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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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17th story 曇天

騒動から二週間も経ったある日の朝、俺は自室の扉を激しく叩く音で目覚めた。俺は寝癖を気にしながら扉を開けた。廊下に、“ヴェーダ”の一員が立っていた。


「起きたか!アクピス教が攻めてくる!五分以内にリーダーの部屋に行け!」


男の背後を、数人が駆けていく。


「急げ!」


男が怒鳴る。俺ははっとして、部屋に戻って着替えを始めた。着替え終えてから、必需品を探して部屋中を探り、腰下げのバックに詰め込んでいく。


廊下を、何人もの男女が走り抜けていった。大方必要なものを身に付けた俺は、ヴェーダのリーダー、リウィウスさんの部屋へ向かった。


リウィウスさんの部屋に入ると、部屋の左側に積まれていた本が右に寄せられ、左奥隅の床から下に続く階段が現れていた。リウィウスさんは、その階段の横で順々に人を押し込んでいた。


「シェル、君も早く中へ」


リウィウスさんが、俺に気づいて声をかける。


「この階段は一体?」


「緊急脱出用の、秘密の通路さ。中に降りて、みんなと合流してくれ。くれぐれも先に進まないような。迷って餓死するかもしれないからね」




「餓死?」


「ちょっとした迷路になっているんだ。―――そんなことよりも、急ごう。奴等が来る」


リウィウスさんに急かされ、俺は階段を降りた。狭く急な傾斜の階段をゆっくりと、二十段ほど降りると、やがて広場に出た。天井の高さは、立つのには十分な高さで、広さはざっと学校の体育館ぐらい。明かりは広場にはあるものの、その先に無数に枝分かれしている通路は闇に覆われていた。


そこに、ヴェーダ本部に在中しているメンバーおよそ五十人が集まっていた。俺のあとから五人が広場に降りてくると、頭上で大きな音がした。リウィウスさんが、この広場へ続く扉を閉めたようだ。広場は少し暗くなった。


「この先は明かりがない。何人かにライトを渡すから、決して僕を見失わないようにしてくれ」


リウィウスさんは階段そばに立つ数人にライトを手渡した。俺にも渡される。


「それじゃあ、僕に付いてきてくれ。くれぐれも、脇道に逸れたりしないでくれよ。中は灯りが一切ないから、ライトを持っていても迷ったらおしまいだ」


リウィウスさんは俺達を掻き分けて最前列に立つと、左から数えて八番目の通路に足を向けた。


「リーダーの部屋が散らかっていたのって、この通路を隠すためだったのかな」


誰かが呟く。多分、それは正解だけれど、あの人の場合、どのみち散らかっていたんじゃないのかとも思えてくる。


ライトを渡された俺達数人は、等間隔にならんで、その間にライトを持たない人を挟むようにして、リウィウスさんの後に続いた。


リウィウスさんは入り組んだ道を、ライトの明かり一本だけを頼りにぐんぐんと進んでいった。道はある程度舗装されているものの、ところどころ窪んでいたりしており、何度か躓きそうになりながら、俺達はリウィウスさんの背中を追いかけた。


歩き始めてから、三十分が経過した。道はまだ終わりそうにない。


「リーダーは、この複雑な通路を丸暗記してるんだろうか」


俺の後ろを歩く男が呟いた。


「だろうな。あの人は化け物って言う話だ。噂じゃ、部屋に積まれている本の内容すべてを、そっくりそのまま暗記しているらしいぜ?」


別の男が答えた。


「それは流石に言い過ぎだろ。一体、どれだけの本があそこにあると思ってるんだ?公民施設の小さな図書館よりはあるぞ」


「聞いた話だと、二万冊ぐらい」


「多すぎるわ。流石に全冊暗記はしてないだろ」


二人の会話はそこで途切れた。再び無言で、黙々と足を運ぶようになる。


更に一時間が経過した。俺達は一度休憩をとることにした。道のはしにそれぞれ腰を下ろす。


「予定では、あと三十分ぐらい歩けば到着する。みんな、もう少し頑張ってくれ」


リウィウスさんがそう声をかける。もう少し辛抱しなくてはならないらしい。とはいえ、魔族討伐隊として軍に一年間訓練された俺には、あと三十分の行軍など、そう難しいものでもなかった。それよりも、インテリ系であろうリウィウスさんの方がきついはずだ。


休憩を終え、再び歩き始める。


アクピス教がヴェーダ本部にまで攻めてきたとなれば、全面戦争の可能性も大きくなってくる。もし全面戦争となったとき、果たして俺は信念を曲げずに遂げられるだろうか。


先行きは怪しい。

次回更新は土曜日です。

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