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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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11st story “ヴェーダ”加入へ

「事実を知った後、儂の父、リキニウスは魔族の王、ラモンの説得に回った」


休む間もなくそこまで語ったじいちゃんは、初めて一息を置いた。


「その説得に関しては、儂も詳しく知らない。知っているのは、ラモンが思った以上にあっさりと引き下がったらしい、ということだけだ。父の説得に応じたラモン率いる魔族は人類領域から撤退。“人類の聖戦”と呼ばれる、五十年にわたる戦争は終結した―――そうだ」


“そうだ”という伝聞の曖昧な終わらせ方をしたじいちゃんは、溜め息を一つ吐いた。


「正直、これまで一切、眉唾なものと気にも留めていなかったんだがな。シェル、お前が魔境でこの本を見つけたというのなら、信じる他ない。しかしそれでも―――どうにも、この体に人類と魔族の二種の血が混じっているとは―――考え難いな」


最も、その血も儂にまでなれば薄くはなっているがな、とじいちゃんは付け足すと、俺を見据えた。


「―――それで?何か他にあるか?」


「一つ、質問が」


俺はじいちゃんに尋ねた。


「何故、他の勇者に比べて俺のステータスが高いのかは分かった。魔王の血が流れているからだ。けど、親父やじいちゃん、それに曾じいちゃんが普通の人間と変わらないのは何でだ?何でこの家系で、俺だけが勇者なんだ?」


仮に勇者でなくても、魔王の血が流れていれば、そこら辺の一般人よりは力が強かったりするはずだ。だというのに、じいちゃんや親父がそういった特別な何かを持っているわけではない。二人とも、反“アクピス教”ではあるが、それを除けばごく一般的な“人間”だ。


「さあな」


じいちゃんは首を捻った。


「だからこそ、儂はこの話を信じていなかった。何か、特別な理由があるやもしれんな。儂やお前の父のエデルに比べ、お前が反“アクピス教”について行動的なのも、魔境に赴いたのが、儂の祖父、ヘロドトス以来お前が最初なのも、全てを引っくるめて、お前には何かあるかもしれない」


「特別―――か」


「“運命”というものがあるのなら、―――それから逃れられぬというのであれば―――正直、儂にはどうすることもできない。お前がこうして魔境で本を発見し、儂に話を聞きに訪れてきたのも、―――現実にしては、話が出来すぎているような気もしてくる」


他にはあるか?とじいちゃんが尋ねた。


「俺からは特に―――リウィウスさんから何かあれば」


俺は、俺をここへ連れてきた“ヴェーダ”のリーダーを見た。リウィウスさんは、俺と目が合うと首を横に振った。


「僕からも特にありません。とても興味深いお話を聞けました。アリスタさん、ありがとうございました」


リウィウスさんはじいちゃんに礼を言って頭を下げた。


「構わんよ。それよりシェル、今度、両親とまたこっちに遊びに来な。お前の父親ったら、最近さっぱり顔を見せやしない。また、何かの研究に没頭しているようだが―――ほどほどにしろ、と言っておいてくれ」


そうだ。研究といえば。俺はここで、新しく矛盾に気付く。


「ごめん、じいちゃん。もう一つ質問がある。俺、軍に召集される前に、親父からこの力について話されたんだ。そしたら、じいちゃんが戦時中に採集した魔族の血液から薬を作り出して、それを俺が服用した結果、今の力を手に入れたって言っていた。今まで親父が夢中になって研究していたのは、それの抵抗薬らしいんだけど」


「ああ―――それは―――」


じいちゃんがわざとらしく俺から視線を逸らす。


「しまったな―――当時、儂は頑固だったからな――と言っても、二十年も経っていないわけだが」


「なあじいちゃん。一体どういうことだ?」


「まだお前が赤子の頃、お前がその力の片鱗を見せたことが、一度だけあったんだ。といっても、それは何てことはない―――生後四ヶ月で走り出しただけなんだが―――」


十分ヤバイだろ、と俺は心の中で思わずツッコむ。


「それで儂は、まさか、と思ったんじゃよ。儂の父や祖父の話が、もしかしたら本当かもしれない。けれども、どうしてもあんな話は信じられないし、信じたくない。周りに話せば、精神異常者とされる。息子にも冷たい目で見られるかもしれない。だから、そういう嘘をついたんじゃよ。魔族の血から作った薬がある。それを飲むと肉体が暴走する。しかし、その薬をシェルが飲んでしまった。結果的にシェルは無事だったが、将来、この子は特別になるかもしれない―――というシナリオだ」


「別に―――そんな嘘をつかなくても、俺が勇者だった、で良かったんじゃ――」


「恐かったんじゃよ。父や祖父の話が本当かもしれないということが。何か理由付けしておかないと、そのうち気付かれてしまうんではないのか―――と。儂もまだ若かった。大人になりきれていなかったんじゃよ。許してくれ」


「そんな、別に謝ってほしい訳じゃないよ。俺自身、困ってるわけではないから。疑問に思っただけ」


ともかく、俺の力の大本が聞けたのは、俺にとってプラスだった。しかし、これでますます、“ヴェーダ”に肩入れしそうだな、俺。


俺とリウィウスさんは、そのあとしばらくじいちゃんと談笑し、一時間後に家を出た。


「アリスタさんから話を聞いて、――――“ヴェーダ”加入について気が変わったりはしなかったかい?」


帰りの車の中で、リウィウスさんが俺に尋ねた。


「いいえ。相変わらず、加入希望です」


「そうか。それじゃあ、また今度の週末に本部に来てくれないか?皆に君を紹介したい」


「それじゃあ、加入を認めてくれるんですか?」


「ああ。おめでとう。これからよろしくね、シェル・クライマン」


リウィウスさんと俺は握手を交わした。


「さて、それじゃあ家まで送るよ。君の家はどこだい?」


俺は最寄りの駅の名前を答えた。

久しぶりに“シェル”って書きました。



次回更新は水曜日です。

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