「私の友達を連れてきました! 唯ちゃん、入って」


 入口を開けると、そこには空と同い年くらいの少女がいた。


「うわあ、ほんとにこんなところに部室があるんだ……」


 首くらいまでの短く切りそろえられた髪、まるで疑うことを知らなさそうな純粋な瞳。

 エンシェントではない人間が入ってきたことを理解した泰吾とマイは、慌ててホワイボードを反転させ、ゾディアックの機密情報を隠す。しかし空の友人はそれを気にすることもなく、


「世界平和部なんて、かっこいいね! 空ちゃん、ここで何してるの?」

「まあ、今日その方針を決めようとしているんだよ」

「それで人助けなんだぁ……あ、でもでも空ちゃん、明日はちゃんと弓道部出るよね」

「うん、出るよ。早く先輩たちにも謝らないとね」

「ぜえ、はあ、……空ちゃん?」


 機密情報を粗方片づけたマイは、肩で呼吸しながら空の肩を叩いた。


「つまり、どういうこと? 人助けって、」

「こうやって、困っている人から日常的な悩みを聞いて、一緒に解決していくんです! 一種のボランティア活動です」

「ボランティア……?」

「日本語のボランティアと英語のvolunteerは違うからな。奉仕活動って意味だ」

「え? volunteerもそういう意味よ」

「あれ? 自発じゃなかったか?」

「それvoluntarily。若干違うわ」

「英語って難しい」

「とにかく!」


 空は話を戻す。


「今日はその第一号として、私の友達の吉田唯ちゃんを連れてきました!」

「どうも~」


 骨が抜かれそうなやんわりとした声。そんな唯は、


「というわけで、私の依頼を聞いてほしいのです」


 と、世界平和部の最初の依頼を切り出した。




 その最初の依頼が、


「『散歩に行ったっきり迷子になったポン子さんを連れ戻してー』っていうことだけど、」

「迷子のペットって、意外と難易度高いんですね」

「さっきまで傍観してたやつらが知った口利くな‼」


 マイを破った迷子の三毛猫ポン子さんは、そのまま路地を疾走。体が大きな人間風情三人が通れない裏路地を進んでいく姿は、生態系の逆転を匂わせる。


 そのまま三人は、住宅街を超え、ショッピングモールを通過し、ビジネス街に揉まれ、川岸にポン子さんを追い込んだ。


「さあ、ここまでよ。人間様につかまりなさい! この獣!」


 今回の猫騒動で、マイが猫嫌いだということが判明した。真っ先にポン子さんに突っかかり、捕獲方法を張り倒すだったり、極力傷つけようとしている。なにかトラウマでもあるのだろうか。


「いざ! 覚悟ぉぉ!」


 今回も真っ先にマイが挑みかかった。

 そして、


「また負けてるし……」


 猫の土台となった。

 ちなみにこの後ポン子さんは、空が抱え上げることで確保した。

 それを見届けたマイは、こう叫んだ。


「猫ってゴーレムより手ごわいじゃないのよ~‼」


そんな感想を抱くのは彼女だけだと信じたい。

作者でも、以外に小さなところは忘れてしまうものですね。この前読み直していたらかなり忘れていました

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