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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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救いの男:継がれる血・繋がる連鎖

「先ず、君がどこまで知っているのかを聞きたい。君が両親について知っていることを全て話してみてくれ」


魔族の、恐らく最高責任者であろう男がリキニウスに尋ねた。


「詳しいことは何も。母が魔族であったことと、二人が既に他界しているとは聞きましたが――」


それにしたって、実際のところどうなのかはリキニウスには分からなかった。


「それだけか?」


男が確認する。リキニウスは頷いた。


「そうか―――深くは語らなかったか―――」


ならば、と男は椅子の上で姿勢を正した。


「俺が伝えなければならないか」


男は立ち上がると、リキニウスはニケに椅子を持ってきて二人を座らせた。


「最初に、君の母親のことだが―――彼女は魔族だった。それは間違いない」


「ちょっと待ってください」


口を挟んだのはニケだった。


「私、魔族語は詳しくないので、勘違いなのかもしれませんが、さっきから、リキニウスさんの母親は魔族だった―――とか話しているんですか?」


「彼女は―――知らないのか?」


男がリキニウスに尋ねる。


「ええ。彼女は私の家とは関係がありません」


「ならば、何故ここに―――いいや。詮索は止そう。聞かれて不味い話をするわけでもない」


「リキニウスさん、この方は何と言っているんですか?」


「君の訳は正しい。私の母親は魔族だったそうだ」


リキニウスは人類語でニケに答えた。


「リキニウスさんの母親が魔族――?」


「そうだ」


「まさか、そんなわけ―――どこからどう見たって、リキニウスさんは人間じゃないですか。そんなの信じられませんよ」


「そうだ。普通は信じられないようなことだ。私自身、まだそれを信じきれていない。だからこそ聞くんだ。彼がこれから話すという真実を―――」


魔族の男が咳払いをして、二人の注意をひいた。


「そろそろ本題に入ってもいいかな?」


申し訳ない、とリキニウスは姿勢を男へと向けた。


「君の両親―――父親の名はヘロドトス・クライマン。彼は人類の魔族研究の第一人者であり、人類に浸透した宗教―――“アクピス教”といったか―――のレジスタンスだった。五十年と数年前、彼は単身魔境へと上陸し、我々はそれを受け入れた。しばらく魔境で生活していた彼は、一人の魔族の女性と恋に落ちる。その女性の名がルナ・アカド―――君を産んだ母親であり―――俺の妹だ」


「まさか―――」


そんな偶然が。リキニウスは唖然とした。


「嘘じゃあないさ。我々アカドの血を継ぐ者は、代々魔族の頂点に立つ。冗談でも他人が語れるような名ではない。リキニウス・クライマン。君の中には、この俺―――ラモン・アカドと同じ血が流れているんだよ」


ラモンは足を組んでリキニウスを見据えた。


「血縁上、君は俺の甥にあたるってことだ」


某奇妙な冒険さながらの不思議な運命。リキニウスは、開いた口が塞がらなかった。


「―――さて、俺の妹、ルナ・アカドがヘロドトスと結婚し、ルナ・クライマンとなって数年。二人の間に子供が産まれた。それが君だ。君の産まれ故郷は魔境なんだよ。―――そうだ。君はかつて、俺のこの腕に抱かれたこともあったんだよ」


「おかしくありませんか?」


一つの疑問が脳裏に浮上したリキニウスは、それを口にした。


「それが本当なら、貴方は少なくとも齢七十は越えているはず。―――だというのに、そうは見えない」


「魔族の寿命は長い。人類の倍近くある。俺は今だいたい八十才だが、平均寿命で死ぬとしてもあと六十年は生きられるな」


「それは―――そんなのは知らない」


「だとすれば、君たち人類のリサーチ不足だということだ――――いや―――語られていない―――隠された、と言うべきか」


その辺は関係ない、とラモンは曖昧な答え方をした。


「ヘロドトスが魔境へ上陸してから数年。彼はルナと君を連れて人類領域へと帰る決断をする。当然、当時の俺は反対したが、結局はあいつに丸め込まれてな。今から五十年前に、二人は君を連れて人類領域へと出航した」


ラモンは一息吐いて立ち上がると、リキニウスとニケの後ろへ回り込んだ。


「それでも、ヘロドトスにも危険は感じられたのだろう。二人は人類領域へと上陸する前に、君を信頼できる友人に海上で預けたという。その相手が恐らく、君の育ての親だ。そうして君を預けた二人は、もう一人の協力者を頼って上陸しようとした」


ラモンはそこで思わせ振りに間を作った。その先の展開が予想できてしまったリキニウスは、嫌な予感に体を震わせた。


「しかし、その協力者はヘロドトスを裏切った。上陸しようとしていた二人を待ち構えていたのは、武装した兵士達だった。二人はあえなく捕らえられ、そして弁明の間もなく首を跳ねられた」


ラモンの口調が落ち込む。リキニウスは、信じ難い事実に背筋を震わせた。


「もしものためにとヘロドトスに持たせていた無線機で、あいつは俺にSOSを送った。俺はすぐに状況を理解し、即座に揃えられるだけの兵力をかき集め、人類領域へと出航したが、そんな俺達を当時待ち構えていたのは、二人の切り落とされた首だった――――それ以来だ、この戦争は」


戦争は、憎しみに始まり、憎しみに続き、憎しみに終わる。一体、この憎しみの連鎖はどこで生まれ、どこへ続いていくのか。


リキニウスはやはり、開いた口が塞がらなかった。

次回更新は土曜日です。

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