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ゾディアックサイン  作者: カラス
月の夜空
34/73

最悪の敵

腹壊した……

皆さんも体調にはご注意ください!

「いち……にぃ……さん……」


 極哉はゆっくりとこちらの人数を数え、


「ああ……いいぜ。まとめて相手してやるよ」


 一度にやりとちを吊り上げるとともに、走り出す。


「来る!」


 泰吾は、極哉の蹴りを受け止め、裏拳を放つ。おそらく防がれるだろうと放ったそれは、

 極哉の腹に命中した。


「ゔゔ……ははぁ!」


 痛みは一瞬。すぐに快楽に転じた極哉に、泰吾は思わず離れる。

 昨日は夜中だったので暗がりのせいで彼の体に蛇の入れ墨があるという印象のみだったが、今だとその感想はかなり変わってくる。

 紫、緑、黒など禍々しい色の蛇たちが複雑に絡み合いながらタスキのように極哉を包んでいる。蛇たちの背景には焼き尽くす炎が描かれており、下手な服よりも派手だった。


「遊ぼうぜ……お前ら」


 すると、入れ墨の蛇たちが彼の体から浮き出し始める。


「な、何ですか、あれ!?」

「あれがやつのエンシェントだ」

「クク……」


 泰吾の言葉を認めるように、極哉は笑み、


「ラァ!」


 極哉の腕から蛇が泰吾を襲う。

 慌てて体内のイニシャルフィストに呼びかけ、蛇を殴り倒したのは、もう目と鼻の先に迫ったころだった。


「空、エクウス! 行くぞ!」


 泰吾がエクウスと格闘を始める。遅れて雅風とクラウンも、それぞれの持ち主をエンシェントに変貌させた。

 空は天井まで上昇、弓を引く。それを察した泰吾は、


「ハハハハハ!」


 笑いながら突進する極哉の回し蹴りを躱し、両足で蹴り上げる。

 ノーガードだが、飛距離が足りない。そう泰吾が思うのも束の間、


「オラオラオラ!」


 エクウスの銃弾を命中させることで、無理矢理飛距離を稼ぐ。


「ありがとうございます! エクウスさん!」


 自分の水平線上に飛ばされた極哉に、空は矢を放った。

 空中で極哉が体をねじったので、決定打は諦めかけたが、


「……来いよ!」

「⁉」

「えっ⁉」


 またしても極哉は、それを体で受けた。凝縮された風が蛇と極哉の皮膚を削り、ジャンクパーツの山に投げ入れる。


「あいつ、どうして防御しないんだ?」

「よくいる、痛みが快楽になる人でしょうか?」


 泰吾の隣に降りたった空も疑問を口にする。しかし、それをエクウスは否定した。


「あれはんな生易しいもんじゃねえと思うがな」

「は、はは!」


 再び姿を現した極哉の手には、白い牙が握られていた。昨夜の毒牙だと理解した泰吾は、


「二人とも、あの牙には絶対に触れるな。猛毒が塗られている」

「はい」

「頼まれてもゴメンだがな。あんなもん」


 極哉が、再び躍りかかる。サーベルで応戦するエクウスだが、牙から飛び散った毒がエクウスのコート先端を溶かす。


「やべえ代物だな、こりゃ」


 極哉の背後に回った泰吾が彼の頭を蹴り飛ばす。常人ならば骨折を免れない威力だが、極哉は少し姿勢を崩しただけだ。


「なっ……⁉」

「いたいぜ……ラァ!」


 極哉は手を地につけ、体を回転、泰吾とエクウスを蹴る。

 さらに、ついでとばかりに二人の体を毒牙に舐めさせる。


「ぐぁ!」

「っつ!」


 泰吾の右足、エクウスの左手。染みる痛みは、昨夜と変わらない。

 すさかず極哉は、エクウスが落とした銃を拾う。


「面白そうなオモチャだな。おい」

「テメッ……返しやがれ!」


 しかし、エクウスへの返事は顔面発砲。全身を一回転させた威力に極哉は感心し、


「こいつはいい……なぁ!?」


 狙いを定めず乱れ撃つ。泰吾とエクウスを巻き込みながら、廃工場をハチの巣にする。

 更に続けようとする連射を、空の弓がとめた。彼の手の甲に矢を撃ち、銃を落とさせたのだ。

 極哉は憎しみと嬉しさを同時に浮かべ、極哉は明らかに次の獲物を彼女に定めている。


「空!」


 極哉は咆哮しながらも、矢を受けてもその疾走を止めない。矢だけではどうしようもない距離になったとき、空は弓で極哉の手を振り払う。

 だが、極哉の読めない動きに、一瞬で弓を弾かれる。


「えっ……?」


 信じられない顔は、苦痛の歪みに変わる。極哉が彼女の弓を棒のように駆使し、打撃武器としたのだ。


「本当に楽しいよな……エンシェントってのは」


 極哉は肩を震わせながら笑う。

 その足でか弱い空の頭を踏みなじり、


「お前らも、そう思うだろ?……」

「空から、」


 自然と泰吾の体が怒りに震える。エクウスがそれに気づき、落ち着かせようとするがもう遅い。


「離れろおおおおおお!」


 ブースターとともに、泰吾が極哉を引っつかみ、廃工場を突き抜けて運河まで追い込む。


「は!ハハハハハ!」


 極哉と地を転がり、対峙すると、彼がますますモンスターじみた笑い声を上げた。


「お前、よくみたら昨日のやつか。いいぜ、もっと遊ぼうぜ!」


 毒牙とともに迫る毒蛇。泰吾が迎え撃とうと身構えると、

 重い銃撃音。

 それが立て続けに、極哉の体に埋め込まれていく。


「なっ……」


 それはとどまることを知らず、なにが起こっているか分からない極哉の全身を次々と貫く。


「なっお前ええええええ!」


 呪う声を陸地の方角へ投げながら、極哉はそのまま海岸から投げ出され、運河へ落下した。水しぶきとともに、彼の姿が暗い青に飲まれていく。


「……」


 一瞬の敵の喪失に、泰吾は言葉が出せなかった。極哉が呪った方角へ視界を移すと、


「……」


 ロボットのような人物がそこにいた。


「なんだ、あれ……」


 泰吾は警戒を怠らない。

 それは、銀色の丸みを帯びたボディだった。太陽の光を反射してまばゆいそれは、言ってしまえばミラーボールを人型に当てはめたようなものだ。

 顔は体と違って複雑に作られている。目の部分は黒いバイザーが埋めており、鼻と口は仮面の無表情さを全面にしていた。

 ロボットは歩調を変えることなく海岸へたどり着き、極哉が消えた海を見下ろす。


「ターゲットロスト。着弾箇所と落下地点から、生存は危ういと思われます」


 ロボットから聞こえたのは、まぎれもない男の肉声。人間があのロボットを装着しているということか。

 泰吾はおそるおそる声をかける。


「あの、あなたは……」

「よって、現場判断によってミッション変更」


 ロボットはその場で九十度回転。泰吾を正面から向き直り、


「独皮極哉と戦闘を行なった正体不明との戦闘に入ります」


 右手の銃を向ける。


「え……」


 泰吾が何かをするには、時間がない。

 無情にも放たれた銃撃は、泰吾を衝撃と爆炎で包み、その視界から青空を消した。




「おい、今度はなんだ!?」


 爆音のためにきてみれば、エクウスと空を待っていたのは泰吾と見知らぬ敵。


「おい逸夏、生きてるか?」

「さすがにこれで死んだりはしない……」


 地に転がる泰吾は毒づきながら起き上がる。敵らしき機械兵が銃口を向けているから、明らかに新手の敵だろう。


「あのクソ野郎はどうした?」

「海に落ちた。あいつがやった」

「そんなっ! 早く見つけないと……」

「諦めろ。海で探すのか?」


 飛び込もうとした空の襟を掴み、エクウスは彼女をロボットに向けさせる。


「エンシェントだ、どうせ生きてる。もうここにはいねえに違いねえ。それよりもこいつをどうにかする方が大事じゃねえのか?」


 ロボットはエクウスたちを一瞥し、銃を顔に近づける。


「ターゲット増加しました。ミッションを変えず、一人以上を確保目標として戦闘を開始します」

「やっこさんもやる気みたいだぜ」


 エクウスはクラウンのサーベルと銃を手にする。あまり乗り気ではない空は泰吾に肩を貸しており、彼女の援護は期待できない。


「逸夏、てめえはもう無理か?」

「戦えなくはない」


 泰吾は、空の肩から離れ、隣にそびえる。躊躇いがちな空を落ち着かせ、


「相手は人間だろうから、あくまで戦闘不能までな」

「へっ。悪いが俺は全力で行くぜ。そうしたいならてめえが勝手に止めろ」

「分かった」

「さて、暴れさせてもらうぜ!」

「え、待ってください!」


 空の制止を振り切り、エクウスと泰吾は駆け出した。

 ロボットは無機質な動きで照準を定め、未来的な銃から弾丸発射。


「オラオラオラ!」


 しかしエクウスは銃弾を弾きながら突き進む。肉薄し、サーベルに金属を味あわせる。火花が散るも、ロボットは少しよろめいたのみに留まり、


「抵抗しますか。素直に投降したほうが身のためですよ」

「悪いな、俺はそういう堅いやつが苦手なんだ」

「残念です……むっ?」


 ロボットは、次の気配に気づいたようだ。背後に忍び寄った泰吾の蹴りを回避し、その頭部へ引き金を引く。

 しかし、彼の身体能力は常軌を逸している。逆さ飛びで全弾から離れ、倉庫の壁を伝って高く跳ぶ。

 そのままロボットの背後に着地、動きを抑えるように羽交い締めにした。


「やめて下さい、どうしていきなり襲うんです⁉︎」

「くっ……知れたことを……ふんっ!」


 ロボットは泰吾を引き離し、その腹を蹴る。距離を稼ぐや否や、彼の体に無数の弾丸を浴びせた。

「あなた達が危険だからですよ……!」

「危険……?」


 ロボットは語り出した。


「あなた達のそれは何ですか? 国以外のものが持つにはあまりにも危険です」

「……不安分子は管理下に置きたいか。警察なら当然だな」

「警察?」

「胸のところにある」


 泰吾が指差すところに注目すれば、確かにこの国の警察機関のシンボルが右胸をはじめ、両肩や腰などに装飾されていた。


「へっ。この国は結構自由だと聞いたが、以外に縛りがあるんだな」

「縛りというか、自分と違うものは徹底的に排除したいって考えかな」

「なるほど。そりゃ確かにエンシェントは目の敵にするわな」


 納得していると、ロボットがまた引き金を引く。エクウスはその流れを見切り、銃弾を全て切り落とした。


「お前が吹っかけたケンカだ。痛い目見ても文句言うんじゃねえぞ!」

 エクウスはロボットに最接近、サーベルを向けた。ロボットは数回それを避けたあと、銃を腰のホルスターにしまい、右膝に装備されているダガーを取った。

 電動でチェーンソーのように振動する刃は、むしろエクウスのサーベルに傷を付けた。


「やるじゃねえか。オラァ!」


 だがエクウスは尻込みすることはない。ダガーにいくら自身とサーベルを傷つけられようとも、ひたすらに攻撃を繰り返す。


「ぐぉっ……!」


 やがて、先にロボットがダウンした。エクウスは満足そうな顔で、


「ケンカ売るなら、相手を見極めてからにするんだな」


 その首元を摘む。


「ったく、こんなに機械くっつけやがって。これ以上……」


 だが、エクウスはそれ以上の言葉が言えなかった。突然の全身を駆け巡る痛みで、思わずロボットを離してしまった。


「誰だ!?」


 銃弾が原因だと理解したエクウスは吼える。


「動くな!」


 すると、その銃弾は泰吾と空の足元にも撃たれた。驚いて後ずさる二人にも牙をむけたそれは、

 スーツ姿の女性。両手でピストルをエンシェントたちに向けている。

 明らかにエンシェントではない。生身の人間だ。

 エクウスが彼女へ攻撃をしかけようとした、まさにその時。

 ロボットが最後の力を振り絞り、エクウスを押し倒した。


「なっ……!? 離しやがれ!」


 しかしロボットは、サーベルで切っても銃で撃ってもビクともしない。やがて女性はこちらに近づき、


「あなたたち三人、器物破損、暴行罪、銃刀法違反、公務執行妨害で逮捕します!」


 目を奪う素早さでエクウスに手錠をかける。そのまま唖然としている泰吾、空もその餌食となった。


「「……なんで?」」


 泰吾と空は同時に呟いた。

この前少し見返したら、誤字が出るわ出るわ……

自分の実力不足がもどかしい……

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