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ゾディアックサイン  作者: カラス
始まり
14/73

強さ 2

サブタイトルがダブった……初めに考えておかないからです。私の自己責任ですね、はい。

 昼休み。たぶん、今日の泰吾とマイは、レクトリア王国のダミーだろう。

 空は、そんなことを考えながら廊下を当てもなく歩いていた。時々すれ違う知人に曖昧な挨拶を交わし、友人からの遊びの誘いも断る。

 とにかく落ち着かない。


(先輩たちが私のために頑張っているのに、私にはなんで何もできないのだろう……)


 考え込んでいるせいで、明日香の前を通過したことすら気付かなかった。


「おや。誰かと思えば」


 しかし、そんな物思いを払拭させた一声。耳に残る声色のそれは、目の前の壁に寄りかかっている少年からだ。

 灰色の髪はウェーブ状になり、細目には、青い瞳がしっかりとこちらを刺している。空の記憶には、この学校にこのような生徒はいなかったはずだ。


「お悩みの様子かな?」

「え?」


 いつの間にか、空は校舎の外れ、体育館近くまで来ていた。このまま廊下を進めば体育館の入り口となる、その場所で、彼は口元に笑みを浮かべていた。

 突然の質問に、空は言葉を失う。「は、はい」と返事をしたのは十秒後だ。


「なにかあったのかな? よろしかったら相談に乗ろう」

「あ、ありがとう……ございます……?」


 親切なのは嬉しいが、少しぎこちない。オーパーツのことを話すわけにもいかず、空は肩をすぼめてごまかした。


「ふむ。あまり口にできないご様子だね」

「あ……すみません」

「別に構わないさ。……そうだ」


 彼は、いきなり空の手を取った。反射的に投げ飛ばそうかとも思ったが、不思議な手つきが彼女の行動を阻害する。


「よろしかったら、これ。きみの悩みが解決する、お守りだよ」


 その一言とともに、空は手のひらに何かが置かれるのを感じる。彼はそれだけ言い残し、微笑とともに階段へ消えていった。


「え? お守り?」


 空の手に残されたのは、なんとも小さな本。市販では見たこともない大きさの、まさに小人サイズの本だった。

 古びた革製の表紙に、何度も見覚えのある絵。

 赤い人型で、虎柄の腰布をした生き物。その特徴たる角が二本、頭から突き出ている。

 それを鬼と認識した瞬間、空の意識は少しずつ暗濁していった。




 自分の姿の幻影を纏った突撃。前回アキラスに破れた技であり、おそらくイニシャルフィストの切り札だ。

 それを最初からアキラスに放つ泰吾。

 前回同様アキラスも、ペネトレイヤの腹でそれを迎える。

 二つのオーパーツのぶつかりは、徐々に大きくなっていく。アキラスを押し続け、やがて彼の体は砂浜を引きずる。


「ほう。パワーは上がっているな」

「あいにく、柄にもなく、後輩にカッコつけてしまってな。こっちも負けられないんだ!」


 今度は、受け流すことはさせず、海に投げ入れるまで、泰吾の勢いは止まらなかった。


「後輩……あの睦城空か。なるほど」


 しかし、今のは決定打にはならなかったようだ。膝まで浸かった海の中、ペネトレイヤを杖にしながらアキラスは体制を立て直している。


「自らの言葉を呪いにしてしまったのか」

「違う!」

「違うかどうか、貴様の強さをみればわかることだ」

「なにっ……?」

「ふんっ!」


 アキラスはペネトレイヤで、海面を切る海水とともに混じった衝撃波は、一直線で泰吾に向かってきた。


「させるか!」


 しかし泰吾の前に、炎が盾となり割いる。アキラスは、水を蒸発させる炎をじっと見つめ、マイへ声を投げた。


「なるほど。それが貴様のエンシェントというわけか」


 砂浜のマイの背後には、炎で構成された犬が何匹も待機している。


「炎を自在に操る能力か。剣に入れるもよし、僕を従えるのもよし。なるほど、いい強さだ」

「あんたの強さ弱さがわけわからないわ! 興味ないけど、一体なんなのよ! 持論を広めたいの!?」

「違う。オレは、オレの強さを示したいだけだ!」

「結局持論広めたいってことじゃない!」


 マイがハウリングエッジでアキラスを指すと、犬たちは一斉に獲物へ襲いかかる。野生動物さながらの動き、しかも炎の犬たちは海水を蒸発させる温度で、アキラスへ食らいつこうとする。


「……なるほど、この場所を選んだのはそういうわけか」

「そうよ! 視界が悪いでしょ!」


 犬たちが移動するたびに、海水が白い水蒸気に変わっていく。アキラスの視界は、いまごろ白一色になっているはずだ。それに加え、泰吾も攻撃に混じっている。防ぐことはできても、攻めに転じるのは難しいだろう。


「小細工を……確かにこれはペネトレイヤでは勝てないが、」


 しかし、アキラスは余裕を崩さない。迫ってきた犬にペネトレイヤを投げ、相殺させる。


「貴様も知らないわけではあるまい。オレのオーパーツは、ペネトレイヤだけではない!」


 つまり、別のオーパーツを使うということだ。前回の鳥銃や、空から奪った雅風では、この状況に対応できるとは考えにくい。つまり、新たなオーパーツということか。


「使わせない!」


 彼が次のアクションに移るよりも先に、泰吾が飛び出す。

 エンシェントの瞬発力をもってすれば、アキラスの次の手を防げる。

 そう思った。

 だが、


「小細工は好まんが、貴様たちへの敬意だ。オレも出し惜しみはしない」




 泰吾の拳は、虚空を貫いた。


「え?」


 だが、すぐに事実を見定める。


「貴様は確かに力があるが、強くはなっていない!」


 上空にいたアキラス。しかし、様子がおかしい。

 彼の体は、まるでブロックでできていたかのように、直方体として分解されており、一つ一つが別々の動きをしていた。


「それでは、オレには勝てない!」


 ブロックたちは蜂の群れのように二人を襲い、犬をかき消し、炎をかいくぐり、マイを壁に打ち付け、泰吾をオーパーツの山へ投げ入れた。

 二人の前で重なるようにして作られるアキラスの体。見下した表情の彼は、黒い中世の鎧のようなエンシェントになっていた。


「これ程度か。ならば、貴様らの強さの証をいただく」

「ふ、ふざけんな! あんたのは強さって言うのかしら!? そのせいで、誰かを泣かせているあんたが!?」


 額から血を流すマイは怒鳴る。それに対し、アキラスはまっすぐに彼女へ答えた。


「違う! 強さとは力のことではない! 自分を信じる意思のことだ!」

「あんたの場合自惚れになってるのよ!」


 マイの炎が、アキラスへの狙いを外し、海へと放たれる。瞬時に蒸発する海水が立ち込め、海岸線のこちらへも広がっていく。


「……!」


 オーパーツの山から抜け出した泰吾。全身にオーパーツたちの角が刺さったせいで、皮膚があちらこちら破れ、血が流れる。しかも、打ちどころが悪かったのか、右足が言うことを聞かない。マイの前に行きたいのに、転がることしかできない。アキラスも少しだけ自分へ注目したが、もう彼に注意する必要はないと判断し、マイへ向き直る。


「お前はたしかに強い。貴様の名前を聞いてこう」

「やめろ!」


 アキラスのっ纏う雰囲気が変わる。泰吾の叫びに、もう意味はない。


「ふん。わざわざ教えるもんですか。被害者名簿なんて作らせないわよ」

「なら構わん」


 黒い鎧が、もう一度ペネトレイヤに戻る。長いランスの先端が、彼女の首に当てられる。


「解除するなら今だ。オレはあまり殺生をしないのでな」

「善人気取りもいい加減にしなさいよ。このド悪党が!」

「……さらばだ。愚かな強き者!」


 アキラスがペネトレイヤを振り上げた瞬間。


 あの時と同じ、いや。それ以上の光の柱が天へ伸びる。




「なにっ!?」


 その光は、初めて泰吾がエンシェントになったときのものに似ていた。しかし、それよりもより強く、より激しいものだった。


「この光、一体なんなの……?」


「まさか、やつは……!?」

「なに? なんなの!?」


 どうやらアキラスには心当たりがあるようだ。


「やつのエンシェントは、完全なものではなかったのか!?」

「完全!? エンシェントに完全も不完全もないでしょう!?」

「本来はな……どうやら、奴のオーパーツはいわくつきのものらしい」

「いわくつき……」


 敵と会話しているうちに、泰吾が埋もれていたオーパーツの山が、光の柱を囲うように飛んでいく。それらは天辺まで届くと、一斉に泰吾に向かって降り注ぐ。

 無作為にゾディアックから調達してきたそれらは、ひとつ残らず泰吾に吸収されていく。

 以前調べた結果、彼の体にはかつての戦神のオーパーツが埋まっていることが分かっている。ならば、


「もしかして、アイツの中でオーパーツが成長しているとでもいうの? そんなまさか……」


「面白い。もし貴様の言うことが真実だとすれば、奴の強さはより上がりやすいものになっているだろう。ならば、その強さを示してもらわねばならない!」


 アキラスはもう自分には興味がないのか、泰吾に勇んで挑んでいく。

 ペネトレイヤが、泰吾の体を貫く、

 かと思いきや、それは止められた。

 光の柱の消滅と、そこから現れた白い腕によって。


「なに?」


 そこにいたのは、より進化したイニシャルフィスト。

 篭手どころか、泰吾の腕そのものを抱擁する巨腕となり、ペネトレイヤを抑えている。


「なに……?」


 驚愕しているアキラスの目前にいるのは、

 腰からは二本のブースターを装備し、

 白いマフラーを潮風に揺らす、

 新生イニシャルフィストとともに、アキラスを睨む泰吾の姿だった。

ようやく来ました主人公の覚醒回。前? あれは、まあ、未完成形態ですから……

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