3rd story 決断
魔族の兵士達は皆戦いに赴いていった。人類の今回の目標が何であるかは定かではないが、前回、俺が参加した討伐隊のように、多数の覚醒勇者で軍を編成し、前回と違い、目標が魔族の殲滅であるとすれば、一般の兵士達だけで人類に勝てるすべがあるはずがなかった。しかし、この町の住人達がやけに呑気なのには、いくつかの理由があった。
一つはやはり、ここが魔境の中心都市であることの安心感。一つは、これまでの史上、魔族が人類に負けたことがないという油断。一つは、双子の魔王の存在。
あの二人がどれぐらい強いのかは、俺は実際に目にしたことがないため知らないが、巷では、魔王一人の力は人類の勇者数千人分にも 匹敵する、だとか、魔王を殺せる存在は、同じ魔王以外この世には存在しない、だとか、そんな根も葉もないような噂話を耳にする辺り、実力が本物である可能性はあった。
国からの発令で、俺達は魔王の住む城の地下から続く、避難用の地下シェルターの中へ入れられた。シェルター内部は、まるで蟻の巣のように道が入り組み、無数の居住スペースが道の末端に設けられていた。各世帯ごと一つずつ、世帯の大きさによって部屋が与えられ、俺とイヴにもまた、二人で一つの部屋を与えられていた。
部屋は、居間とトイレ、風呂のみの間取りだった。地下のかなり深い場所では、空気の薄さや汚さが懸念されるようにも思えたが、ところどころどこかに巨大な通風口でもあるのか、空気はどこまで行っても、いつまで経っても、その鮮度を落とさなかった。
地下には特に娯楽がなかったため、暇潰しにと、多くの人はそれぞれ巨大な部屋を与えられた人物の所へ集まり、談笑したり、誰かが持ち込んだ娯楽で時間を潰した。
俺はというと、誰かの部屋に邪魔するわけでもなく、自分達の部屋に籠り、ひたすら壁と向き合い、考えていた。
俺は果たして、どちらの味方をするべきなのか。
魔族の味方をするべきか。しかし、それでは部長や、サルゴン達とも戦わなくてはならなくなる。
人類の味方をするべきか。しかし、魔族にも、親しい人物は沢山居る。それに、ヴェーダの意思を継いだ以上、アクピス教の手助けはしたくない。
俺にはやはり、この葛藤に答えを見いだせそうになかった。
「ここに来てからずっと、何を考えているの?」
イヴが、俺の背中に尋ねた。
「いや、ちょっとな―――」
「人類の方には、やっぱり友達が?」
「―――ああ」
「だから、人類の味方をしたい?」
「いや―――」
一つだけ、はっきりしていることを俺は口にする。
「間違っても、お前を置いて行くようなことはしない」
「―――そんなに重く感じなくていいのよ。私は、貴方の生き方を否定したりはしない」
「駄目だ」
人類だとか魔族だとか、そういうことじゃない。そんなことは関係なしに――――
「駄目なんだ」
一つ分かった。俺の相手が何であれ、俺が守るべき者は、本当に守りたいものは一つ。
「お前は家族だ。家族のためなら、俺は何でも捨てられる。友情だって、何だって」
家族を守るためなら、俺は鬼にでも、死者にでも、悪魔にでも何にでもなってやる。
次回更新は水曜日です。