後悔なんてない
第一章、これにて終了です!
約八万字と、少し短いですが、ありがとうございました!
『うむ。確かにその笛は雅風だ』
世界平和部。机に置かれた薄型携帯端末越しに、睦城荘は頷いた。
鬼の異変から一週間。これは学校がようやく再開したその日の放課後のことだ。
『確かに取り戻したようだな。しかも、猿飛君の報告によれば、逸夏君と空の活躍によって、ゴーレムの事態も収束したと』
荘の感心を否定したのは、他ならぬ空だった。
「いいえ。お父さん、私はあまり役に立ちませんでした」
『ほう。どういうことかな?』
「それは……」
空は言葉に詰まる。泰吾が代弁しようとしたが、空はそれを止めた。
「私は、雅風をそもそも取り戻してすらいません」
空は、雅風をモニター前に置いた。
「アキラスは、彼の方から私に雅風を返しました」
『ほう……』
「!」
泰吾はまさかのカミングアウトに驚愕。
「私の強さを見たいと。取り戻したわけではありません。だから、」
空は深呼吸し、
「お父さんの指示を守れたわけではありません。帰れと言われれば、すぐにでも戻ります」
『……』
荘は無言で空を見つめる。そして、
『今の話は本当か? 逸夏君』
「……はい」
彼をごまかすことはできない。そう判断した泰吾は、正直にアキラスとの一連の流れを打ち明けた。
「猿飛は俺と空がゴーレムを倒したと報告したようですけど、実際は異なります」
全ては、幸運だった。
イニシャルフィストがコピー能力を有していたことも。
アキラスが気まぐれを起こして協力してくれたのも。
ナラクが抵抗せずに行方不明になり、鬼との戦場からいなくなったのも。
学校にいた者たちが誰一人、衰弱のみで大事に至らなかったのも。
イニシャルフィストが雅風をコピーできたのも。
「……実質、確かに自分はあなたが課した条件をクリアしたと言い切れません」
『ほう。……アキラスの語る、空の強さとはなんだ?』
「よく分かりません。ただ、あの場にいた中で一番強いからだと」
『ほう。……空』
「はい」
改めた荘の言葉に、姿勢を正す空。荘がこれから空への処分を下すのだと、泰吾のみならず、マイと明日香も身構える。
『私は、雅風を持たないお前をそこには置けないと言ったのだ。手段は限定していない。お前がまだ東京にいたいのなら、好きにしろ』
「助かった~!」
荘との連絡が切れた途端、マイがぐっと腕を伸ばした。
「よかったわね、空ちゃん! これで無事に残れるわよ!」
「はい……」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「結局私、あまり役に立たずに申し訳なくて……」
「な~に言ってんのよ」
マイは空の肩を引っ掴む。
「役に立てなかったって思うのなら、次から頑張ればいいじゃない! ゴーレムの残骸からいいお宝だって見つかったし。ねえ、泰吾!」
「まあ、これをお宝というのかは微妙だが……」
泰吾はそう言いながら、机に置かれた一件の戦利品を見やる。
それは、学校に残すには少し光を放ちすぎる剣だった。ルビーやサファイアなど、色とりどりの宝玉が埋め込まれている。ゾディアックに一度流したところ、どうやらこれはオーパーツであり、イニシャルフィストと同じように、持ち主をエンシェントにすることができるらしい。しかし、今のところ力は微弱で、アキラスも全く興味を示さなかったので、今はこの部屋に匿っておくことになった。
「まあ、戦力強化になるのか?」
「まあ、万が一にもエンシェントになりたいってもの好きがいたらね。まあ、石頭が絶対にさせないだろうけど」
「言えてる」
明日香が報告後そそくさと立ち去っているから、マイはもう彼女の悪態を精一杯口にしだした。部長である明日香にこれほど不満が溜まっていたのか、
「だいたいあいつは変化が嫌いすぎるのよ。空ちゃんが入ってきたときもダメダメの一点張りだったし、そうでなくともあたしのやることすることに口出しするし。ねえ、あんたたちだってあいつには問題あると思わない?」
「問題あるなしはともかく、いくらなんでも陰口が過ぎないか?」
「いいのよ。あいつはむしろ誰かにげんこつでもしてもらわないと」
「あはは……」
苦笑する空。泰吾が来る前も、長らく明日香の陰口に付き合わされてきたのだろう。彼女の苦労が知れる。
「そういえば、警察には今回のこと、どういう風に処理されているんだ?」
「新種のゴーレム発生、一定の場所を結界に変えるレアケース、とまでしか取り上げられていないわね。あの千草って人もそうすることを約束してくれたし」
「あのときの猿飛先輩、ちょっと怖かったですね」
「あいつは悪魔よ。それにしても、よかったわね、泰吾」
「ん? 何がだ?」
「今度は、後悔しないで」
あの時、ゴーレムのせいで、泰吾は一年、後悔をし続けてきた。学校をやめ、気力をなくしていた。
もし、今回で空を救えなかったら、
もし、また誰かが目の前でゴーレムの犠牲になっていたら。
「……あの時、こうすればよかったんじゃないかっていうのは、まだ考えたりはするさ。でも今は自分の腕が、より遠くまで届いた。今度は、目の前のなにかを助けることができた。……そうだな、今回は後悔しなかった。でも、それはお前たちのおかげだ」
「へえ。以外にしゃべるわね」
「たまにはな。あと、エスカ」
「ん?」
「お前に、これだけは言いたいんだ」
「何よ、改まって」
「俺を仲間に入れてくれて、本当に……」
泰吾は二人に頭を下げ、
「ありがとう」
今回の話、まだ検索してはいないけど、イニシャルフィストより雅風の方が入力回数多そう……
一か月に一章を目標にして参りますので、どうかこれからもお付き合いのほどをお願いいたします




