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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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7th story 勇者コースの王子様

前も説明しただろうか。神陵高校は、適性によってカリキュラムが分けられている。

“農民”は農民コース、“政治家”は政治家コース、“勇者”は勇者コース.... もちろん、“勇者コース”と“魔法使いコース”は適性者のみが編入可能だが、その他のコースは、基本自由に選べる。

そういうわけで、めでたく“勇者適性者“として認められた俺は、“勇者コース”で三年間を過ごすことになった。

コースには、診断結果が出た時点で編入できる。俺は学年で一番遅く診断結果が出たため、編入したときには、ギリギリまで“勇者”として判断されなかった半落ちこぼれ、とクラスに認識されている。俺の適正診断での結果は有名なはずなのにね.....

まあ、俺もそれでいいとは思っている。下手にクラスで目立つのはごめんだ。あんな結果出した奴が何を、とか言うなよな。

半落ちこぼれとして認識されているからか、それてもあの結果のせいか、クラスで俺の存在は浮いていた。ボッチですか?もしかして俺、ボッチですか!?と編入時には思ったものだが、一人だけ、一人だけ俺に話しかけてくる奴がいた。


サルゴニア・コシチューシコ


熱血直情正義感が大暴れ。高ステータス、高身長の金髪イケメン。正にヒーローであり、THE“勇者”といった感じだ。

誰にでも平等に接しようとする、おめでたい性格をしており、世の中、熱血だけでなんとかなると思っている、まぁある意味アホだ。その代わりというか、そのせいというか、妬ましい程に人気のある奴だ。毎日毎日、こいつを一目見ようと他クラス、他学年問わず女子がやってくる。その一人一人にまた、平等で丁寧な対応をするから、またさらに人気と知名度が上がる。それらを全て無自覚にやっているから、こわい奴だ。

きっと、将来的にはこいつ、まるでゲームの世界の主人公のような勇者にかるんだろうなぁ。しかもきっと、めっちゃ軽い感じでフラグ乱立していくんだろうなぁ。

とかなんとか俺が物思いに耽っていると、休み時間にとコシチューシコを見に来ていた女子集団から解放された彼が、自分の机に帰ってくる。もちろん、ご都合主義っぽく、席は俺の隣だ。


「おう、お疲れ」


ふー、と一息吐いて席に着くサルゴニア・コシチューシコ。皆、彼のことをサルゴンと呼んでいる。


「少しぐらい気を抜いたらどうだ。心身保たねーだろ」


外見、気丈に振る舞ってはいるものの、明らかにその表情には疲れの色が見えるサルゴン。その原因は言うまでもなく、追っかけ女子共に偏りなく接してやろうとするからだ。


「いや、そんなことはできないよ。気の抜けた状態で人と接するのは、その人に失礼だ」


「そんなことねーよ。友達には気を許したっていいんだぜ。俺と話すときだって、グダッたって怒らねえよ」


それに、生真面目に話すときは体ごと正面向いていられても、こっちだって疲れる。


「僕を心配してくれるのかい?ありがとう。なるべく心がけるようにするよ」


と、相変わらず姿勢を崩さずに語りかけてくるサルゴン。何言っても伝わらない気がしてきた。思わず溜め息が漏れる。


「おいおい、クライマン。何で貴様がサルゴンと馴れ馴れしく話しているんだい?君みたいなDランク凡人が、Sランクのサルゴンと対等だと思っているのか?“勇者コース”にこれたからって、調子に乗ってるんじゃないだろうな」


一人、クラスメイトが声をかけてくる。面倒臭い奴が来た。


バビル・ラ・イヴァン


元貴族階級の息子で、出自やら実力やらで何かしらランクをつけたがる奴だ。どこかの大財閥の御曹司様(笑)までではないが、差別意識が未だに抜けないらしい。


「バビル君、そんなこと言うなよ。シェル君の“勇者適正診断”の結果は君も知ってるだろ?彼は、僕や君より凄いんだから」


サルゴンがフォローを入れてくる。ありがたいよ?ありがたいけどさぁ、こいつの前でその話題に触れると、面倒だろ。


「ふん、知ってるさ。あのでたらめな数字のことだろ?惑わされるんじゃないぜ、サルゴン。こいつ、絶対何かイカサマしてる。どう考えたって、あんな結果出るわけねえよ。どうしても勇者コースに入りたかったんだろうけどよ。だからってあんな分かりきった数字にするのは馬鹿だぜ?なのに、テメェはその思惑通りここにいる。まったく、世も末だぜ」


言いたい放題言ってくれる。いら、全く気にしてないからいいんだけどさ。


「バビル君、落ち着きなよ。確かにあの数字に思うところはあるけど、彼は現にこのコースに編入してきたんだ。それには何か理由があるに違いないよ」


フンッとバビルが鼻を鳴らす。


「どうせ、親の根回しとか、そういうところだろ」


「バビル君!」


何かがサルゴンの正義感に触れたようだ。勢いよく立ち上がる。俺は、その手を掴んで引き留めた。


「いいよ、言わせておけば」


「シェル君.....でも」


「いいんだって。別に、何とも思ってねえから」


チッと舌打ちをしてバビルが去っていく。待ったをかけるサルゴンだったが、バビルは振り返ることなく教室から出ていった。サルゴンが席に座り直す。他のクラスメイトが俺等を見詰めていた。


「ごめんね、シェル君。彼も、悪気があってやっているわけじゃないと思うんだ。君の実力に嫉妬しているんだと思う」


いやいやいやいやいやいや。どんだけおめでたい頭してるんだよお前。あれ、絶対嫉妬だけじゃないから。他の要因の方が圧倒的に大きいから。絶対“実力もないセコ野郎がでしゃばりやがって”とか、そんな感じだと思うから。


「でも、仕方ないよ」


サルゴンの勘違いは続く。


「君の記録には、思わず僕も妬いちゃうぐらいだから」


わー。イケメンが男子に甘い笑顔むけてるぜー。頭だけじゃなくて、雰囲気までお花畑になってるぜー。俺が女子だったら、完璧に落ちてるぜ、これ。

実際、その威力は絶大だ。俺等のやりとりを眺めていた女子が、片っ端から倒れていくのは見間違いではないだろう。おそるべし......イケメンスマイル。


そして、当のイケメン様というと、急にバタバタと倒れ出した女子達を慌てて介抱しようとしている。下心ゼロってところがこいつなんだよなぁ....

介抱されていることに気付いた気絶していた女子の一人に、よかった、と微笑むイケメン。目が覚めたにも関わらず、再びノックアウトされる。騒ぎに集まってきた野次馬の中の女子も、それを見て卒倒。被害は拡大するばかりだ。


「な..........何だこれは!!何かの病か!?それとも魔族の仕業か!?」


手が追い付かなくなり、右往左往しながら叫ぶサルゴン。いえ、全て貴方のイケメンスマイルテロの仕業です。


鈍感イケメン主人公キャラのド直球を行くサルゴンに半ば呆れつつ、このままでは収拾がつかないと、サルゴンに介抱を止めさせようと俺は声をかけた。


「なぁサルゴン。ここは保険医の先生に任せようぜ。医学知識もなくて、治癒魔法も使えない俺やお前じゃ、どうにもならねぇって」


「むう.......しかし」


何か言いたそうなサルゴン。が、俺の言い分は理解しているようで、渋々介抱作業から手を引く。


「ねぇ、今の見た?折角サルゴン様が病人の手当てをしてらっしゃるのに、あいつ、邪魔して止めさせたわよ?」


「ねー。ありえないよねー。ひどーい」


野次馬の中から、そんな女子の会話が聞こえてくる。本人達は小声で会話しているつもりなのだろうが、あいにくと丸聞こえだ。


「あいつ誰?サルゴン様にタメ口なんて、図々しい。何様のつもりなのかしら」


徐々にその波が広がる。別に、女子に何と言われようと、どんな噂が広がろうと、気にしない。

.............俺は気にしない


しばらくして、保険医の先生がやってきて、騒ぎは収まった。

最後の最後で、お礼をしたサルゴンの笑顔に保険医の先生までもがノックアウトされるという事態もあったが。


保険医の先生が男だって事も、俺は知らない。



知らないものは知らないのだ!



一応サルゴンには、人前で不用意に笑うなと注意しておこう。下手すりゃ、災害規模になりかねない。

次回更新は土曜日です。

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