10th story 謎
「そう言えば、どうして俺の祖父の連絡先を知っていたんですか?」
リウィウスさんの車で祖父の家に向かう中、俺は一つの疑問を口にした。
「言ってなかったっけ?―――――言ってなかったな。君の祖父、アリスタ・クライマンとはかつて、ちょっとした縁があったんだよ」
「もしかして――――祖父が“ヴェーダ”の一員だったとか?」
「それはない。けれどもまあ、彼は何度か“ヴェーダ”と関わってはいる」
なんだか複雑な事情がありそうだな。車内が沈黙する。ふと、俺の携帯が振動した。電源を入れて確認してみると、ユグから一言連絡が入っていた。
“今度カラオケ行こうぜ”
そういえば、一年前にユグとカラオケに行こうとした時は、電車ジャック事件があって結局行けなかったんだっけ。いいよ、とだけ返事を入れると、俺は携帯をしまった。
田舎道を車で走ること二十分。俺達は祖父の家に到着した。前に来たのはいつだったか。二年くらい前になるのだろうか。祖父の家は、その時以来どこも変化していなかった。“田舎”に相応しいような、広く落ち着いた雰囲気の家だ。
リウィウスさんが呼び鈴を鳴らすと、玄関が開いて祖父が顔を見せた。その視線が俺に向き、表情が驚きのものに変わる。
「シェル!?なしてここにいる?」
「久しぶり、じいちゃん。色々と事情があってさ、今、この人に連れてこられたんだ」
「アタナシア・リウィウスです」
リウィウスさんが祖父に頭を下げる。
「リウィウスさんも、久しぶりですな。あんたが来たってことは、そう言う話なんじゃろ。まあ上がりなさい」
祖父はリウィウスさんを知っているようだった。俺とリウィウスさんは、靴を脱いで祖父の家に上がった。
「それでなんですね、アタナシアさん」
客室に通され、祖父が俺たちの前にお茶を置く。それと同時に、リウィウスさんは本題を切り出した。
「貴方の想像通り、私がお邪魔したのは、貴方の曾祖父の話を聞くためです」
祖父は無言でお茶を啜った。
「実はですね、貴方のお孫さんの、このシェル君が、今回の魔族討伐隊で魔境に行った際に、とても興味深いものを発見してきたのです。シェル君、出してくれるかい」
リウィウスさんに頼まれ、俺は鞄の中から“クライマン”を取り出し、祖父の前に置く。
「―――――これは」
「最初の序章だけでもご覧になって下さい。そうすれば、貴方の中にある謎のピースが一つ、埋まるはずです」
祖父は湯飲みをテーブルの上に置くと、本を手に取り捲った。しばらく、本のページを捲る音だけが空間に反響する。
十分後、祖父は本をテーブルの上に置くと、眉間を右手の指で揉んだ。
「戯言だと――――――思いたかったんだがな――――」
祖父は、やっとこさ、という口調でそれだけ絞り出した。
「シェルや“ヴェーダ”の誰かが偽装した可能性もゼロだ。誰にも話したことのない部分まで書かれてある―――――真実だったか――――」
「じいちゃん、どう言うこと?」
話の筋が掴めなかった俺は、祖父に尋ねた。
「少し待っとれ。あれを取ってくる」
祖父は立ち上がると、客間から姿を消した。
「リウィウスさん、話が見えないんですが」
「―――――かつて、魔族と人類の希望となった男と、人類を救った男が居た、と言う話さ」
もっと分からなくなりました。
祖父が大きめの茶封筒を抱えて戻ってきた。それをテーブルの上に荒々しく置き、湯飲みのお茶を啜る。
「話していただけますか?貴方の父と祖父にあった、全ての出来事を」
リウィウスさんが期待した声色で祖父に尋ねる。
「儂も全ては知らんよ。これから話すのは、儂が祖父の手記と、父から聞いた話と、儂の推測とが入り交じってる」
ここまで来ても全く話が読めない。俺はそろそろ限界だぞ。
「なあじいちゃん。あの本には、魔族と人類が共存していたと言う他に、どんな不思議が書かれてたんだ?俺、話に全く付いて行けてないんだけど」
「―――シェル、この男とお前が一緒に儂の所へ来たと言うことは、お前は“ヴェーダ”に入っているって事なのか?」
「まだ入ってない。加入希望だよ」
そうか、と祖父は溜め息を吐いた。
「運命とは、逃れられぬものなのかもしれんな」
次回から過去編に入ります。そのため、区切りの付け方の都合上、話が短くしまいました。
サボった訳ではないので、ご了承を。
次回更新は土曜日です。