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ゾディアックサイン  作者: カラス
月の夜空
23/73

レストランより

出来ちまったら仕方ねえ!

書き溜めなんてしないで即上げるぜ!

というわけで、文字数少なめから、第二章始まります

「いらっしゃいませ」


 そう声をかけられるのは普通だ。レストランだから。

 丸く綺麗に整頓された机が並んでいる。当たり前だ。レストランだから。

 食欲をそそる香りが鼻をくすぐる。当然だろう。レストランだから。

 それでは、なぜ逸夏(いつか)泰吾(てお)が驚いているのかというと、


「こちらへどうぞ、お客様」


 この座席案内をしている店員が、


「……? お客様、どうかされましたか?」

「あ~、気にしなくてもいいわよ、()(つき)ちゃん。こいつ、またいつもの迷惑な客と同じように困惑しているだけだから」


 連れのマイ・エスカが先に腰掛けながら言う。「そうですか」と店員は、さらにもう一人の連れ、(むつ)()(そら)にも席を開ける。


「マイさんと空さんがいるということは、この方もエンシェントですか?」

「あら? お父さんから聞いてない? この前の鬼ゴーレムの事件の立役者よ。こいつは」

「そうでしたか。それではこちらへどうぞ」


 淡々と業務を進めるこの店員が、


「……いやいや、ちょっと待て!」


 思わず突っ込みを入れざるを得ない。


「君、小学生だよね!?」


 水色のツインテール、つぶらな瞳と幼さが残る丸顔。ウサギの顔がプリントされたエプロンを着用し、泰吾の半分くらいの背丈の彼女は、どこからどう見ても小学生だった。


「ええ。三年生です」


 少女は何の問題もなさそうに答える。

 その当然と言い切った表情から、まちがっているのはこちらなのではないかと思ってしまう。

 だが、この国には確固たる法律がある。


「働くのは十五歳以上からだと法律で決まっていなかったか?」

「私はこの店の娘なので、手伝うのは当たり前です」

「そんな淡々と……」

「ご注文は?」

「しかも手慣れてるし……」

「羽月ちゃん、ここの看板娘だからね。あ、あたしいつもので」

「私も」


 マイと空がオーダーするのを見て、泰吾も机のメニューをめくる。とくに特徴もない、よく知った一覧の中から一番安いアイスコーヒーを選んだのは、別に難しいものでもない。


「少々お待ちください」


 羽月と呼ばれた少女は、そのままそそくさと厨房とカウンターの向かい側へ去る。焙煎の様子を眺めながら、泰吾は、


「お前たち、今日は絵戸街のゾディアック支部に連れていくと言っていなかったか?」

「ええ」


 向かいに座るマイは余裕の笑みを浮かべる。彼女の隣の空も苦笑している。


「昼食時にもまだ早いぞ?」

「そうね。だから紅茶を……ああ、いつものっていうのは紅茶よ、あたしの場合」

「私はコーンポタージュです」


 いつもなら快く答え合わせをしてくれそうな空も泰吾の疑問には返さない。


「なら、なんでここに来たんだ? 時間つぶしならファーストフード店のほうが安いぞ?」


 すると、二人は互いに目線をあわせる。両者の無音の合図により、空が答えた


「あの、先輩」

「ん?」


 悪戯っぽく笑いながら、


「さっき、羽月ちゃんがなんて言ったか覚えていませんか?」

「え?」

「私は、あなたがエンシェントかどうかを口にしました」


 なんと、すでに羽月が注文の品を盆にのせてきていた。半開きの目を泰吾に投げかけながら、


「お客様もエンシェントのようですね。さっきお父さんから聞きました。なるほど、お客様がイニ……なんとかのエンシェントですか」


 盆を机に置いた羽月は、そのまま泰吾の前にアイスコーヒーを置く。


「お待たせいたしました。マイさんは紅茶とミートポタージュですね」


 紅茶のほかに、肉と野菜がてんこ盛りのスープが置かれる。


「そうそう! これこれ! この味付けがほんと最高なのよ!」

「そんなのあったのか……」

「メニューの一番後ろに、スペシャルメニューがあります」


 羽月の言う通り、メニューをめくると、一回り値段が高いユニークなメニューが写真付きで並んでいる。


「空さんは、コーンポタージュで間違いありませんか?」

「うん、大丈夫だよ。ありがと」


 黄色のスープを確認し、空は羽月の頭を撫でる。少し抵抗しそうな表情をみせる羽月だが、しばらくはなされるがままになった。

 空が手を放したところで、泰吾が問いだす。


「君も、エンシェントなのか?」

「いいえ。私はエンシェントではないです。お姉ちゃんがエンシェントです」

「姉?」

「そ。ついでに今のうちに自己紹介しておきなさいよ。ほら」


 豪快に肉に齧り付きながら、マイが顎で指す。レクトリア王国の姫という立場なのだから、もう少しそれらしく振舞ってはくれないかと考えながら、泰吾は、


「イニシャルフィストのエンシェント、逸夏泰吾だ。三週間ほどまえにエンシェントになったばかりで、至らぬところもあるとは思うけど、よろしく頼む」

「逸夏泰吾さんですね。私はこのお店、月光(つきひかり)(しら)珠羽(たまは)(つき)と申します」


 こっくりとお辞儀をする。


「エンシェントではありませんが、このお店で、ゴーレムの研究や、オーパーツのメンテナンスなんかをしています。あと、ちゃんと学校には通っています」

「ということは、ここが……?」

「はい。ここがゾディアックの絵戸街支部です」

「こんな目立つところにあったのか」


 泰吾は驚いた。ゾディアックは、ゴーレムと呼ばれる古代の災厄と戦う組織。その存在は公には秘匿されており、当然マイたちも名目上ではただの一学生だ。

 それが、大通りに面した普通のレストランに扮しているとは考えもしなかった。


「このお店は、支部の資金源でもあるんです。あと、支部長の父の趣味が二階にあります」

「二階に何が?」

「カジノです。年齢制限は設けていませんが、あまりおすすめはしません」

「以前どっかのおバカさんが有り金半分と化したからね~」


 マイがにやけながら言った。彼女の表情から、その誰かが、犬猿の仲の猿飛(さるとび)明日香(あすか)だと予測できる。


「君のお姉さんは今不在?」

「はい。どうせ街で年下を捕まえては弟やら妹にしているのでしょう。お姉ちゃんは年下ならば誰でもいい節操なしですから」

「言えてる」

「あはは。私たちも()(つき)さんの圏内ですからね」


 マイと空の表情から、過去にもずいぶんな目に遭わされたらしい。何をされるのか、少し気になる。


「父に一度会われますか?」

「そうだな……そうするよ。俺もゾディアックとやらの所属になったらしいし」


 前回の事件のあと、空の父、(むつ)()(そう)の計らいにより、泰吾は正式にゾディアック、絵戸街支部の所属になった。同時にこの町の大半が高校の部活として参加している世界平和部への入部も決まり、彼を入れることに難色を示していた明日香も首を横には振れなくなってから、まだ日は浅い。


「今はお仕事の最中ですので、少しお時間を頂いた後でよろしいですか?」

「ああ……お、このコーヒー結構いいかも。これ、オリジナルか?」

「インスタントです。お客様が注文した安いやつです」


 慣れないコーヒーなんか頼むべきではなかったと、泰吾は少し後悔した。

羽月のモチーフは、みなさんが一番最初に脳裏に浮かんだ人でたぶん正解です

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