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ゾディアックサイン  作者: カラス
始まり
4/73

二人のエンシェント

さあさあ、新キャラ出しますよ!

みんな好きになってくれるといいなあ……

 泰吾が高校に復学したのは、それから一週間後。マイの権力により、泰吾が入れられたのは彼女と同じ二年B組。今時珍しい竹刀持ちのヤンキー女性講師の紹介でマイの隣に座った彼に、質問の嵐が吹き荒れたのは昼休みのこと。


「高校中退したの? なんで!?」

「一年間のブランクなんだよね? 何してたの?」

「親はなんて言ってた? おれにも学校中退、教えてくれ!」


 といった、予想通りの質問から始まり、


「なあ! サッカー部入らないか!?」

「いやいや、バスケ部だろ! その身長なら絶対レギュラー取れるぜ!」

「ねえ! アイドル部に入りましょうよ! 男性ボーカル募集してるわよ!」


 といった部活の勧誘まで。


 放課後になってもそれは変わらず、結局マイに連れ出されるのは、四時を少し過ぎた時間になっていた。




「さあ、着いたわ」


 マイが泰吾を連れたのは、校舎三階の外れ。用がない限りは来ることがなさそうな、一室以外は掃除ロッカーしかない場所だ。曲がった角の先にあり、廊下から眺めただけでは分からない。


「ここは?」

「ここがあたしの、まあ名目上は部活ね」


 壁に不自然なまでに存在するドア。左右には掃除用具や使われない教材が山積みになっており、このドア以外この場所に訪れるものはいないと改めて思い知らされる。現に半年もこの学校で掃除をしてきた泰吾でさえ、今の今までここのことは知らなかった。

 窓のないドア。マイはどこから調達してきたのか、ドアノブに鍵を差し込む。


「さあ、ようこ……あら、開いてる? コホン。ようこそ、我が部、世界平和部へ!」


 コメントし辛い部活名のコールとともに、マイは盛大に扉を押し開けた。U字型に備え付けられた机が、泰吾を迎えた。

 外とは違い、広くはないがとても整頓された部屋だった。壁はすべて白一色で、奧に付けられている時計が唯一のインテリアだ。右には大きなホワイトボードがあり、色々な遺跡の写真と、それに関連しているのであろう言葉が並べられている。


「あら。誰かと思えば思い上がりのアホ姫さまじゃない」


 入ってそうそうマイに罵声を浴びせたのは、机の中心に座っている人物。

 マイが激しい美しさを持つのなら、彼女は静かな美しさだろう。水のように静かな雰囲気を醸し出し、一国の姫相手でもアホなどと無礼千万を口にした。

 スレンダーな体つきや、水色のポニーテールは、穹窿が多いマイとは対照的で、まさにマイの真逆の人間だ。鋭利な目は、嘘を見抜けるほど鋭そうで、泰吾は少し畏怖を覚えた。


「何かようかしら? 今日は報告日ではないから、帰っていいわよ」

「いきなりムッカツクわね、明日香(あすか)


 口を引きつらせるマイは、明日香と呼ばれた女性に怒気を含めながら反応する。明日香は気にも留めない様子で、机の紅茶を口に運んだ。


「……ふふ。で、脂肪が有り余るせいで体重を無駄に増やしている、コネで色々当たっているお姫さまは、一体何用で来られたのでしょうか?」

「……戦力紹介よ」

「戦力紹介?」


 ここでようやく出番が回ってきた。マイの手に従い、一礼しながら前に出る。


「逸夏泰吾です」

「新しいエンシェント?」

「ええ、そうよ! どう? あたしの人徳で手に入れたのよ!  じ・ん・と・く・で! あんたじゃ未来永劫できないでしょうねえ。今はまだ右も左もわからないヒヨコでも、そのうち……」


「こんにちは!」


 マイの紡ごうとしている言葉が、扉から入ってきた大声で閉ざされた。振り向けば、ドアに挟まれたマイの隣で、ショートカットの少女がこちらを見つめていた。


「あれ? 新人さんですか?」


 彼女はこちらを好奇の目で見上げている。くりくりした瞳には、一点の曇りもない。頭一つ分背が低い彼女は、明日香に比べて素直そうだ。四肢はそれがとても健康だと証明するようにとても白かった。


「マイ先輩、新人さんを連れてきたんですね! 初めまして、私は(むつ)()(そら)といいます」

「ああ、ほら空ちゃん。待って待って」


 自己紹介を返そうとすると、マイがそれを妨害。また出番がなくなった。


「みんなまとめてやりなさいよ。まずはほら、逸夏泰吾、あんたからよ」

「なんで貴女が仕切っているのかしら?」


 明らかにいらだっている明日香。


「そんなに自分が上の立場に立ちたいのかしら? 権力破れのお姫さま」

「うるさいわね! あと話をややこしくしないで! あとでゴーレムやらエンシェントやらの説明もしなくちゃいけないんだから! ほら、さっさとする!」

「えっと、今日学校に復学した逸夏泰吾です。よろしくお願いします」


 ペコリとした泰吾のお辞儀に、拍手を送ったのは空だけだ。マイが「それじゃ、空ちゃん」と指図すると、空が泰吾の前に進む。


「なんか、もう一回やることになりましたけど、改めまして……(むつ)()(そら)です! ここの他では、弓道部やってます!」


 空は泰吾の手を掴み、満面の笑みでこう付け加えた。


「これから一緒に頑張りましょう! 分からないことがあったら、なんでも質問してください!」

「あ、ああ……」


 泰吾は、空が差し出した手を握り返す。握手などいつ以来だろう。


「ふふ。空はウチの可愛い後輩よ。頭撫で心地がいいのよ~。あー、はい、次―」


 マイはできれば次に行きたくないという表情で言った。彼女の視線は、泰吾の見た範囲では一歩も動いていない明日香に注がれている。マイの「あんたもやりなさいよ」という視線で、彼女は重い腰を動かした。


「部長の猿飛明日香よ」


 その場から立ち上がった明日香は、静かに告げた。


「本当に役に立つの? 足手まといの戦力はいらないわ」

「あら? 確かにまだ未成長だけど、ポテンシャルは考えてあげたら? 戦えなくはないオーパーツらしいし」

「どのオーパーツかしら? 入手経路は? 道端で拾ったとか言わないわよね?」

「それは知らないけど……」

「あ、あのさ……」


 少し震えながら、泰吾は手を挙げた。


「この前から、エンシェントだのオーパーツだの、その他もろもろの説明を受けていないのだが、そろそろしてもらってもいいか?」

「ああ、そうだったわね。この石頭が惨めな体張って自己主張するものだから、忘れかけてたわ」

「あら。脂肪の塊な姫さまが何か言ってるわね。おなかが空いたから焼肉を食べたいの。自分をその下品な剣で焼いてくれないかしら」

「なんですってえええええええ!?」

「なによ!?」


 もう新参者への解説も忘れ、マイと明日香は額をぶつけ、いがみ合う。「あはは……」と苦笑する空が、全ての解説を引き受けた。


「それで、えっと……逸夏……先輩?」

「え? 先輩?」

「マイ先輩と一緒だったので、先輩かと……それで、ゴーレムやエンシェントについてですよね?」

「あ、ああ。正直、何一つ分からないから、できれば専門用語全て解説していただきたい」

「分かりました」


 空はホワイトボードに向かい、それを裏返す。びっしり書き込まれていたものが、真新しい白へ代わり、泰吾は授業を受けるように反対側の席に座った。奥でとうとう殴り合いにまで発展した女性たちが気にならないと言えば嘘になるが。


「まず、エンシェントやゴーレムについて説明する前に、古代文明について説明します」


 ホワイトボードの左上に描いた楕円に、大きく『古代文明』と書き記す。


「えっと……あれ? いつだったっけ? まあとにかく、すっごい昔に、今よりも高度な文明をもった人類がいたんですよ。何万年も前から」

「ああ、アトランティスっていう奴か」

「それもありますけど、他にも色々あるんです。アトランティスそのものはまだ学術的には認められていませんけど。それで、そこの文明はなぜか滅んでしまったんですけど世界各地には、当時の人々が作った遺跡や、当時の物がたくさん残っているんです」

「そうなのか……」

「これが前知識ですね。あと、オーパーツというのは、そもそもそういう古代の遺跡の中から、当時の技術力ではどう考えても作ることができないもののことを意味します。水晶ドクロというものを聞いたことはありませんか?」

「名前くらいなら」

「ああいう、オカルトじみたものです。これは一般的にも広まっている言葉なので、基礎的なところ以外は割愛しますね。まずは、ゴーレムについてです」


 空は、古代文明の隣に、同じようにゴーレムと書いて太枠で囲む。


「私から説明する前に、先輩が知っているゴーレムとはどういうものかお聞かせ願えますか?」


 空の質問には簡単に答えられる。ゴーレムは、新たに指定された災害の一種であり、マニュアル本も何冊も出版され、一般常識にもなっている。


「確か、十年前から出現し始めた自然現象と扱われているな。どこに出現するのか全く予想も付かない。ただ、機械的に全ての物を破壊する。ただし、お目にかかれる機会は。通常は町で通り魔に襲われる以上に珍しい、でよかったか?」

「はい。それが一般に広まっている事実ですからね。正確には消滅ではないらしいですけど、それはまた今度」


 空はコホンと咳払いをして、


「ゴーレムというのは、この古代文明の自立型起動兵器のことです。本来は眠っているはずだったのですが、十年前、このゴーレムが大勢保管されていた遺跡がある科学者によって発見され、目覚めてしまったのです」

「人為的なものだったのか?」

「いいえ。これはあくまで事故ですよ。現に、その科学者さんたちが私たちの組織のトップですから。ああ、これもまた別の機会に」

「ああ」

「まあ、そういうわけで、ゴーレムは目覚めた瞬間、ひと暴れした後、どこかに消滅し、それから無差別に色々なところに現れるようになったのです」

「それが、この前、それと……」


 一年前のライブだったのか。

 泰吾はあの悲劇のことは口にせずに呑み込んだ。空は頷き、


「ゴーレムは、古代人たちが自分たちの生活を豊かにするために作ったと考えられています。ペットにして暮らしたり、作業効率を上げたり。でも今は、長い年月の経過により、中枢プログラムが劣化、ただ暴走を繰り返すだけの兵器になってしまいました」

「人間が自らのために作ったものが、人を襲っているのか」

「はい。今までは一か月に一度でも現れれば多いほうでしたけど、最近は毎週のように出現頻度が上がっています。それに、ゴーレムの数も、最初の遺跡の中にいたと考えられる数はとうに超えているんです」

「新しく生まれているということか?」


 空は「分かりません」と首を振り、


「でも、ゴーレムにやられてばっかりじゃないです。そのために私たち、エンシェントがいるのですから!」

「ancient……話を聞いた後だと、古代文明のものだからって、そのまますぎるネーミングだな」

「私も同感ですけど、かっこいいからいいじゃないですか! エンシェントは、ゴーレムと同じように、遺跡に眠っていたオーパーツのうち、人に能力を授けるものを宿した人のことです」

「遺跡にあった……オーパーツ?」

「はい。ここでのオーパーツっていうのは、こういう未知の力を秘めたもののことを示します。遺跡には、古代人たちの生活そのものが残っていて、その中には、……あまり言いたくないですけど、戦争のために使われた兵器も残っていたんです。人と人が争うための。当時の兵器は、人を直接強化して使用するものらしかったです。残っていたオーパーツを解析して、体に宿した人が、エンシェントです!」

「戦争兵器だったのか……でも、俺にはオーパーツに触れたこともないのに」

「そうなんですか? なら、どうしてエンシェントになれたんだろう……」


 空は小首をかしげるが、どうやら彼女には心当たりはないらしい。他の意見を聞こうとマイと明日香に尋ねようとするが、


「あの、先輩方、少し聞きたいことがあるのですが」


 しかし、先輩方は取っ組み合いに忙しく、後輩の言葉に耳も貸さない。


「そもそも、貴女はいつも無鉄砲なのよ! どうせあの新人も、事情も聞かずに拉致してきたんでしょう!?」

「拉致とは失礼ね! ちゃんと話し合ったわよ! それに、そもそもわたしはあいつを清掃員として雇っているから、その延長線上よ、これは!」

「大体、」


 明日香はマイを突き飛ばし、泰吾を指差す。


「貴方、本当にゴーレムと事を構えることが分かっているの? 覚悟も何もない人に、ましてやどこの馬の骨とも知れない男に、背中を預けられるものですか。あとこの能無し王族も」

「ついででもケンカなら買うわよ」


 マイの言葉はまあおいて置き、何やら緊迫した雰囲気になってきた。


「……一応言っておくが、俺はまだゴーレムとの戦いとやらを全く理解していない」

「でしょうね」


 明日香は納得したように腕を組む。


「でも、俺は後悔したくない」

「後悔?」


 泰吾は手を見下ろした。


「何もないときでも、これだけ後悔しているんだ。あの時、他の行動をしていたら、他の動きをしていれば、何かが変わったんじゃないのかって。今伸ばせる手があるなら、精一杯伸ばさないと、あとで絶対に後悔する。だから俺は、エンシェントになりたいと、今本気で言える」

「死ぬより後悔のほうが嫌なの?」

「少なくとも今は」


 静かな視線の交差が、明日香との間に結ばれる。それが長く交わされているように感じるが、実際は数秒のことでしかない。


「……睦城さん、今日校庭は使えるかしら?」

「校庭? どうして……?」

「あら、決まっているじゃない」


 明日香は髪を靡き、泰吾に衝撃を走らせる言葉を口にした。


「私と逸夏泰吾の決闘よ! 貴方の実力が低い場合、即座にここから消えてもらうわ!」

親の顔よりも見た光景

やっぱり異能バトルものなら、一度は仲間内で戦わないといけませんよね!

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