救いの男:魔族拠点へ
「貴様ッ!どういうつもりだ!仲間を裏切るというのか!」
駆け付けてきた魔族の一人が、リキニウス達に助けられて立っている魔族の男へと怒鳴った。
「そうじゃあない」
声量のない声で答えながら、リキニウス達の肩に助けられている魔族は首を横に振った。
「この人達は俺を助けてくれたんだ。人間ではあるが敵ではない」
「それを信じろと言うのか!」
「信じろとは言いません」
答えたのはリキニウスだった。
「私達は彼を連れてきただけです。彼を引き取って頂ければ、後は用もないので帰るつもりです」
「なら、そいつをまずそこに座らせろ」
リキニウスとニケは魔族の兵の言葉に従い、連れてきた魔族の男を地面へと座らせた。
「五十メートル以上後ろに下がれ――――もっとだ」
言われた通りにリキニウスとニケが五十メートル以上後退すると、兵士のうち二人が怪我した魔族の男を回収した。
「それじゃあ、私達はこれで――」
それを見届けると、二人は兵達を背に帰ろうとした。しかし、そこに待ったがかかる。
「待て。そう簡単に帰すわけには行かない。これで人類軍に我々の拠点の位置を喋られても困るんでな。貴様らの身柄は拘束させてもらう」
リキニウスとニケの周囲を、四人の兵が包囲した。銃口を二人に向け、その動きを見張る。二人は咄嗟に両手を挙げた。
「そのまま動くなよ。武器の有無を確認する」
余った魔族の一人が、リキニウスとニケの身体検査を行った。ニケは顔をしか目ながらも、どうすることもできないと悟り諦める。兵の手が、ニケのバックに伸びる。中から回復促進薬の瓶を取り出した兵は、それをニケの前にかざした。
「これは何だ」
「薬です。傷の回復を促進させる」
「成る程。―――どれぐらいの効力だ」
「正確には分かりませんが、人間間で公式に販売されているものなので、信用はできるかと」
「ふむ―――」
兵士は瓶を興味深そうに眺めた後、バックに仕舞い戻した。
「これは我々が預かっておく。そのまま、下手な行動はせずにじっとしていろ」
その兵はニケのバックを肩にかけると、二人から離れて無線機のような物を取り出した。それで誰かと話し始める。
しばらくして、話しにかたが付いたようで、その兵が二人の前へと戻ってきた。
「これから貴様ら二人を我々の拠点の中へ連行する。手錠をかけるが、大人しくしていろよ」
兵士が二人に手錠をかける。二人は魔族に大人しく従った。
リキニウスとニケは魔族の拠点の中央へと連れていかれた。そこには大型のテントが張られており、どうやらその中に魔族の責任者がいるようであった。
四方から銃口を突き付けられた状態で、二人はそのテントの中へと入れられた。
テントの中は広々とした空間が広がっており、左右と後方には武装した兵が立ち並び、前方には机が置かれていた。机には一人の魔族が腰を掛けていた。恐らく、彼がこの場の最高位の人物なのだろう。
「ここまで連れてこい」
その男が、リキニウスとニケを連れてきた兵にそう言い、机の前を示した。二人が兵士に机の前へと連れていかれる。男は、二人の顔を交互にゆっくりと眺めた。やがて、その視線がリキニウスへじっと注がれる。
「その顔立ちは――――まさか―――」
男がブツブツと呟く。
「そこの男、名前は何という」
男に尋ねられたリキニウスは、名を名乗った。
「リキニウス・バグダといいます」
その名前を聞いて、男の顔色が豹変した。
「―――リキニウス..だと。もしや―――失礼なことを聞くが、君の両親は君と血が繋がっているかね?」
リキニウスはその質問を、首を横に振って否定した。
「育ての親とは繋がっていません。血の繋がった両親が、他に居たそうです」
「その両親の姓は、クライマンではないだろうな」
「何故、それを―――」
そう言いかけて、しかし、とすぐに思い至った。自分の母親は魔族だったのだ、と。
「そうか―――そうか」
男はリキニウスを眺め、何度も頷いた。
「育っていたのか―――こんなにも逞しく。これで二人も報われる――」
「一体、どういうことでしょうか」
リキニウスは尋ねた。
「私の母は、本当に魔族だったのですか?」
「人を払え」
男は部屋の中の兵士に声をかけた。しかし、と兵達が顔を見合わせる。
「聞いただろう。この男はクライマンの血を継ぐ者だ。何も心配するな」
それを聞いて、ゾロゾロと兵達がテントから出ていく。中には、リキニウスとニケ、魔族の男の三人だけが残された。
「さて」
しばらくして、男は口を開いた。
「君に伝えよう。今から五十年前に起こった、魔族の人類へ対する憎悪の発端を」
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