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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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16th story Irreplaceable Daily Life

「なるほど。事情は大体分かった」


“ヴェーダ”の本部に戻った俺は、リウィウスさんにことのいきさつを説明した。リウィウスさんは相変わらず、本が乱雑に積まれた部屋の中で椅子に座って、俺の説明を聴いていた。


「しかし―――正直なことを言えば、今アクピス教とやりあうのは避けてもらいたかった」


リウィウスさんは、いつになく神妙な面持ちで俺に言った。


「何か―――不味かったですか?」


「一年前に、僕達ヴェーダの中の過激派の集団が、電車ジャック事件を起こしたんだ。君も知っているな?」


俺は頷いた。知っているも何も、その現場に居合わせたのだが、そのことは伏せておく。


「あの事件で、アクピス教の僕達を見る目が、更に厳しくなった。この一年で、結構な数のヴェーダの構成員がアクピス教に捕らえられている。その上彼等は、君も参加した魔族討伐隊の成功を利用して、一気に信者を増やそうと企んでいる。そんなところに反乱分子が現れたら、そりゃ、全力で叩き潰しに来るさ。―――バッドタイミングだよ」


俺は間が悪くなって頭を項垂れた。


「まあしかし、過ぎたことを言っても仕様がない。とりあえず、君のことは僕達が匿うよ。必要あれば、君の両親も。そうして事が冷めるまで待とう―――全面戦争だけは避けなければならない」


「全面戦争―――戦い方によっては、勝てなくもないんじゃないんですか?」


「どうしてそう思う?」


「だって、そもそもアクピス教の中枢は年老いた人物が多数です。彼等さえ何とかしてしまえば、アクピス教は麻痺する。そして、彼等を警護している勇者たちが居るとは言え、それも、誰もがヒデ・ヤマトよりは弱いはずです。ならば、こっちも頭数さえ揃えれば、何とかなるようにも思いますが」


「君は、ヒデ・ヤマトが本当にアクピス教の中で一番強いと思っているのかい?」


「そうではないんですか?」


「いや、実際のところは僕にもわからないんだけどね―――おそらく、アクピス教の中には、もっと上がいるよ。でなければ、アクピス教がここまで栄えるはずがないんだ。僕の言っていることは分かるかい?」


俺は首を横に振った。さっぱりだ。


「現在のアクピス教の人気の大元は君の言うようにヒデ・ヤマトだ。でもアクピス教は、ヒデ・ヤマトの存在している今だけが殊に人気なわけではないだろ?昔から―――千年以上前から、彼等は人類の中でもっとも巨大な組織だ。つまり、アクピス教はヒデ・ヤマトという一枚岩の上に成り立っているわけではないはずなんだ。――――裏にはきっと、もっと強大な何かがあるはずだ」


「例えば―――“ピシウス”とか?」


「十分あり得るね」


リウィウスさんは肯定した。


「もっとも、その“ピシウス”が本物かどうかは別だけどね。そういった、より上位の存在が上に居ることは間違いないだろう、と僕はにらんでいるよ」


「だから―――全面戦争はできない」


「そう。相手の手の内が全く読めていないからね」


リウィウスさんはそう言うと立ち上がり、部屋の扉を開けた。


「付いてきてくれ。取り合えず、当分の間君が生活する部屋に案内するよ」


廊下を歩き出したリウィウスさんの後を付いていく。リウィウスさんの部屋から五室ほど離れた部屋の扉を、リウィウスさんは開けた。


「ここが君の部屋だ。普通のアパートと変わらないぐらいの設備は揃っているはずだ。君の私物については後日届けさせるようにするから。しばらくはここにあるもので我慢してくれ」


俺は自分の部屋に足を踏み入れた。トイレや水道、風呂、ベッドは勿論、テレビや冷蔵庫まで備え付けられている。


「しばらく休んでいてくれ。少ししたら、他の人に、本部の中の共同設備を案内させるよ」


リウィウスさんはそう言うと、俺を一人残して部屋を出た。

次回更新は水曜日です。

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