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ゾディアックサイン  作者: カラス
始まり
20/73

鬼退治

鬼退治編、決着です!

「そっちも終わった?」


 着陸した泰吾と空へ駆け寄りながら尋ねるマイ。頷いた二人の反応で、戦いは終わったと一安心する。


「これでボスのゴーレムを全員倒したことになるのよね」

「ええ。空ちゃんも戻ったし、しばらくしたらこの結界も維持できずに消えるんじゃないかしら?」

「そのはずだ」


 明日香の言葉に同意するのはアキラス。彼は気絶したナラクを引きずっているが、彼の表情から特に苦戦はしなかったらしい。


「だが、それにしてはおかしい。通常この類の結界は、ボスが消えたらすぐに消滅するはずだ」

「そうなの? ていうか、この結界経験したことあるの?」

「ここより小規模のものを一度だけな。貴様らゾディアックが感づく前に始末した」

「それなら、ここはなぜ消えない?」


 泰吾はぐるりと結界を見渡している。緑鬼と青鬼を倒してから、小鬼の群れもピタリととまった。


「まだ中核がどこかにいるのか?」

「それはありません」


 しかし、それを空が否定した。


「この結界の中核は私です。アキラスさんの言うことが正しければ、私とボスが両方いなくなった時点で崩れるはずなのに……」


 しかし、その答えはすぐに訪れた。


「ククククク……」


 いつから目覚めていたのか、縛られているナラクが不気味な笑みを零していたのだ。


「何がおかしいのよ!?」


 マイが襟首をつかみ、可能な限り怖い顔をして脅すが、ナラクには効果なし。


「これは予想外でした」

「何がよ!?」


 髪を乱暴に握るが、この奇術師もどきは、全く取り乱さない。


「いやなに、私もここのボスはあの鬼三体だと思っていたのですが……まさか、」

「まさか何よ?」


 やがて、結界が揺れ始める。泰吾と空は結界の消滅の兆しだと思っているようだが、マイは大笑いをしているナラクのせいで、とてもそうとは思えない。


「おい、これ少しまずいんじゃないか?」


 玉座の崩壊を目の当たりにした泰吾のアラームとともに、ナラクが口にするのは、


「この結界そのものがゴーレムなんですよ」

「!?」


 その言葉を脳が理解したときにはもう遅い。

 水平を保つことを放棄した足場が、粘土のように柔らかくなる。


「まずい!」

「みなさん!」


 飛行能力をもつ明日香と空は、いそいでマイとアキラス、泰吾の救出へ向かう。しかしアキラスは空の手を振り払い、


「貴様は仲間でも救っていろ!」


 新たなオーパーツを起動する。それは、漆黒の烏の翼のオーパーツ。


「ひゃは、ひゃは、は____________っはっはっはっは!」


 崩壊に巻き込まれたナラクは、崩れた足場とともに地面の暗闇に落ちていく。空が助けようとするも、もう間に合わない。

 やがて、結界そのものが大きく揺れる。壁がしてはいけない動きをしながら、どんどん変形していく。


「このままじゃいけない! 明日香! 早く脱出しなさい! ってうわっ!」

「うるさいわねこの邪魔お荷物お姫さま。文句言うなら突き落とすわよ」


 マイを左腕一本で支える明日香は、彼女の飛び心地など一切考慮しない。縦横無尽の動きに、マイはだんだん酔ってきた。


「うっ……ダメ……吐きそう」

「吐くなら声かけなさい。貴女の国に映像送ってあげるから。お姫さまは元気ですって」

「それマジでやめなさい! 末代までの恥に……うぇっ」


 このとき、泰吾を抱きかかえる空の姿が目に入った。むこうは風を纏いながら最低限の動きをしており、乗り心地がよさそうだ。それどころか、二人は周りを観察し、一番泰吾に負担の少ないルートを選択しているではないか。


「なによあれ……ちょっと羨ましいんですけど」

「なら交代する? 貴女はここから歩いて睦城さんに頼むのね」

「……」


 この機械工場の歯車よりも目まぐるしい動きをする場所を歩き、ぐちゃぐちゃにならないのは宝くじを一枚で当てるよりも難しい気がする。

 マイは諦めて、明日香の乱暴運転に付き合うことになった。




 アキラスが強引に破壊した壁から脱出した一行は、校庭に着陸。


「あなたたち!」


 ずっと近隣住民への避難を呼び掛けていたと思われる綾が駆け寄る。


「なにがどうなってるの!? あの山みたいなの、形変わってきているけど、なんなの!?」


 この女性警官の言う通り、あの鬼の顔をした山はもう山とは呼べないものになっていた。

 細長く伸びたかと思うと、それは伸縮を繰り返す。

 やがてねじれながら、回転し、校舎から完全に独立。空中に浮遊する浅黒い球体となる。

 すぐにその球体は、四方向へ棒を伸ばし、その内二本は地面に降り立つ。


「……これってなにかのギャグ?」

「諦めろ」


 マイのつぶやきに返している間にも、山はだんだん形を整え、人型に変化していく。

 最後に、頭部らしきものがその角とともに出現したのを最後に、それは完全に新たな鬼としての生を受けた。


「ええ……」


 もう鬼と呼ぶことすらおこがましい。学校どころか、視界のありとあらゆる建物ですら足元にも及ばない。

 六本の腕は阿修羅のように円状に生えており、それぞれ赤、青、緑とこれまで倒してきた鬼たちの特徴を備えており、赤鬼の棍棒、青鬼の刃、緑鬼のボウガンが装備されている。

 浅黒い肉体を守る赤い鎧は鬼の面を模した造形で、まるで腹にも顔があるようだ。

 二本の角は前方に大きく湾曲しており、不気味な紋様をしていた。


「今度はあれとやるの……?」


 空もげんなりとしている。この中で元気なものは、


「面白い! オレの今の強さを試すのにはちょうどいい!」


 翼からペネトレイヤを再装備したアキラスと、


「わ、私は警察官よ。こんな奴を野放しにできるわけないじゃない!」


 勇敢にも拳銃を向ける綾だけだった。


「あなたたちはどうなの!? そのすごいもの持ってるなら、それを活用しなさいよ!」

「……分かってる!」


 泰吾はマイの背中に触れる。一瞬怯えたマイも、すぐさま彼の意図に気付く。


「あれ結構疲れるから多用しないでほしいんだけど!」


 マイの炎が、腕を伝って泰吾へ流れる。光と炎の柱とともに、泰吾の姿が、先のアキラス戦で見せたハウリングエッジをコピーした姿に変わる。


「なっ!?」

「先輩、それは……?」

「俺たちもよく分からないけど、これがイニシャルフィストの真の能力、らしい」

「さっきアキラスと戦ってたらなぜかできちゃったのよね。まあ解明はまたの機会にでも」

「他のエンシェントの能力コピー? そんなまさか……?」

「もうこいつのエンシェントについて細かく考えるのはやめましょ。ただでさえ出自が霧の中なのよ。能力なんて分かりっこないわ」

「それもそうだけど……」

「先輩、すごいです!」


 深く見つめる明日香と純粋に目を輝かせる空。どうやら二人にも、このような能力は前例がないらしい。


「まあとにかく、これで行くわよ!」


 マイが剣を掲げたのを合図と判断し、泰吾は飛び出す。後ろから「あっ、抜け駆けは禁止よ!」とマイの声が追いかける。


「________________________________!」


 大鬼の咆哮。大地から湧いてくる小鬼たちとともに、エンシェントたちの戦いの火ぶたが再び落とされる。


「エスカ!」

「ええ!」


 二人の炎の剣士は、小鬼たちを焼き払いながら本命の鬼へ肉薄、その剣を振るう。大鬼もそれに対抗するべく、赤鬼の棍棒を使う。

 金属音とともに、二種類の武器が互いの強さを示す。

 結果、


「うわっ!」

「くっ!」


 二人のエンシェントは押し負け、地面に投げられる。

 続く追撃。緑鬼のボウガンが二本も発射される、その寸前で、


「先輩方!」


 割り入った空が防衛のために雅風を放つ。


「いっけええええ!」


 風を纏った矢と、鬼の禍々しい矢。

 先ほどは一対一なら矢は対消滅した。相手が二本になれば、空の敗北は当然だ。


「くううう!」


 雅風の装備が傷つく。転がり、泰吾たちの前まで空が転がる。

 このチャンスを大鬼が逃すはずもない。大きな足音を立てながら、非力なエンシェントたちへ迫る。

 だが、大鬼は気付いていない。この攻防のさなか、二人のエンシェントが背後に回り込んでいたのだ。


「うなれ、如意棒!」


 如意棒が大鬼の脊髄を殴る。予想外の攻撃に一瞬のふらつきを見せた大鬼は、安定を求めて右足の足場か崩れたことで完全に転倒。


「ふん」


 ドリルのオーパーツを肩に持ち上げながらアキラスが鼻で笑う。


「まさかオレが穴掘りとはな」


 大鬼はまだ倒れていない。憤怒の表情とともに、エンシェントたちを見下ろしている。自分よりも小さきものにより地をなめさせられたことが相当腹に来ているのか、大きく咆哮し、学校を揺らした。


「! 来る!」


 泰吾、マイ、空の三人が身構える。すると、大鬼の姿が消える。


「消えた!?」

「いいえ、マイ先輩。相手がとても早く移動しているんです!」

「ええい、めんどくさいわね! なら、焼き払うまでよ!」


 マイの大振りが、泰吾と空を乗り越えて蔓延する。円状にどんどん広がっていく炎のうち、一か所だけ打ち消されたところに、足を止めた大鬼がいた。


「へへっ、火傷だけでもあまり好ましくないようね! 合わせなさい、泰吾!」

「ああ!」


 イニシャルフィストのおかげで、ハウリングエッジの使い方は分かっている。マイと同じように、足を肩まで開き、炎の剣を背中に掲げる。


「でりゃああああああああああああ!」

「いっけええええええええええええ!」


 二人の炎が同時に飛び出す。それぞれが狼の形となり、大鬼を襲う。二体の狼が緑と青mの腕を喰らい、苦悶の声が上がる。

 だが、大鬼はそれくらいではまだ落ちない。棍棒で狼の頭を潰し、咆哮する。


「まだ落ちない!」


 大鬼は先に、目障りな明日香とアキラスを潰すことにしたようだ。棍棒を振り回し、矢を乱れ撃ちしながら、小さな者たちを打ち落とそうとしている。


「あたしたちも行くわよ! 空ちゃんはいつも通り、援護をお願い!」

「はい!」


 マイの合図とともに、同じ武器をもつエンシェント同士が地を蹴る。大鬼の両肩を斬りつけ、さらにダメージ。

 しかし大鬼も負けてはいない。追いつけない跳躍と、上空からの乱れ撃ちを可能とした。


「えっ!?」

「チッ」

 

 突然の遠距離に切り替えた敵に、マイとアキラスは対応できない。雨のような矢から身を守るため、自分の射程内の矢を全て打ち落とすことに専念している。

 だが、泰吾は防衛ではなく、攻めることを選んだ。

 エンシェントの肉体を駆使し、矢を交わしながらジャンプ。命中してしまった矢により、ハウリングエッジのコピーが消え、イニシャルフィストに戻ってしまったが、ブースターの助力を得られる分、むしろ好都合ととらえるべきだ。

 ブースターを燃やし、矢の雨を突っ切る。


「届いた!」


 泰吾の一撃が、大鬼の顎を穿つ。体を転換させ、そのまま上から殴る。幻影ができる一撃が、そのまま流星となり、大地へ落ちる。


「空あああああああああ!」

「はい!」


 同時に空も弓を弾き絞る。大鬼の落下地点に移動し、しっかりと狙いを定める。

 そして、放たれた緑の矢。それは、イニシャルフィストに重なる形で大鬼を穿った、





 と思われたが。


「_____________________________________!」

「えっ……!」


 噴煙を切り開きながら、再び大鬼が姿を現した。

戦闘シーンを長くすると、どうしても没シーンが出てくる……一発でできる方に、コツを教えていただきたいです!

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