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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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14th story 駅前騒動2

「そこを通せ」


人だかりが左右に割れ、その前方で演説をしていた男が、シェルの前にやって来た。


「聞き捨てならないな、小僧」


「何の事ですか?」


恐らく無駄だろうとは思いつつ、一度、とぼけたふりをしてみる。


「小僧、貴様、ピシウス様の事を“腹黒い奴だ”と言ったな?」


この距離で、俺達の会話がよく聞こえたな。思ったよりも響いてたのか?


「ええ、言いました。けどそれは、ピシウス―――様が、本当に自分の事を寛大だとか語っていたら、という前提ありきでの話です」


「貴様はピシウス様が寛大であることを信じないと言うのか?」


「少なくとも、自分で自分の事を寛大だ、と評価する奴は、まともじゃないように思えますけどね」


「事実を述べることの何が悪いのだ?仮にそれが、自分の事であったとしても、ピシウス様が寛大なのは事実だったら、ピシウス様が自分をどう語ろうと、あの方の勝手ではないか。―――いいや、そもそも、貴様や我々がピシウス様にもの申すなど、許可されるわけもないのだ」


「寛大が事実―――ねぇ。なるほど、何をされたのかは分からないが、それにしても、自分が裏切られたからといって何千年もその子孫を恨み、それを人類に強要することを、ここでは寛大と言うのか。俺の知っている寛大とは偉い違いですね」


「ならば貴様は、決して他人を恨まないと言うのか?」


「いいえ。俺は寛大でもなければ、聖人でも、人格者でもありませんから。でもその点、ピシウス様は寛大で、聖人のようで、人格者なのでしょう?なら、他人を恨む事なんてないはずですよね?」


「何を勘違いしているのか知らんが、私の言っている他人とは、人類の事であって魔族などという獣は含まれないぞ。あんな蛮族を我々人間と同等に扱うとは、さては貴様、魔族の回し者だな?」


どうしたらそんな結論に至るんだよ。宗教家って怖い。


「蛮族?彼等のどこが蛮族なんですか?彼等は争いを好まず、逆に友好的で、博識で、独特の文化を持ち、人類ですらも受け入れる“寛大な”精神を持っている。俺たちと同じように楽しむ心や、悲しむ心、喜ぶ心、怒る心、愛する心を持っている。むしろ、我々人間やピシウスより、彼等は寛大なんですよ?」


「どこまでもピシウス様を愚弄し、魔族を擁護するか―――貴様、やはり、魔族の者だな?―――捕らえて斬首し、その首を晒し者にしてやる!」


いつの時代の発想だよ。何て悠長に構えていたら、唐突にその男が俺に飛び付いてきた。俺はそれを咄嗟に回避する。


「ちょ!ユグ!逃げるぞ!」


「お、おう」


俺はユグの手を引いて、その場から逃れた。


「逃がすな!奴は人類に敵する者だ!追え!」


後方で男が叫ぶ。すると、それに呼応し、男の演説を聴いていた聴衆が皆一様に俺達を追い始めた。


「嘘だろ!?鶴の一声かよ!」


狂信集団怖え。


「ユグ!全力で走れ!」


「これが――――全力――――ッだ」


なんてこったい。こいつ、鈍足だ。俺達と後方の狂信者集団との距離は、みるみる縮まっていく。


「人の皮を被った悪魔め!その化けの皮を剥いで、醜い姿を晒してやる!」


後方集団が、悪魔め!悪魔め!と騒ぎ始める。何だか、もう泣きたい。


「ユグ!背中に乗れ!その方が速い!


「―――ッ!でも」


「いいから!」


俺は無理矢理ユグを背負うと、車と同じくらいの速度で市街地を駆け抜けた。


「畜生!どこに逃げりゃ!」


逃げ場が思い当たらない。俺はひとまず、学校方面へと走った。


「とりあえずユグ、お前は家へ帰れ!俺と居ても危ない!」


この先、何があるかわからない。俺はなるべく早く、ユグと別れる事にした。俺は人通りのない道へ駆け込むと、ユグを背中から降ろした。


「それじゃあ、俺はこのあと、追っ手を撒ききらないといけないから」


「分かった。明日学校で会ったら、なにかおごるよ」


そう言ってユグは、道を小走りに去った。あの野郎。軽くフラグを残していきやがったよ。


ユグが安全に路地を抜けたのを見届けると、俺は大通りに出た。


「そこで止まれ!悪魔め!」


しかし、いつの間にか大通りに、数名が俺を待ち構えていた。どうやら、勇者適性者が何人か居たようだ。


「貴様はもう逃げられないぞ!観念しろ!」


「いや、全然余裕。まだ本気出してないから」


その数名を煽りながら、俺は路地を引き返そうとする。だが、


「本気を出しても無駄さ」


後方は別の人物に遮られていた。それも、最悪の相手だ。


「俺からも逃げられるというのなら、話は別だがね」


人類最強の男、ヒデ・ヤマトが俺の前に立ち塞がった。



次回更新は水曜日です。

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