12nd story 加入
反“アクピス教”組織の“ヴェーダ”に加入することになった。そう告げると、親父は眉間を右手でつまんだまま俯いて膠着した。
「一般的な思考を持っていれば、それがどれぐらい愚かに思われるかは分かっている。けれど、俺にはどうしても、その“一般的な思考”が正しいようには思えない」
「――お前は分かっていないよ―」
親父が口を開く。
「それがどれくらい愚かなのか、お前は分かっていない。“アクピス教”はあれでいて過激な組織だ。あれに敵対した者は、あの手この手を使って社会的に抹消される。時には、路上でケンカを起こしてそのまま死亡、何て場合もある。命が危険にさらされるんだぞ」
「そんなことは元から承知だよ。それを知った上で、俺は“ヴェーダ”に入ると決めたんだ。命を懸けて」
俺の言葉にら親父が絶句する。
「本気で言ってるのか?」
「至って本気さ」
「―――馬鹿げてる――いや、狂ってる――――」
「俺から言わせれば、“アクピス教”の思想の方が狂ってる。勿論親父達に迷惑はかけない。だから、今回は俺のやりたいようにやらせてくれ」
「息子の命がかかってるんだぞ。そう簡単なものか」
「命がかかってるって言うのなら、“討伐隊”に参加したときだって同じだったじゃないか。今更だよ」
「それは―――そうだけど―――」
親父はしばらく黙り込んだ後、俺に尋ねた。
「どうして、そんなに強く決意したんだ?何があった」
「じいちゃんから、ひいじいちゃんとその父親の―――リキニウスとヘロドトスの話を聞いた」
「あの作り話か―――まさか、真に受けたわけじゃないよな?」
「あれは作り話なんかじゃないよ。真実さ」
「シェル、お前ももう、物事の分別はつくだろ。あれは作り話さ。第一、証拠がない」
「証拠ならあるさ―――とびきりのがね」
俺はそう言うと、用意していた“クライマン”を親父の前に置いた。
「これは――――“クライマン”....?」
「俺が魔境に討伐遠征で行ったときに見付けた。じいちゃんが親父にしか話さなかった話はおろか、親父にも話したことのない内容まで、魔族語で書かれてある。この本が存在する限り、それはじいちゃんのあの話が真実だったという証拠になる」
親父は“クライマン”を手に取ると、適当なページを開き流し読みした。やがて、その内容に没頭し出した親父が顔を上げるのを、俺は待った。
「シェル――――一人にさせてくれ」
“クライマン”を俺に突き出して、親父はそう言った。
「親父、悪いけど、親父がなんて言おうと、俺は“ヴェーダ”には加入する」
俺はそれだけ言うと、親父を残して部屋を出た。
親父は結局、一週間経っても俺に結論を示さなかった。そうして、親父の結論を聞くことなく、俺は“ヴェーダ”に正式に加入した。
その週末、俺は駅前でユグと待ち合わせた。一年前に“ヴェーダ”の起こしたバスジャックによって行けなかったカラオケに、今度こそ行く約束をしていたのだ。
ユグの乗る電車が着くという時間を図って、駅へ向かう。駅へ到着すると、ユグは既に駅前に出ていた。
「あれ?早かったな」
時計を眺めても、ユグの乗ってくると言っていた電車の到着予定時刻には、まだ十分早い。
「ああ、それがな、教が楽しみすぎてな。一本早いやつに乗ってきちまったんだよ」
「いや、待ておい!一本早いやつって、二時間前だろ!?お前馬鹿か!?」
いやぁ、とユグが照れたように笑う。
「―――一年経ったってのに、全く成長してねえよこいつ―――」
こいつの馬鹿さ加減は、どうやら健在だったようだ。
いろいろ忙しいんです。すみません。
次回更新は水曜日です。