除け者
スマホを水ポチャしました。
その上かなり間が開いてしまいました……
「しつこいわね!」
明日香はイライラしながら如意棒を振り回す。天を揺るがす勢いに人型ゴーレムたちが波に流される汚れのように消えていく。
だが、それをすぐに補充するように無数の人型ゴーレムが湧いてくる。筋斗雲で空に逃げようものなら、人型ゴーレムが同胞をブーメランのように投げつけてくる。
「睦月さんは帰ってこないし、早とちりお姫さまたちは中に行くし、私だけ取り残されるし、もう最悪……!」
人型ゴーレムに八つ当たりし、その脳天を叩き割った。しかし、明日香の反撃をあざ笑うように、人型ゴーレムたちは数が減らない。
明日香にとって、人型ゴーレムたちの相手などいくらでもできる。体力をセーブしながらであれば、この大群でさえ蹴散らせるだろう。
しかし、スタジアムが城に変質した時点で、もう空も中にいたのだ。羽月もきっと人質として囚われているだろう。
「こんなことなら、リーダーになるんじゃなかった……」
如意棒を握りしめながら、明日香は毒づく。少し離れようと飛び退くと、
バン! と、乾いた音が耳を貫いた。と同時に、背中に走る熱い痛みとともに、明日香の体がよろめく。
「……なに?」
エンシェントのさほどではない痛みに振り向くと、
そこには銃口があった。
それは、全身をミラーボールのようなボディに包まれた人物が手にしていた。実際に目にするのは初めてだが、その存在の名称は先日の情報から理解している。
「痛いわね、いきなりなにするのよ」
近寄る人型ゴーレムたちをなぎ払い、明日香はそのロボットらしき人物、αシステムに尋ねた。
だが、αシステムは彼女の言葉などまるで聞こえていないように、
「これがエンシェントの耐久力ですか。銃弾を受けてその程度とは、やはり化け物ですね。千種さん、いいですね」
あのヘルメットの通信機能でも使っているのか。明日香は如意棒を伸縮させて背後の人型ゴーレムたちを蹴散らしながら、αシステムの挙動に注意を払う。
αシステムは銃を下ろさず、
「警告しましょう。投降しなさい」
「どうして私が投降しなければならないのかしら? ブリキ人形さん」
「……エンシェントというのでしたね。我々はあなた方をゴーレムと一切区別しない方針を固めました。駆除されたくなければ、自首していただきたい」
αシステムは、明日香へ不意打ちを狙う人型ゴーレムの心臓を貫きながら言った。まったく視界に入れずにそれを行う芸当は、手練れでなければ難しいはずだ。
「悪いけど、私にも事情というものがあるの。国家権力相手でも、簡単にそうはいそうですかと言えないのよね」
「こちらは強行手段でも可能なのですが」
「そうしてもらっても構わないけど、私が訴えたらどうなるのかしらね。逮捕状もない警察に押入られたとね。信用が揺れるんじゃないかしら」
αシステムから苛立ちを感じた。
しばらく睨み合っていると、機械の頭部からオペレーターらしき声が聞こえてきた。
『仲代さん! 今は、彼女の逮捕より、ゴーレム掃討を優先するべきです』
すると、αシステムは一瞬迷うも、銃口を人型ゴーレムへ向けた。浴びせられる銃弾が、人型ゴーレムたちの息の根を止めていく。
「あら? 私のことはもういいの?」
「同僚が少し騒がしいので。まずはこちらから先に済ませてしまいます」
接近したものを膝に備え付けられた小型電動ノコギリで両断し、αシステムは、
「しかし、我々警察があなた方をを危険人物とみなすことには変わりませねん」
「ただの人間が、人間やめた私たちに歯向かうの?」
「どうかな? 結局いつだって勝つのはただの人間ですよ」
明日香は口元に嫌悪を浮かべながら、人型ゴーレムの体を粉砕する。
やがて、人型ゴーレムの数が半分ほどがいなくなったところで、明日香とαシステムは目を合わせる。ゴーグルのような無機質な黒いガラスの先では、どんな感情が表れているのだろう。
だが、その時は語るほど長くはなかった。
「⁉︎」
αシステム以上に無機質な敵意。それに反応できたのは、エンシェントとしての経験あってこそだろう。
明日香は如意棒を強く地面に突き刺し、
「盾となれ!」
すると如意棒は、持ち主の意思に従い、四角形に巨大化する。
それがαシステムの盾にもなった瞬間、それを支える明日香の手に衝撃が走る。その原因がαシステム以上のオーバーテクノロジーであることを理解したのは、如意棒を元の大きさに戻してからだ。
「なんだ、あれは……?」
αシステムもまた驚愕している。白銀のボディと、頭部に目立つ赤いランプ。
「報告にあったわね。あれがΣロイドということかしら」
明日香が油断なく言った。
すると、Σロイドは両腕をこちらに向けた。二又のフォークのような形のそこから赤い電気が迸り、
それらが凝縮したエネルギー体となり、二人に放たれた。
「⁉︎」
明日香は大きく飛び退いて退避、αシステムも素早くない動きでなんとか直撃を避けた。
赤い稲妻が走った地面は地割れのあとのように大きな亀裂が発生し、奈落の底まで続いていた。
「なんだ、こいつ……?」
警察からすれば、Σロイドの存在など予想外だろう。
「簡潔に説明すると、この状況の原因のお仲間よ」
「原因の仲間? これは自然現象ではないのか?」
「発掘調査時に目覚めたゴーレムの数なんてとうに超えているわよ。前回の鬼ゴーレムが大量発生したときも、今回も人為的なものよ」
「人がゴーレムを使役するというのか……?」
Σロイドは、ジリジリとこちらとの距離を詰める。追付いする人型ゴーレムたちも相まって、明日香の額を汗が流れる。
「私たちを城のパーティーに招待したくないのでしょうね。招待したのはあくまで美月さんたちだと。木偶人形さん、このカラクリ雷神を退治するの、協力願えないかしら?」
「なぜ私が? 私は敵のつもりなのだが」
「いいじゃない。せっかくそろってパーティーののけ者扱いよ。一緒に殴り込みしませんこと? 素敵な紳士さん。それとも、現在の技術だけであのロボットに勝てると思うの? まあ一般ゴーレムぐらいなら太刀打ちできる……のかしらね?」
「試してみますか?」
αシステムは、銃口を明日香に向けた。しかし、Σロイドの妨害で、防御に専念せざるを得ない。
「……! 了解しました……」
突然αシステムは悔しそうに呟いた。彼が上層部から気にくわない命令を受けたのであろうことは、次の彼の言葉から分かる。
「エンシェント、いう通りにしてやろう……」
「話がわかる上司がいて良かったわ。私にとってはね」
「……片付いたら、次はあなたですよ」
「やれるものならね。貴方の報告書に、エンシェント討伐は断念するべきと書かせてあげる」
明日香は如意棒を振りまわし、Σロイドへ向ける。
「さて、あの悪趣味な金属片に思い知らせてあげようかしら。人間様の意地と、除け者の恨みを」
明日香が如意棒で挑むと同時に、αシステムはかく乱として、発砲した。それはΣロイドの反撃手段である腕の自由を奪い、雷撃を発射させない。
さらに、明日香の如意棒が右肩に命中した。
孫悟空のごとき怪力にΣシステムは耐えられず、右肩から先が大地に落とされる。さらに、如意棒の一突きでΣロイドを人型ゴーレムの軍勢に投げ渡し、
「案外除け者コンビでも、戦えそうね、私たち」
明日香が上機嫌になった。
もう書き始めてから二か月になります。早いものです




