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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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希望の男:旅立ち

出航の日、魔境沿岸には、ヘロドトス達を見送る魔族が何十、何百と集まっていた。


「三人とも、生きて帰ってこいよな」


魔族達の総意を、ラモンが代表してヘロドトス達に告げる。


「勿論だ。今から宴会の用意をして待っててくれ」


ヘロドトスはラモンと握手を交わした。ラモンはヘロドトスのその手を引くと、彼を抱擁した。


「君と飲む紅茶は格段に美味かった。帰ってきたら、また茶会に付き合ってくれよ」


「ああ。土産話を沢山持ってきてやる」


ヘロドトスはラモンを抱き返した。ヘロドトスが離れた後、ラモンは同じようにルナを抱き、リキニウスの頭を撫でた。


「それじゃあ、しばらく」


ヘロドトス達は、船に乗り込んだ。


「達者でなー!!」


見送りの魔族の一人が叫んだ。他の魔族達もそれに続く。


「存分に楽しんでこい、友よ」


ラモンは、船から一歩離れてそう言った。ヘロドトスは微笑みで返すと、ルナの方を振り向いた。ルナがヘロドトスに頷く。ヘロドトスは沿岸の岩に結び付けてあった船の縄をほどいた。


「行ってくる」


ラモンにも聞こえるか聞こえないかの声量でそう呟くと、ヘロドトスは舵を沖合へ向けた。無数の魔族達の声援を背に、ヘロドトス達は人類領域へ向け、出航した。


航海は、ヘロドトスが単身渡海した三度と同様、何事もなく穏やかなものだった。船に慣れないルナやリキニウスの体調に気を付けながらの船旅ではあったが、その道のりは順調であった。


出航から十数日。ついに目的の人類領域を視界に捉えた。ヘロドトスは、かねて魔境出航時から連れていた伝書鳩を、リキニウスを受け取ってくれると言う親友のもとへ飛ばした。


その鳩が、親友の返事を持って帰ってくると、ヘロドトスは今度は自分とルナの上陸を手伝ってくれる友人のもとへ、別の鳩を飛ばした。


その鳩が手元へ帰ってきた翌日。ヘロドトス達の船に近付いてくる小型の船が一隻あった。その船がヘロドトス達の乗る船に横付けすると、ヘロドトスは海上で船を停めた。


「リキニウスを預かりに来たぞ」


小型の船に乗っていたのは、リキニウスの親友だった。彼がヘロドトスの船にそう叫ぶと、ヘロドトスとルナはリキニウスを抱えて姿を見せた。


「久しぶり。紹介するよ。妻のルナと、息子のリキニウスだ」


ヘロドトスが二人を紹介すると、ルナは緊張の面持ちで頭を下げた。


「初めまして。ヘロドトスの友人のマルクスです」


親友も同様、ルナに頭を下げた。


「しかし―――本当に魔族と結婚したのか」


親友が驚きの表情を隠さずにヘロドトスに言った。


「正直、こうやってこの目で見るまでは、信じていなかったよ」


「そうか―――積もる話もいくつかあるが、今はそんなに時間もないんだ」


「分かってる。向こうでまた合流してからゆっくり話そう」


さあとヘロドトスはリキニウスを親友に渡すようにルナを促した。しかしルナは、ヘロドトスを不安気に眺め、リキニウスを渡そうとしなかった。


「やっぱり、リキニウスとは一緒に居た方がいい気がするの―――」


「ああ、分かるよ、ルナ。君が不安になるのも最もだ。君からしたら、彼は得体の知れない人物だからね。でも、安心してくれ。彼がリキニウスに危害を加えたりしないということは、私が補償しよう。それに、私達と一緒に上陸する方が、危険が大きい。ルナ、君は魔族なんだ。もしリキニウスが私達と行動して、君が魔族だとばれたとき、リキニウスは当然始末される。彼に渡した方が、不安は少ないんだ」


「でも―――」


しかしルナは、リキニウスを手放すのを渋った。


「参ったな」


ヘロドトスは頭を掻いて思案にあぐねた。


「マルクス。君からも何か言ってやってくれないか?」


「え?俺?」


唐突にふられたマルクスは、戸惑いの声をあげた。


「いや、俺はなにも言わないでおくよ。俺が“大丈夫です”何て言っても、逆に不安になるだけだろうし」


「―――なあ、ルナ。数時間の辛抱だ。それで、みんなが無事に人類領域へ上陸することができるんだ」


ルナはリキニウスの顔を見つめた。それからしばらくして、ルナは決心したように顔をあげた。


「わかったわ―――」


ルナは、そっとヘロドトスにリキニウスを差し出した。ヘロドトスはリキニウスを抱き抱え、その頭を撫でると、マルクスに手渡した。


「それじゃあ、頼んだ」


「ああ。命にかえてでも、もう一度お前達の手元に届けるよ」


マルクスがリキニウスを大切に抱えてジブンノフネニ戻る。ヘロドトスは操縦席に戻ると、船を発進させた。


ルナは甲板に立ち尽くし、遠ざかって行くリキニウスを見詰め続けた。

次回更新は水曜日です。

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