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ゾディアックサイン  作者: カラス
月の夜空
28/73

敵の敵は...

やっとスマホに慣れてきた気がします

 エクウスとルヘイスの戦いは佳境へ差し掛かっていた。渋谷の道玄坂を行き交う二人は、ただの人間にはもう追いつけないスピードに達していた。

 だが、イニシャルフィストによりエンシェントという人外の領域へ足を踏み入れた泰吾にとって、その激戦を見抜くのは容易い。ブースターの助力もあって、あっさりとルヘイスを捕まえることができた。


「なっ……shit!」


 彼のローブを下方へ引き、ルヘイスの体が軌道を逸れる。ルヘイスの上を取った泰吾は、そのままブースターの炎を利用し、ルヘイスの体をくの字に曲げる。


「ぐっ……まだですよ……!」


 しかしルヘイスも諦めていない。カッター型の剣を泰吾の体に切りつけて引き離し、巧く着地。体制を崩すことになった泰吾は、エクウスに引き起こされることになった。


「やってくれますね」

「まだだ!」


 泰吾はすぐに立ち上がり、ルヘイスへ挑む。彼の拳が幾度とルヘイスの剣と激突を繰り返すが、進展はなく、このままでは泰吾がジリ貧になる。

 そこへ、エクウスが発泡した。弾丸は大きく動き回る二人の乱戦に混ざり、

 イニシャルフィストと剣の接触の瞬間、剣に命中した。

 ガキンと甲高い音とともに、ルヘイスの剣が被弾箇所からポッキリと折れてしまった。


「Oh my....!」

「今だ!」


 泰吾は最低限の力を込め、ルヘイスの腹に拳を叩き込む。

 しかしルヘイスも後ろに下がろうとしていたから彼へのダメージは大きくなく、少し口を拭わせるのみにとどまった。

 エクウスは泰吾の隣に立つ。


「てめえ、なかなかやるじゃねえか」

「どうも。あんたの方がおかしい性能してる気がするけど」


 泰吾はそう返し、再び戦闘体制に入る。


「へっ。奴は俺の獲物だ。これ以上は手出すんじゃねえ」

「悪いが少し難しい。奴がどうも悪事を働くみたいだからな。必要以上に噛み付いている」

「へっ。悪事か。まあ俺にとっちゃどうでもいいがな」


 エクウスはサーベルをルヘイスに突きつけ、


「俺は奴が気に入らねえ。だからブッ潰す。それで十分だろう!」

「……滅茶滅茶な奴」

「悪いな。俺は滅茶滅茶な生き方しかできねえんだ」


 そしてエクウスは銃口を泰吾の額へ押し当てた。驚いた泰吾に、エクウスはこう語った。


「俺の敵は俺が嫌いな奴だ。てめえは俺の敵か味方か?」

「……さあな。少なくとも今は敵ではないとだけ答えておく」

「……ふぅ」


 二人の様子を見たルヘイスは、まるでお手上げのように両手を挙げた。


「降参しましょう。さすがに分が悪すぎます」

「逃がさねえよ」

「いえ、逃げますよ。Σロイドもこうやって回収できますし」


 ルヘイスは再びあのパソコンを取り出した。エクウスがすさかずそのパソコンへ発泡するが、ルヘイスの腕から飛び出した触手がその銃弾を全てはたき落とす。


「ふふ。まあ、いいデータは手に入りましたし、亀ゴーレムも無事。No problem」


 ルヘイスは再びパソコンにカードを挿入。すると、後ろで空たちと戦っていたΣロイドが亀ゴーレムと同じように消えていく。


「さて、私はこの辺りで失礼しましょう」

「逃すか!」


 お辞儀をしたルヘイスへのエクウスの発泡はすでに間に合わず、銃弾が巻き上げた煙幕に紛れ、ルヘイスの姿は見えなっくなっていた。


「ちっ……あの野郎、次あったらただじゃおかねえからな」


 エクウスが毒ずく。

 しかし、泰吾には彼にも聞きたいことがあった。


「なあ、あんたのそれ、エンシェントか?」

「あ? 見りゃ分かんだろ? 」


 エクウスは迷いなく泰吾へ銃を向けた。思わず静止した泰吾を鼻で笑い、


「勘違いしているようだが、別に俺とお前は同じ敵がいただけで仲間でも何でもねえ。気安く話しかけんな」

「それが事実でも、発泡は許しませんよ」


 だが、そんな彼も同じように射程内だ。

 Σロイドとの戦闘を終えた空が弓を引き、いつでもエクウスの脳天を撃ち抜くつもりだ。

 しかし、それでもエクウスは眉一つ動かさない。むしろこの状況を楽しんでいるようにすら見える。


「なら、やるか?」


 エクウスのサーベルが空の首に当てられる。それは、矢を射れば、こちらも仕返しができることを示していた。


「……」

「……」


 泰吾、空、エクウスの間に緊迫した空気が流れる。誰かが行動すればそのものが手痛い反撃を受ける。

 そして、


「はいはい、そこまでそこまで」


 しかしその雰囲気は、美月の合いの手によって崩された。空の矢とエクウスのサーベルを下がらせ、


「みんなそんな警戒しないの。えっと、ごめん、君名前なんだっけ?」

「エクウス・クダリオだ」

「エクウス君だね。よし! 分からないから怖いんだよ! 私を姉だと思って、お姉ちゃんて呼んで! そうしたら、きっと安心できるから。なんでも相談して!」


 初対面から一時間足らずでハグまでできる美月の包容力に関心するが、空はまだ雅風も警戒も解いていない。


「みつ……お姉ちゃん、ちょっと待ってください!」

「お姉ちゃんには敬語はいらないよ?」

「あ……お姉ちゃん、ちょっと待ってよ!」

「うん? なに、空ちゃん? 空ちゃんもぎゅーってされたい?」

「そうではなくて、いや、違くはないけど、今はそういう話じゃなく!」

「ええい、鬱陶しい! 放せ!」


 エクウスが美月を引き離すも、彼女の諦めの悪さは彼の予想をはるかに超え、何度振り払っても効果はない。


「お姉ちゃん、この人が誰だか分から……ないでしょ⁉︎ いきなりそういうのはよくないと思……う!」


 泰吾は始めて努めてタメ口を話す場面を見た気がする。

 一方美月は、


「いいのいいの。これから仲良くなるから。だから先に、私のことお姉ちゃんて呼んで?」

「誰が呼ぶかごら! いい加減放しやがれ!」

「お姉ちゃん! そういうのよくないって! あと、あなたも乱暴は許しません!」


 だんだんこの場にいるのが面倒になった泰吾は、こう呟いた。


「もう帰っていいか?」


 羽月が彼女を節操なしと呼んでいたのが、なんとなくわかった気がした。

本当はエクウス登場予定なかったんですけどね

今回で10万字いった!

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