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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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希望の男:多難

魔境の外でも魔族が活動できることが確認されたのは、それから間もない二ヶ月後の事だった。魔族の体質を知ることは、自分達にとって必要なことだと考えたラモンが、魔族の中から志願者を五名募り、魔境の外へと向かわせた。魔力の濃度の薄い地帯に五人が到達し、一ヶ月間過ごしてみても何の影響もなかった事から、恐らく魔力が薄くても魔族は生きれるのだろうと結論付けられた。


この発見により、科学上は魔族が人類領域へと渡ることが可能になったわけではあったが、それでもなお、ルナとリキニウスが人類領域へ行く事への反対の声は絶えなかった。


「一目見るだけでもいい」


ルナはそうヘロドトスに訴えた。そこに来てヘロドトスも、長期間滞在するのでなければ、問題がないのではないかと感じるようになってきていた。しかし、人類領域へ上陸したところで、ルナが安全に行動できる保証はなかった。そこでヘロドトスは、一度自分だけ人類領域へ帰ることにする。自分と同じく、魔族との共存を志す者達に、ルナとリキニウスの上陸の手引きをしてくれるように段取りを付けるためであった。


だが、ルナとリキニウスが人類領域へ向かうことの許可を、まだラモンには取っていなかった。ヘロドトスは人類領域に置いてきた資料の回収とラモンに嘘をついて、魔境へ来たとき同様、単身で海を渡り、人類領域に上陸した。


夜中に、誰にも見咎められることなく上陸したヘロドトスは、まず自宅を目指した。二日ほどかけて移動し、家に着いたヘロドトスは、同じ志を持つ仲間に連絡をとり、家に来てくれるよう頼んだ。


後日、その人物がヘロドトスの家へとやって来た。およそ三年ぶりの再会に、二人は抱き合って喜んだ。


ヘロドトスは、魔境へ実際に行き、魔族達と交流したこと、魔族の女性と結婚し、子供を授かったことを友人に伝えた。


「それで、そのルナが、息子のリキニウスと一緒に人類領域を一目見たいと言うんだよ。けれどもルナは魔族だから、人類領域に上がるには色々と問題があるんだ。だから、上陸の際の手引きを頼みたいんだ」


「そんなことか」


友人は事も無げに頷いた。


「それぐらいならお安いご用だ。上手くやってやるよ。それで、二人はいつ来るんだ?」


「それはまだ決まっていない。まだ彼女の家族にも許可をとっていないんだ。だから、私はもう一度魔境に行かなければならない。それで私が魔境に戻った後の、君との連絡手段を確保したいんだ。何かいい方策はないか?」


「それなら、いい方法がある。伝書鳩だ。道筋さえ覚えさせちまえば、流石の“アクピス教”も、鳩までは警戒しないだろうからな。念をとって、同じ内容のものを二羽、日をまたいで放てば、より確実性は上がる。それでいいんじゃないのか?」


「なるほど、伝書鳩か。妙案だな。それじゃあ連絡手段は決定だ。向こうで詳細が決まり次第、すぐに飛ばすようにするよ」


「了解だ。準備の方は任せておけ」


友人が帰った後、彼の支援だけでは不安だったヘロドトスはら最も信頼のおける、子供の頃からの親友に連絡をとり、自分達が上陸するよりも先にリキニウスだけでも預けられるよう頼み込み、自分達の上陸の手引きをしてくれる友人と同じように伝書鳩を使った連絡方法を確保した。


そうして、人類領域でルナとリキニウスの二人が上陸できるよう段取りをしたヘロドトスは、再び魔境へと向かった。


魔境にある家に帰り、ルナとリキニウスに再会したヘロドトスは、その足でラモンの家へと向かった。彼を説得しない限り、ルナとリキニウスを人類領域へ連れて行くことはできない。


「絶対の保証がないと、俺は許可しないぞ」


ラモンはしかし、そう一点張りに断った。


「ルナやお前のこともそうだが、特にリキニウスは代えの効かない存在だ。あの子を失う事は、俺達にとって深刻な損失だ。そうだろ?父親としてはどうなんだ」


「勿論。あの子は私の命に代えてでも護らなければならないものだ。それは私とルナが一番しっかりと理解している。だからこそ、万全と言える対策を立てるし、ヘマはしない。それでも駄目か?」


「仮に何かあったときに、どうやって対処するんだ?」


「それは―――」


「ほらな?何も思い浮かばないだろ?」


「でも、ラモン――」


ラモンは音を立ててカップを机に置き、ヘロドトスの言葉を遮った。


「なあ、ヘロドトス。俺がお前達に意地悪しているように聞こえているのかもしれないけど、俺は本気でお前達の身を案じているんだぞ。航海中に急に天候が荒れたらどうする?海の中の狂暴な魚に襲われたら?考えすぎかもしれないけれど、考えちまうんだよ。分かってくれ」


「ああ――――」


ヘロドトスは黙り込んだ。ラモンのその気持ちは、ヘロドトスには痛いほど理解できた。両親を事故で亡くしたとき、ヘロドトスは途方もない孤独感を数年に渡って味わっていた。いつも笑いかけてくれていたはずの、守ってくれていたはずの存在。その消失は、ヘロドトスの人生を大きく狂わせるような出来事だった。身内の死は、それほどに辛く、影響の大きなものなのだ。だからこそ、ラモンがルナの身を案ずる気持ちがヘロドトスに理解できないはずがなかった。


「――――今日は帰るよ」


ヘロドトスは立ち上がった。


「ああ。ヘロドトス、もう一度よく考え直してくれよな」


ラモンのそれには答えることなく、ヘロドトスはその場を去った。

次回更新は水曜日です。

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