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ゾディアックサイン  作者: カラス
月の夜空
26/73

パソコンが使えないので、始めての携帯投稿です

「というわけで、こちらが姉の、白珠美月です」

「どうも~! 美月で~す!」


 舞台は再び地下のゾディアック支部。店を再びこころに任せた羽月は、泰吾をまたこの場に連れてきた。


「は、初めまして。逸夏泰吾です」

「うん、泰吾君か。君、礼儀正しいね!」

「いえ、その……」

「ふふ。よし!」


 何を思い至ったのか、この美月という女性は泰吾の肩を掴み、


「君、私の弟にならない?」

「……は?」

「おっ!?」

「……お姉ちゃん、また……」


 空が面白いことのように、羽月が呆れたように反応する。

 しかも勝手に納得しているこの人は、


「うんうん! 泰吾君って、えっと、空ちゃんと一緒ってことは、高校生か。うん、なら年下だね! 私のこと、お姉ちゃんと呼んでね!」

「いや、呼びませんし、そもそもなんですかいきなり……?」

「お姉ちゃんのいつもの悪い癖です。年下なら誰にでも自分をお姉ちゃんと呼ばせたがるのです」

「なんてはた迷惑な」

「そんなこと言わないの。ね、空ちゃん」


 こうするのだとでも言わんばかりに、美月は空に抱きつく。空は抵抗する様子もみせず、美月になすがままに撫でられ続ける。

 空のほうも満更でもなさそうで、むしろ笑顔で抱き返しているくらいだ。


「……羽月ちゃん、彼女がもしかして……」

「はい。この家のエンシェントです」

「うそぉ! あの人がゴーレムと?」

「はい」

「いや、無理だろどう見ても」

「お? 私を疑っているのかな?」


 空を撫でるだけ撫でた美月が、こちらを獲物と見定めた。さっきの現場では空が至高の笑顔で倒れており、何があったのか想像できない。


「な、なんですか……」


 この数週間で多くのゴーレムと戦ってきたが、ここまでの身の危険を感じたことはない。あの鬼たちでさえ、美月と比べたら可愛いものだ。


「私を疑っている人は、みーんなよしよししてやろう!」

「う、うわっ!」


 抵抗する暇もなく、美月は羽月ごと、泰吾をその包容力で包む。


「ほらほら、私を疑うと、もふもふの刑だぞ~」

「や、やめてください! 美月さん! さすがに男にこれは……」

「ん? どうしたのかな?」

「いろいろ当たってる……ていうか、」


 美月の香水か何かは知らないが、温かい匂いが理性を削ってくる。


「ちょ、顔近い……」

「ん? スキンシップだよ~」


 美月のほうが背が低いのに、なぜ彼女に飲み込まれそうになる。

 そして羽月は、全身の力を抜き、まるで人形だ。


「だから、やめ……」


 そこで突然地下室全体に赤いアラームが鳴り響き、ようやく泰吾は開放された。


「な、なんだ……」

「これ、ゴーレム、です」


 若干息が上がっている羽月が言った。


「えっと、場所は、」


 力が抜けているのにそれでもカタカタとタイピングをするのはさすがというべきか。


「渋谷近くの、青山通りです!」

「少し遠いな。おい、空!」


 空は立ち上がろうとするも、あまり力が入りきらない。

 結局、引きずってバイクまで連れて行かなければならなかった。




 休日のスクランブル交差点。当然、人は大勢行きかうのが常だろう。

 たとえ平日の昼間でも混雑している場所だ。今は人が大勢いてしかるべきだ。

 だというのに、今この交差点には人がいなかった。灰色の道路がむき出しになっており、ところどころの亀裂が、破壊の足音を語る。


「うわ、これはひどいな……」

「いつものことですけどね」


 ヘルメットを脱ぎ捨て、惨事の跡を眺める泰吾と空は呟いた。押しつぶされた車や崩された線路。犠牲者の姿が見えないが、まだ安心はできない。


「そして、あれが敵か」


 泰吾の視線の先に、ゴーレムの姿があった。

 一歩動くごとに地面を揺らす、重量級のゴーレム。

 ゴーレムに共通するように、青緑色の肉体を、くすんだ骨格で覆っている。


「馬とかいろいろあったけど、今度は亀か」


 亀型ゴーレムの特徴は、やはり甲羅だろう。黄色の色合いが強く、青緑と褐色のみだったこれまでのゴーレムと比べると違いが際立つ。


「亀は普通可愛いんですけど、これは許せません!」


 意気込む空。泰吾は頷き、


「行くぞ! 空!」

「はい!」


 空が笛を取り出すのとともに、泰吾は心臓へ神経を集中させる。

 ドクン、ドクンと規則正しい鼓動が、突然震え始める。だんだん間隔が短くなり、泰吾は全身に痛みを感じる。

 痛みを体の表面に押し出すように意識していると、白い光があふれだす。やがてそれらは泰吾の体表に白い装甲を作り上げていき、その姿を変えていく。

 一瞬、泰吾の目が赤くなった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 純白の篭手を装備した泰吾は、それをもって光へ拳を突き出す。巻き起こされた勢いに、光は霧散し、そこにはイニシャルフィストと一体となったエンシェントが残った。

 トレードマークである白いマフラーをはためかせながら、翼と装甲を身に着けた空へ、


「行くぞ!」

「はい!」


 亀ゴーレムもこちらに気付いたようだ。破壊しつくした街の中で新たに出現した玩具に、亀は前足を叩いて喜んでいる。

 地面が揺れるなか、泰吾は亀ゴーレムへ走り出した。


「喰らえっ!」


 エンシェントの拳が、亀ゴーレムの頭部を粉砕する。

 かと思いきや、突然亀の頭部が消えた。


「何っ!?」


 甲羅に引っ込んだことを理解する前に、頭部があった位置に出現した前足により、泰吾ははたきおとされる。


「っ……」

「先輩!」


 まだ動作が残っている足へ、空は矢を放つ。雅風の風を乗せた速度は、間違いなく前足を射抜く。

 が、


「また!?」


 亀ゴーレムの反射神経は亀のそれとは段違いで、即座に甲羅に引っ込んだ。それどころか、後ろ足もすべてひっこめてしまい、完全に甲羅だけになってしまった。


「亀の甲羅……」


 泰吾は表情を固め、その甲羅に飛び乗る。天辺に登り、


「亀の甲より年の劫、勝負だ!」


 古代のブースターの助力とともに、天高く跳びあがる。

 充分な高さになったところで、ブースターを逆噴射。一気に地上の亀めがけて拳を振り下ろす。


「このおおおおおおおおおお!」


 岩をも砕くイニシャルフィストが、亀の甲羅に命中する。亀全体に衝動が伝わったが、


「……っ! 固い……っ!」


 亀ゴーレムの防御力は予想をはるかに超えていた。結果、亀の甲羅には少しの傷をつけただけで、ヒビが入ったイニシャルフィストのダメージが大きかった。


「これは……!」


 さらに亀はその場で乱回転。風の動きすら変えてしまう勢いで、泰吾の体は弾かれる。空中で空が受け止めなければ、泰吾の体は渋谷駅にクレーターを作っていただろう。


「く……」

「ものすごい防御力ですね。これは、猿飛先輩くらいの攻撃力がないといけないかも……」

「あいつそんなに攻撃力あったのか?」

「如意棒は重いですから……」


 一度地上に降り立つ二人。亀ゴーレムは敵意を持った瞳で、二人を見据えている。

 そこへ、


「あ~、やっと追いついた!」


 緊迫した状況に似合わない声で、二人のエンシェントは違和感を感じた。


「もう、泰吾君、バイクなんてずるいわよ。私なんて自転車なのに!」


 ふわふわのワンピースなのに自転車という、ワンピースが心配になりそうな組み合わせ。傷跡だらけの通りを抜けた美月は、麦わら帽子を飛ばされないように抑えながら、


「ああもう。サンダルなんだから、移動は苦手なのよ」

「スニーカーに変えないのですか?」

「そんな余裕ないわよ。ゴーレムが出たんだから。さて、」


 美月はさっきまで浮かべていた笑顔をひっこめた。代わりに表情に浮かび上がったのは、

 敵意。


「街を目茶目茶にした悪い子は誰かな?」


 彼女は麦わら帽子を空に預け、


「ちょっと怒るよ」

 

「……一応聞かせてもらってもいいですか?」

「うん? どうぞどうぞ? お姉ちゃんになんでも聞いて?」

「あなたのオーパーツはどこですか?」

「見つけにくいものですか?」


 空がついでに一言添える。それに悪乗りをした美月は、


「鞄の中も、机の中でもなく、」


 リズムに合わせながら自分の頭に乗るうさ耳を指す。


「これ、で~す」

「……え?」

「だから、これよ、これ」

「これってもしかしてこのウサギ耳?」

「普通はうさ耳っていうと思うんだけど。そうよ、これが、」


 敵の前で何を一回転しているんだろうかこの人は、と泰吾は突っ込みたい。


「私の! オーパーツ! レプスです!」

「そんな可愛らしいオーパーツがあったのか……」

「私と同じ反応です」

「ふふ。じゃ、可愛い弟と妹に、私のオーパーツの力を見せてあげるわね!」


 美月はその場で足踏みを始める。ピョンピョンとはねる様子を泰吾と亀ゴーレムは訝しむ。唯一彼女のオーパーツを知っている空のみが苦笑いをしている。


「いくわよ!」


 翡翠の風とともに、月光が地上へ舞い降りる。

 同時に、渋谷に一足早い夜が訪れる。

 静寂とともに、うっすらと芝生がアスファルトを塗りつぶしていく。

 その中で佇む、ただ一人の存在。

 レプスというエンシェントが、そこにいた。


「……あれ?」


 しかし、その姿への泰吾の第一声は、疑問符だった。

 これまで泰吾が見知ったエンシェントは、イニシャルフィストを除いて五種類。

 持ち主の腕には鎧を、その手には剣を与えるハウリングエッジ。

 伝説の猿、孫悟空に等しい能力をもたらす禁固呪。

 大空への翼と、繊細な狙いさえも撃ち抜く雅風。

 敵として立ちはだかった、ペネトレイヤと名称不明の鳥銃。

 それらは剣や弓など、戦闘のために武器を持っていた。

 相対する相手をねじ伏せるためのものをもつエンシェント。

 だが、レプスはどうだ。

 ウサギの耳は依然健在。握られているのは武器の類ではなく、手品師が使うようなステッキ。手足にはそれぞれ白い猫のような手袋や靴が装備されており、無数の毛により、触り心地が良さそうだ。


「さて、行くよ!」


 そう宣言するとともに、美月は動き出す。

 彼女のスキップのような足踏みに、泰吾はフォローのために追随しようとするが、


「……へ?」


 彼女のワンステップが、あまりにも大きい。

 彼女の一歩が、およそ五メートルの跳躍だった。


「嘘……」

「あれがレプスの能力なんですよね」


 空が語る。


「私たちのオーパーツとは違って、直接的な戦闘能力はないんですけど」


 確かに美月が亀ゴーレムの甲羅に飛び乗ってすることと言えば、からかうように軽く小突いて、ゴーレムの回転に巻き込まれないように高く跳びあがり、また小突くの繰り返しだ。


「でも、あの跳躍力と瞬発力はかなりのものなんですよ。逃げ遅れた人の救助なんかもこの街のエンシェントのなかでは突出していると思います」

「確かにサポートとしてはいい能力だとは思うが、あのゴーレム相手に何をしているんだ?」

「さあ、さすがにそこまでは私にも……美月さんのことだから、まじめにやっているとは思うんですけど……」


 しかし、にこにこしながら甲羅を叩く美月を真剣だと宣言するのはあまり簡単ではない。泰吾は、もう一度全力を亀ゴーレムにぶつけた方が早いのではないかと考えると、


「オッケー、分かったよ」


 美月が二人の前に着地。よく見ると彼女の後ろにもウサギのような尻尾がついており、バニーガールでも目指しているのかと思ってしまう。


「泰吾君、悪いけど、ちょっとごめんね」

「え? ごめんって……? うわああああああああああああああああ!」


 何事かを理解する前に、泰吾の体が天を泳ぐ。

 美月が自分を摘まんでいることに気付いた泰吾は、


「いい? あそこ」


 滞空する間に美月が指さす亀の甲羅。泰吾が攻撃したところから少し右上に逸れたところ。そこに目を凝らすと、


「あれは……」

「私がつけた傷が見えるでしょ?」


 確かに、美月が飛び跳ねている最中に彼女がつけた目印らしき傷跡がある。ステッキで引っかいた傷バツ印で、しっかり集中しないと陶器の外表に埋もれるほどだ。


「あそこ。あそこだけ、少しゴーレムのフォトンエネルギーが薄いのよ」

「ふぉと……なに?」

「フォトンエネルギーよ。あとでお姉さんが解説してあげるから。とにかく、あそこだけ他よりも少し脆いの。だから、」


 美月はにっこりと、


「あそこに全力をぶつけるの。分かりやすいでしょ?」

「……確かに、呆れるほど分かりやすい!」

「でしょ! じゃあ、行くよ!」


 美月は渋谷のビルたちを足場に三角跳び。亀ゴーレムの真上から、


「いっくよ、泰吾君!」

「ああ!」


 美月が全力で泰吾を投げ飛ばす。泰吾はブースターで位置を少しずつ調整しながら美月の印へ全力を叩き込む。

 なるほど確かに手応えが段違いだ。

 効果があったのか疑わしかった前回と違い、亀の甲羅に亀裂が走っていく。

 破壊までは及ばなかったが、亀ゴーレムが動けなくさせることはできた。地に伏せたゴーレムへのトドメとして、泰吾は再び大ジャンプし、


「終わりだ!」


 拳の幻影をバックにした拳が隕石となって、亀ゴーレムめがけて落下する。

 脆くなった亀の体を粉砕するのは簡単。そのはずだった。

 しかし、


「ぐわっ!」


 その流れが、背後からの痛みが遮る。

 地に落ちた後に空と美月に助け起こされた泰吾は、今の攻撃の出所を探る。


「お待ちなさいお待ちなさい」


 犯人はすぐに割れた。

 ハチ公広場に置かれたテラス席。自前調達したらしき席に、右手に紅茶を飲みながら長い刃物を持っている男がそこにいた。

ワードを開くたびにエラーってどういうことなの...?

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