24th story 人類と魔族
「君が魔境に来ることになった過程は、一応聞きはしたんだけどね」
「重要なところで間違えていたりするといけないから、もう一度、君の口から説明してくれないかな」
双子の魔王に再度の説明を求められた俺は、自分が討伐隊として魔境にやって来た時のことから、求められる限り細かく成り行きを説明していった。
俺の説明が、あの駅前での騒動からの“悪魔”と言う呼称のくだりに入ると、魔王の二人は、互いに顔を見合わせて、唐突に笑いだした。どうしたのだろうか。俺は口をつぐんで二人を見た。
「ああ、いや、ごめんよ」
「何でもない。続けてくれ」
俺は説明を再開した。半アクピス教組織、ヴェーダと、それに加入した話。そして、アクピス教の襲撃―――
全てを語り終えるのには、三十分以上を要した。成る程、と二人の魔王は頷く。
「それにしても、滑稽だね」
「皮肉だね」
彼等は言う。
「“悪魔”だってさ」
「“悪魔”だってね」
クスクスと二人が笑い合う。意味の掴めない俺は、思いきってどういうことかと尋ねた。
「そもそも君達は、思い違いをしているのさ」
タムズ・アカドが言う。
「そうそう。“悪魔”っていうのは、神に逆らって地上に堕ちた天使のことを言うんだよ」
続いて、キース・アカドが口を開く。
「つまり“悪魔”とは、裏切り者のことを指すんだよ」
「親と喧嘩して、勘当されるようなものさ」
―――裏切り者。確かにそうだ。アクピス教や人類からすれば、魔族との共存を望む俺達は裏切り者だろう。そんなことなど、前々から承知している。それの何が可笑しいのだろうか。俺が今一腑に落ちない顔をしていると、二人は再び説明を始めた。
「そもそも、僕達魔族からすれば、裏切り者は人類の方なんだよ」
「“悪魔”と言われるべきは、本来は人類の方なんだよ」
つまり、どういうことなのか。俺には未だ、二人の言わんとしていることが分からない。彼等は顔を合わせると、さらに詳しい説明を始めた。
「今の人類の祖先は、二種類あるんだよ」
「一つは、今の人類領域である大陸に、ずっと昔から暮らしていた、いわば原住民」
「もう一つは僕達―――魔族なんだよ」
「え!?」
俺は目を見開いて、すっとんきょうな声をあげた。人類の祖先が―――魔族?
「今から二千年以上前のことだね。僕達魔王の血筋の人物で一人、野心を持った男が居たんだ」
「彼は血縁上、魔王にはなれなかったんだ」
「実兄がいたからね」
「でも、彼は魔王になりたかった」
「だから、実兄の暗殺を企てた」
「けれども、その計画が父である魔王にばれて失敗。投獄された」
「結局彼は牢獄から逃げ出し、人類領域へと渡った」
「そこで、まだ文明の発達のなかった原住民と接触し、自らの知恵を武器に、王よりも上の存在、“神”として君臨した」
「その彼こそが、今の君達の言う、アクピス教教祖」
「ピシウスだね」
「てことは、どのみち俺の体には、魔族の血が―――?」
俺は二人に尋ねた。二人は首を横に振ると、次の説明を始めた。
「そうじゃあなかっただろうね」
「けれども、何らかの形で、“勇者”と呼ばれる者の体内には、“魔王”の血が流れているだろうね」
「でなければ、勇者が魔王を除く魔族達より強いことに説明がつかない」
「僕達にも、人類のことはよくわからない」
他に質問はあるかい、とタムズ。俺はしばらく思案したあとに、二人に尋ねた。
「俺は魔王の血を微量ながら継いでいるらしいですが、そんな俺が他の勇者のように“覚醒”しないのは、何故ですか?」
元から俺が覚醒していた可能性は、ステータスプレートに“未覚醒”とあることから、切り捨てていいだろう。
「先代は、ヘロドトスにそれを伝えていなかったのか?」
「先代もまさか、ヘロドトスの子孫に“勇者”の適性が発現するとは、思っていなかったんだろうね」
「だから君も知らないわけか―――分かった。説明しよう」
「とはいえ、僕達にも確証はない。恐らくの話にはなるんだけど」
「なんせ、前例がないからね」
「君が覚醒するのには、おそらく魔王の血を直接摂取する必要がある」
次回更新は土曜日です。