立てこもりなんて蹴飛ばしちゃえ!
リアルが忙しい……
けど、頑張って継続していきます!
「オラァ! 叫ぶんじゃねえ!」
厨房から顔を出した三人を出迎えたのは、そんな罵声だった。
「いいか! 変な動きもするなよ! そうなったら、こいつが火を噴くからな!」
そう言いながら猟銃を振り回す大柄な男の姿に、三人は事態の緊急性を理解した。
目、鼻、口だけを開けた黒マスクに、指紋を残さないための全身黒タイツ。用意周到なのは結構なことだが、なにも昼夜堂々とレストランを襲わなくてもいいだろう。
即刻通報したくなるような立てこもり犯がレストランを支配していた。
「てめえらこいつがニセモノだと思ってるのか!?」
男はそう言いながら、猟銃を天井へ発射。粉砕されたシャンデリアが、それが本物だと教えてくれた。
「おい、弾を無駄遣いするな」
しかし、暴走する男を宥めたのは、別の痩せた男。
「そいつは殺傷力重視に改造したんだ。警察包囲を突破するためのものだぞ」
「わーってるよ! 一発くらいケチケチするな! それより、お前も見張りにつけ!」
大柄に言われ、痩せこけた男は店の角を陣取る。
「おいお前ら!」
その改造銃を客たちの前で縛られている店員たちに向ける。
「金を出せ。今すぐだ!」
バイトと言っても、残り二人は羽月の友人の同級生で手伝いに来ているだけだ。名前は明と千夏だったか。
一番年上のこころは、一言二人に言って、自分が金を出すと進言している。
こころがレジの金を引き出しているところで、泰吾は静かに店内の様子を伺っていた。空も険しい顔で、犯人たちと客の位置を確認している。
「四方の角に一人と、あのデカいやつが一人か。中心に全員を集めている、まあ常套手段だな」
「どうしましょう? オーパーツ抜きで制圧するのは、あまりにも不利ですよ?」
空も彼女なりに分析をしている。敵が一人二人ならば楽なのだが、五人相手は分が悪い。
「そうだな……」
当然羽月を危険な目にあわせるわけにはいかないので、こちらの戦力はたったの二人。しかも、エンシェントにはなれないからただの高校生だ。
「空、弓を簡易版にして出せたりはしないか?」
「いいえ。今の私は風を操るくらいならできますけど、それでもあの銃弾を反らすことはできません」
「相手が悪いな。……ん? 警察か」
店の前からサイレンの音が鳴る。大勢の人が降りる音とともに、警官たちが現れたのが窓越しに映る。
大量のライオットシールドが並ぶのを見て、泰吾の焦りが募る。
「やめろ、あまり刺激するな……」
通報したことを若干後悔しながら、泰吾は祈る。
「でも、このまま何もしないわけにもいきませんよ。犯人たちが見せしめに誰かに手を出さないとも限りません」
「つまり、俺たちのアクションも急いだほうがいいということか?」
「そうなりますね……あれ? 羽月ちゃんはどこに?」
「え?」
空に言われて初めて気がついた。この事態を一番重く見るはずの羽月の姿がない。
「あれ? どこに……!」
その事実に、泰吾は思わず空の肩を連打する。
「おい、あれ!」
「え、なんです……か……」
空も絶句。
なんと。
「止めてください!」
客たちの前に身を盾にする、
羽月の姿が。
「いつの間に……!?」
しかも、こちらの心配をよそに、羽月は強盗の前にまっすぐと立ちはだかる。
「お客様と友達に、手を出さないでください!」
「あいつ、何を……!」
まさかこうなるとは思わなかった。見た目に騙されて、彼女を引っ込み思案だと決めつけていたが、ここまで勇気ある行動をするとは。
「いや、あれはもう無謀の域だろ!」
どうするべきかを考えることを厨房のレンジの中に置き去りにし、泰吾は羽月に手を出そうとする男の顔面に拳をぶつける。「ぐはぁ!」と小気味いい悲鳴とともに、その男は近くのテーブルに激突。残っていたコーヒーをまき散らした。
「逸夏さん……」
「勝手に出るな! どうすればいいのか考えていたのに台無しだ」
「でも、お客様たちが……」
「なんだ!?」
「お前、兄貴になにをしやがった!?」
この大騒ぎに気付かぬはずもなく、四方に展開していた強盗たちが泰吾と羽月に銃口を向けた。
「まずい……」
大柄の男を一撃で仕留めた代償として、泰吾は今全ての銃口のターゲットにされている。泰吾は空を背中に回すが、どうしても四つの銃口から羽月と客を庇うことは不可能だ。エンシェントの体に銃火器はどれほどの威力を持つのかは知らないが、羽月に命中すれば、その華奢な体は簡単に破壊できるだろう。
空もあわあわと口を開いており、助けを期待できない。
そして、引き金にかかる指が……
「ちょっと待ったあああああああああああああああああ!」
突然、警察の包囲網すら無視した弾丸が店の窓を破り入る。
きりきりと回転し、壁際の席に着地。空席だったのは奇跡だろうか。
「有象無象の悪党ども」
立ち上がるそれが人だったということをすぐに認めるのは泰吾にはできない。しかも、
「この世のお客様と、」
それが筋肉の塊のような肉体をもつ男ならともかく、
「妹と弟を守る者、」
まさか、
「この白珠美月が相手になるわ!」
母性溢れる肉体の女性だとは。
「なんだテメエ! ふざけた格好しやがって!」
確かに乱入した女性の姿を立派だとはいいがたいだろう。フワフワした白いワンピースに、素足で履いたサンダル。まだ六月にもなっていないのに麦わら帽子をかぶっており、なぜか帽子からは、ウサギの耳がはみ出ている。
「殺っちまえ!」
男たちの言葉とともに、銃弾が女性へ飛んでいく。動体視力では追いかけられない速度の弾丸が女性の体を貫く、
かと思われたが。
「よっと!」
なんと、十発撃たれた弾丸は、その全てが女性の蹴りによって勢いを殺され、床に落ちた。
「!?」
泰吾、強盗、客たちも全て、彼女の動きに驚愕する。
最後の一つを蹴り上げて弾き、
「さて、みんなを怯えさせた覚悟、できてるんでしょうね?」
そのまま女性は壁を押し返し、自分の体を発射。非常口近くの強盗の顎にドロップキック。
「ぐはぁ!」
歯を数本失った強盗は、そのまま床に伏せ、もう動かなくなった。
「妹たちに手を出したんだから、これくらいは当然よね」
「このアマァ!」
続いてくる二人目の強盗は、銃ではなくナイフで襲う。しかし、
「よっと」
余裕の表情で身をねじり、それを回避。
「このっ!」
さらに来る連撃も、柔軟な動きで回転しながらそれらを回避。
手首をおさえ、手刀でナイフを叩き落とす。さらに、足を操り、強盗をその場で転げる。頭から落下した強盗は、第二の屍となった。
「う、動くな!」
「え? うわあ!」
追い詰められた最後の二人は、とうとうこころを捕まえる。一人は銃をこめかみに、もう一人はナイフを喉元に突き付けた。
「動くな、そうでないとこのガキがどうなっても知らねえぞ」
「……」
怒りを露にする女性。だが、彼女が手を出せないことを理解している強盗たちは、そのまま仲間を残したまま、出口へ歩む。こころという人質がいれば、警察もむやみに抵抗などしないだろう。そう、本来ならば。
「よし、警察どもにもこいつで……」
このとき、二人の強盗はミスを犯した。出口に気を取られて、女性から目を離してしまったのだ。この一瞬だけ、彼女の行動は、強盗たちには知ることができない。
その一瞬で、
「汚い手で私の妹に触るなああああああああああああ!」
女性は跳んだ。
人間離れした跳躍力は、振り向きかけた二人の顔面との距離を即時にゼロに。
両足を振り、二人の顔面に同時にクリーンヒット。
一瞬で気絶した。
「え……」
泰吾は言葉が出ない。彼女一人で、この数分でこの場を制圧してしまった。
彼と空は、果たして作戦を考える必要があったのだろうか。
「さあ、こころちゃん。お姉ちゃんに存分に甘えていいわよ」
「えっと……」
肝心のこころは、若干困惑気味だった。
今使っているパソコン、ておって入力しても変換できないんですよね。
前のパソコンならできたのに……




