表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
74/119

救いの男:危険区域

魔族からの攻撃の多い“危険区域”の手前で、軍の兵士にリキニウス達の乗る車は止められた。


「停まれ。ここから先は一般人は立ち入り禁止だ。通行許可証はあるのか?」


兵士が車の外から運転席のニケに尋ねた。


「ここに、四十代頃の男が来てはいないでしょうか?私の息子なのですが」


奥の助手席からリキニウスが尋ね返す。


「いや、俺は見ていないな。どんな男だ?」


リキニウスは、兵士にアリスタの乗る車の車種を伝えた。


「今、各ポイントに確認をしてみる。少し待っていろ」


兵士はそう言うと無線機を取り出し、誰かと会話を始めた。


「何だと?」


二言と話さないうちに、兵士の口調が変化した。


「誰かそっちに向かっているか?―――そうか」


兵士が険しい顔をして車内のリキニウス達を覗いた。


「おい、あんた達はとっとと帰れ。こっちには急用ができた」


「息子のことだけ終えてください」


「来ていなかったそうだよ。いいから、ここから早く離れろ」


「分かりました」


ニケが車をバックさせる。同時に窓を閉じようとした時、兵士の会話の続きが二人の耳に入った。


「いや、何でもない。そっちの奴の父親ってのが来たから追い払っただけだ。―――それで、本当にそいつは区域内に侵入したんだな?――ああ、分かった。すぐに行く」


兵士は無線を切ると、明後日の方向へ駆けていった。


「リキニウスさん。アリスタさんは、もしかして―――」


「どうやら、そのようですな。ニケさん、行けますかね?」


「私は問題ありませんが、大丈夫ですか?それで」


「兵士がどのような対応をするか分からない以上、彼等に見つからないうちにアリスタを回収するしかありません」


「分かりました。行きましょう」


ニケはバックを止めると、前方にアクセルを踏み込んだ。車が急発進する。誰にも咎められることなく、車は“危険区域”内に突入した。


「突入したはいいんですが――――アリスタさんはどこにいるんでしょうか」


「おそらくは、騒ぎの先頭に。まずは、先程の兵士の駆けていった方向へ進んでみるのが得策かと」


ニケは右にハンドルを切ると、道を駆けた。両脇に建つ建物はどれも無人のまま放置されており、この激動の時代にそぐわない静かすぎる光景には、違和感すら覚えられた。


「“危険区域”だというのに、建物が破壊されているわけではないんですね」


その違和感をニケが口にする。


「戦闘地帯は、このさらに奥なのでしょう。この辺は、その戦闘地帯に近付けないための、言わば余白のようなスペースでしょうね」


リキニウスが、自身の見解を示す。その考えはおおよそ正しかった。実際に魔族と人類間で頻繁に戦闘が行われているのは、この先十キロほど進んだ地点であり、現在リキニウス達の居る地点は、万が一戦火が広がったときの対策のための空間であった。


ニケがしばらく車を走らせると、前方に、急に大量の兵士が確認できるようになった。ニケが急ブレーキをかけて車を止めると、二人はそのまま車の中で息を潜めた。


「リキニウスさん、あの車は―――」


しばらく息を潜めて兵士達の様子を見ていると、何かを見つけたニケが前方を指した。その先には果たして、アリスタの所有する車が、兵士たちに包囲されてゆっくりと進んでいた。運転席には、諦めの目をしたアリスタが座っている。リキニウスは長い溜め息を吐いた。


「どうやら、杞憂だったようだな。さて、ニケさん。私達も見つからないうちに帰りましょうか」


リキニウスの言葉に頷いたニケは、エンジンをふかした。


「誰だ!」


その音に、アリスタを連行する兵士達が気付いた。


「ニケさん!急げ!」


リキニウスはニケを急かした。ニケも急いで車をバックさせる。


「逃がすな!追え!」


兵士達がリキニウスとニケへと標的を移す。スピードの出ないバックに、二人は焦った。


「よし、もう少しだ!来た道を戻ろう!」


ニケがハンドルを切ろうとする。しかし―――


「応援到着!新たな侵入者を発見した!挟むぞ!」


リキニウス達の戻ろうとする道から、兵士の応援が湧いて出てきた。


「マズイ!ニケさん!反対だ!」


ニケが慌ててハンドルを切り返す。


「ッ!この先に行くと、危険じゃありませんか!?」


「仕方がない。戦闘区域に突入する前に、どこかで折り返すんだ!」


リキニウスの言葉に、ニケは再度頷くと、兵士に追われながら危険区域の奥へと車を走らせた。

次回更新は水曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ