1st story 日常は突然に終わる
「今日だっけ、キース様とタムズ様と会うの」
玄関で俺が靴を履いていると、台所で昼食の食器を洗っていたイヴが、俺を見送りにやってきた。
「そう。毎月恒例の会談だよ」
「今月はちょっと早いわね」
「あっちが、上手く予定を組めなかったらしいんだ。それで早まった」
「そうなの。気を付けて行ってらっしゃい」
「うん。遅くとも、夕飯までには帰るよ」
行ってきます、と言って俺は家を出た。車で、町の最深部にある魔王達の住む城へと向かう。道は空いていなかったが、二十分で目的地には到着した。門番に顔を見せると、門番は事情を察し、門を開けた。彼らとも、今では顔馴染みだ。
所定の位置に車を停め、玄関を訪ねる。入り口で待機していた使用人に案内され、俺はいつもの部屋へと向かった。
「やあやあ、待ってたよ」
「待ちくたびれたよ」
部屋の扉を開けると、二人の魔王が、中央に据えられた円卓の周りに座っていた。俺は二人の隣に置かれた椅子に座ると、手前にある紅茶をすすった。
「君がここに来てから、もう二年か?」
「違うよ、タムズ。三年目だよ」
そうだよね?とキースが俺を見る。俺は頷いた。
「そうか。三年目か」
「色々あったものだな、三年のうちに」
「結婚するなんて、思ってもみなかったよ」
「しかも、僕達よりも早いし」
二人は一息吐くと、同時に紅茶を飲んだ。
「家庭の方はどうだ?」
「うまくいってるのか?」
二人が俺に尋ねた。
「イヴかい?関係は円満だよ」
「そうかい。それならよかった」
「くれぐれも、喧嘩はしないようにね」
「まあ、結婚していない僕達がこんなこと言ってもね」
「説得力なんてありゃしないけどね」
はは、と自嘲気味になる二人。
「それで?」
「子供の顔は、いつ見れるんだい?」
二人が、にやにやと俺を見詰める。
「―――親戚じゃあるまいし」
俺は溜め息を吐く。
「まあ、気長に待っててくれよ」
「って言い出して、もう一年だよ?」
「僕達はもう十分に待ったよ」
「いや、せめてもう一年―――」
頼むから、そんなに急かさないでくれ。
その時、部屋の扉が慌ただしく開かれた。
「おいおい、開けるときはノックぐらいしろよ」
中に入ってきた部下に、キースが注意する。しかし、部下はそれどころではない様子で、俺達の前に立つと声を張り上げた。
「緊急です!人類が! 人類が攻めてきました!!」
最終章「破壊編」スタートです。
一話目で、いきなりのことにおいてけぼりになるかもしれませんが、この章では、ところどころでこんな現象が起きるかもしれません。一先ず次回は、スローテンポに戻ります。
次回は水曜日です。