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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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23rd story 内陸へ

翌朝、俺は魔族の男に叩き起こされた。軽い食事をもらい、再び数名の見張りと共に車の後部座席に乗り込む。それから数時間、車は内陸に向けてひた走った。


途中、休憩や食事を挟みながら、五時間も走っただろうか。車が停車し、運転手が窓から顔を出して、外に居るらしい人物と何やら喋りだした。その話をかいつまむと、どうやら車は、これから市街地へ入るようだった。


俺の席からでは、外の様子を見ることはできないが、いよいよ魔族の生活の真っ只中へ入っていくのだと思うと、緊張が増してきた。


運転手が外の人物と話を終えた。しかし、車は発進しなかった。少し待て、と運転手が後部座席の俺達に言った。


二十分が経過した。運転手が、再び外の人物と言葉を交わし、それからやっと車は出発した。


次に俺が車から降りたのは、それから三時間後だった。その間は、一度も休憩もとられず、ひたすらに車が走らされた。


俺が降ろされた場所は、建物の中だった。周りはコンクリートで覆われている。


降ろされた俺を、車の周りで待機していた、武装した魔族達が囲んだ。一人が俺に手錠をかける。


「この先で不振な挙動を見せた場合は、直ちに射殺する」


彼は俺を脅すと、付いてこい、と先導した。武装した魔族に囲まれながら、俺は建物の中を進んだ。


しばらくも歩かないうちに、前方に上へ登る階段が見えた。その階段を上りきると、その先には、大理石で作られた廊下が伸びていた。大理石―――どこか記憶に引っ掛かった気がして、俺はその記憶を遡った。


ああ、そうだ。ヘロドトス・クライマンの“クライマン”の中に、そんな記述があったはずだ。それとこの光景が同一のものであるとすれば、俺が今向かっているのは“魔王”の下―――


その予想は、当然のように的中した。廊下の突き当たりで、ひときわ大きな扉を前に、それは確信に変わった。


俺の前方を進んでいた魔族が、扉の両脇に立つ衛兵らしき二人に軽く会釈する。すると一人が、俺を見据えたまま手の甲で扉を三回ノックした。


扉が、内側からゆっくりと開かれる。扉が開ききる前に、俺は中へ進まされた。


扉の先は大広間だった。入り口から正面に、一直線にカーペットが敷かれてある。俺はその上を、ゆっくりと歩いた。


正面奥には、二人の人影があった。俺はその二人を目指して歩いた。トントン、と、俺のくぐもった足音だけが響く。歩みを進めるにつれ、広間奥に鎮座する二人の魔族の姿がハッキリと分かるようになってきた。


彼らの服装は、しかし彼らが位の高い人物であることが一目で分かるものではなかった。二人はどちらも、一般の人類が私服として着ているような、ラフなものでああり、決して威厳を示すようなものではなかった。二人は、魔王ではないのだろうか。それとも、これが魔族の今の正装とでも言うのだろうか。


「ようこそ、魔境へ」


俺が二人の手前、カーペットの途切れる場所で立ち止まると、二人のうちの右の片割れが口を開いた。


「話は聞いたよ、シェル・クライマン。血縁上は、僕達の遠い親戚に当たるね」


もう片方が、そう言った。遠い親戚―――彼は魔王で間違いないだろう。


「自己紹介といこう。僕達が、現在の“魔王”だ」


「“僕達”―――?」


聞き間違いかと思い、俺は思わず敬語を忘れて聞き返した。


「そう。“僕達”、 だよ」


しかし、二人にそれを気にした様子はなかった。二人は続ける。


「僕、タムズ・アカドと」


「僕、キース・アカドは」


『双子の魔王だ』


まるでそれを示すかのように、ピッタリな息のタイミングで二人は言った。

次回更新は水曜日です。

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