2nd story 逡巡
「人類が―――」
「まあ、そのうち来るだろうとは思っていたよ」
人類が攻めてきたというのに、二人はやけに冷静だった。俺はしかし、冷や汗を抑えることが出来ず、二人の冷静さにはむしろ不気味さを感じた。
「それで、それを発見したのはどこなんだい?」
タムズが人類の侵攻を伝えに来た兵士に尋ねる。兵士は、震える声で、沿岸から百キロ先の海上です、と答えた。
「それじゃあ、まだ上陸までには猶予があるね」
「直ちに、全国民に発令しろ。レベル3だ」
「は!」
兵士はそれでも、キビキビとした敬礼をして部屋から駆け足で出ていった。
「「さて」」
タムズとキースが同時に振り向く。
「というわけで、唐突にこんな事態になってしまったわけだが」
「君はどうするんだ?シェル」
「どうする、とは?」
「どっちに味方するんだい?」
「僕達魔族か、それとも人類か」
二人は、これまでにない険しい表情で俺を見詰めた。
「これは君が決めることだ」
「その結果を、僕達は否定しないよ」
俺は躊躇わずに答えた。
「俺が味方するのは、俺と同じように、人類と魔族の共存を目指す者達です」
「それはつまり」
「明確にはどちらに味方するということだい?」
「貴方達魔族です」
「そうか―――」
キースが口をつぐむ。
「例え、攻めてきた人類の中に、君の友人や親族がいたとしても、同じことが言えるかい?」
タムズの言葉に、俺はハッとした。脳裏に、部長やサルゴン達武術部の仲間、メルシス達、討伐隊で出来た友人達の顔が浮かぶ。今回攻め込んでくる人類軍の中には、間違いなく彼等が居る。果たして、俺は彼等と命のやり取りが出来るだろうか――――――
―――――――俺には、その覚悟はできなかった。
「―――君は、この町に残っているといい」
キースが口を開く。
「この戦争は、僕達だけで捌くよ。これまで通りに」
「でも、それじゃあ―――」
俺は何のためにここへやって来たのか。ヴェーダのリウィウスさん達を置いてきてまでここへやって来た意味が、それではなくなってしまう。
「何、逃げることは間違ったことじゃないよ」
「心の分別もつかないうちに決断することの方が愚かだ」
「参戦は、君の心が定まってからでも遅くはないだろう?」
「今はとにかく、妻のイヴと一緒に居てやるといい」
二人は席を立つと、部屋の扉を開けて俺を促した。
「君は家に帰って、安全を確保しておくといい」
「それと、国から出る指令には、必ず従うように」
「これは、皆の安全を守るためのものだからね。一人でも従わない者が居ると、支障が生じてしまうんだ」
「僕達はしばらく、この城から離れる」
「また今度会おう」
「また今度」
二人に促され、俺は家への帰路についた。
遅くなりました。申し訳ありません。
次回更新は土曜日です。