4th story 決断 2
「どこに行くの?」
部屋から出ていこうとする俺に、イヴが尋ねる。
「地上に戻る」
「駄目よ。魔王様から、地下に入っているように指令が出てるんだから」
「それは戦わない、一般人に対してだろ?」
「それじゃあ―――戦うの?どっちと?」
「人間とも魔族とも、俺は戦わないよ」
「?どういうこと?」
イヴが首をかしげる。
「俺が戦うのは―――そうだな。俺自身だ」
俺は一度、イヴの方を振り向いた。
「人類や魔族の、俺の友人達がみんな戦っているんだ。俺だけこんな安全な地下にいるんじゃ、あいつらに会わせる顔がない。どちらに味方するかの決心はまだついていないけれど、でも、地上に身を置く意義はあると思う」
「そう―――」
イヴはしばらく考える素振りを見せると、顔を上げて言った。
「私は止めはしないけど―――でも約束して。私はここで待ってるから。絶対帰ってきて。――――絶対」
「ああ。それは約束するよ。お前を置いていくことはない」
「―――絶対だよ?」
イヴは俺に念押しした。
「絶対。約束する」
俺はイヴを抱擁すると、部屋の扉を開けた。
「それじゃ」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
俺は扉を開けたまま、廊下へと足を運んだ。行き当たりの二股道まで行き、振り返ると、イヴはまだ、扉の中から俺を眺めていた。俺は彼女に手を振ると、手を振り返してくる彼女に背を向けて、地上への道を辿った。
地上に出る際、階段の前に居た兵士と一悶着あったものの、特に苦もなく、俺は地上へと出ることができた。兵士は皆、人類に抵抗するため都市内部からは離れており、他の一般人も皆、地下に避難しているため、地上はまるでもぬけのからだった。
とりあえず、都市周辺にあるだろう拠点に行き、戦況を聞くことにした俺は、自分の家に戻ると、車を走らせた。
町並みが寂しくなってから、しばらく車を走らせていると、前方に軍のテントを発見した。そのテントの前に車を止めると、音を聞き付けてやってきた兵士に事情を説明し、俺はテントの中に入れてもらった。
「今、最前線はどんな状況なんですか?」
テントの中で、一人だけ椅子に座っていた男に、俺は尋ねた。
「まだ交戦はしていない。ひとまず、海上基地から敵方面に向けて、威嚇射撃をお見舞いしておいたそうだ」
男はそう答えた。
「そうですか。どれぐらいで交戦すると予想していますか?」
「軍の上部の見解では、早くても明日以降になるだろうと言われている。ただ、時間はない」
「相手の戦力は?」
「前回の時の1.5倍ぐらいの数だとさ」
「勝機は?」
「まあ、第一と第二防衛線は、まず間違いなく突破されるだろうな。その後にこっちが全力をかければ、戦況は傾かなくもないが―――」
そこで男は口をつぐんだ。
「難しいんですね?」
俺がその後の言葉を補う。男は頷いた。
「ああ。魔王様二人が出陣なされば、また違った結果にもなるだろうが―――それは最後の手段だからな。迂闊にそれに踏み切るわけにも行かない」
どえやら、なかなかに厳しい状況のようだ。
次回更新は土曜日です。