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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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20th story 決断

アクピス教の追っ手が俺達を攻めてきたのは、卑怯にも夜中の出来事だった。数人が見張りをしていたおかげで、寝込みを襲われることはなく、接触までには余裕があったが、ほとんどのメンバーは体が鈍っていて、戦うのは無理な様子だった。


「森の中を、北西にひたすら走る」


リウィウスさんはそう決断した。


「夜中に森を走るのは危険だが、奴等から逃げるというのであれば、他に手段はない」


「戦わないんですか」


誰かがリウィウスさんに尋ねた。


「どう戦う?こっちは戦力も揃っていなければ、武器もない。正面から抵抗するのは、最後の最後だけだ」


時間がない、とリウィウスさん。


「シェル、これを受け取れ」


リウィウスさんは、俺に紙と方位磁針を手渡した。


「何ですか、これは」


「君は一人で、その紙に書いてある通りに逃げろ」


紙の内容を見ようと、折り畳まれたそれを開けようとした俺だったが、リウィウスさんにそれを遮られた。


「おっと、まだここでは開けないでくれ。君の行き先を知るのは、この中では僕と君だけである方がいい」


アクピス教との内通者が居るかもしれない。先刻、リウィウスさんが打ち明けたことを、俺は思い出した。


「僕達が集団になって逃げることで、奴等の目を君一人からなら反らすことが出来る。そうしている間に、君は魔境へ逃げるんだ」


「出来ません」


しかし俺は、そう即答した。


「皆を捨てて俺だけ逃げるなんて、そんな真似は出来ません」


「出来ないじゃない。やるんだよ」


リウィウスさんの口調が、険しいものに変わった。


「さっきも言っただろ。アクピス教の追っ手を振り払って魔境にたどり着ける可能性が一番高いのは君なんだ。だから僕達は、君を逃がすために囮になる。僕達の夢を実現するのに、もっとも確実な方法はこれなんだ。僕達は君にかけてるんだよ。これまでの人生を捧げて目指してきた夢を」


「―――俺には無理です」


そんなに大きなものを背負える自信が、俺にはなかった。


メンバーの一人が、俺に胸ぐらを勢いよく掴んだ。


「やれって言ってるんだ!甘えてんじゃねえ!」


男は俺に向かって怒鳴った。


「リーダーがお前をしんじて、やれって言ってるんだ。お前ならできるからそう頼んでるんだよ。そうであるなら、俺達は何にも反対しねえ。お前に命を預けてやる。それについて文句のある奴は、そもそもヴェーダにいねえ。だから、俺達囮のことは気にするな。お前は魔境にたどり着けばいいんだ。俺達の夢を叶えてくれりゃいいんだ」


「本当に時間がない。シェル、重荷なのはわかってる。でも、これひかない。覚悟を決めてくれ」


リウィウスさんが、俺の決断を急かす。


「―――――魔境で待ってます」


それが精一杯だった。彼らがアクピス教に捕まるなど、考えたくもなかった。


リウィウスさんは満足げに頷くと、五十人を連れて森の中へ消えていった。一人取り残された俺は、リウィウスさんから渡された紙を開いた。


“南西に向かって森の中を走れ。市街地まで出たら、以下の連絡先へ連絡し、指示をあおげ”


紙にはその一文と、連絡先が書かれてあった。俺は方位磁針で方角を確認した。


ふと、北西の方で悲鳴が上がった。皆に、アクピス教の攻撃が及び始めたのだ。今にでも駆けつけて、加勢したい。けれど、それでは彼らの決断を無駄しにてしまう。同じ志を持つ仲間である以上、そんな真似はできなかった。


「けど―――いや」


行きたい―――加勢したい―――だけれど――――――


「くそ!!」


振り切るように、俺は南西に向かって駆け出した。

次回更新は土曜日です。

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