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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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7th story 交渉2

ボナパルトさんと会ってから二週間後の土曜日、俺はその後に指定されたファミリーレストランで一人座っていた。店員に案内された窓際の席で、窓の外の往来の人々を眺める。待ち合わせている“ヴェーダ”の関係者は俺の顔を事前に知っていて、向こうから声をかけてくれるそうだ。窓の外にいかつい男を認めては、どうかあの人だけではないように、と無意味な祈りを繰り返す。そうこうして十分も待つうちに、肩を叩かれた。振り向いてその人物を確認する。そこに立っていたのは女性だった。もしや――――


「君、シェル・クライマンよね?」


女性の問いに、はい、と俺は頷く。


「待たせたわね。ガレノス・ボナパルトから君の紹介を受けたミケネよ」


ミケネ、と名乗ったその女性が俺に手を差し出す。俺はその手を握り返した。いや、ボナパルトさん。相手が女性だなんて聞いてないよ?ミケネさんが俺の対面に座る。


「彼から大体の話は聞いたわ。例え自分の人生が引っくり返ることになっても、“ヴェーダ”に入りたいのよね?」


ミケネさんの問いに、俺は無言で頷く。


「それで、君にいくつか質問したいことがあるの。何も難しいものじゃないわ。簡単よ。ただし―――――」


意味あり気に、ミケネさんは言葉を区切って俺の目を覗く。


「君が嘘をついていなければね」


ごくり、と俺は思わず生唾を呑み込む。何だろう。尋常じゃないプレッシャーを感じる。


「まず最初の質問。君は今回の“魔族討伐隊”に“勇者選抜者”として参加したそうだけれど、それは本当なのか」


何だ、そんな質問か。俺は、はいと答える。


「そうよね。勿論そう答えるわよね。―――でも、嘘をついていないとも限らない」


この人、何でこんなに疑ってくるの?何か落ち度がないか、心配になってくるじゃん。


「まず、君が本当に勇者適性者なのかどうか。今日、ここに簡易的なステータスプレートを持ってきたわ。本当に簡単なものよ。対象者の適性が判別できる程度」


ミケネさんは、手提げの鞄の中から手のひらサイズの金属板を取り出し、テーブルの上に置いた。いやいやいや。何でそんなもの持ってるんだよ。


「さ、やり方は分かるでしょ?」


プレートを俺の前まで押し進めるミケネさん。俺はプレートの上に手をかざした。毎度のようにプレートが光を放ち、それがおさまるとプレートには“勇者適性者”の文字が浮かび上がる。対面からそれを見たミケネさんは溜め息を吐いた。


「早くもビンゴね――――――それじゃあ、この話はなかったことに」


そうして、鞄を持って席から立ち上がるミケネさん。


「え?」


俺は思わず声を漏らした。


「あんた、上の連中にちゃんと言っておきなさい。嘘をつくなら、最低限は仕込んどけって」


「―――――どういうことですか?」


ミケネさんが再び溜め息を吐く。


「分からないの?あんたも馬鹿ね。いいわ、わざわざ教えたげる。―――“魔族討伐隊”に“勇者選抜者”として選ばれるはずの人間が“未覚醒勇者”なわけないじゃないの。そんなのにも気付かないとでも思ったの?」


ああ、何だ。俺は安堵する。何かしでかしてしまったのかと、しどろもどろだったのだ。


「いいえ。未覚醒勇者なのは確かですけど、ただの未覚醒勇者ではないんです。“アクピス教”軍部の長官によれば、覚醒勇者の精鋭にも匹敵しうる未覚醒勇者、です」


「嘘をつくのなら、せめともっとマシなものにしなさいよ」


ミケネさんが鼻で一笑する。


「もういいかしら」


立ち去ろうとするミケネねさん。俺は思わず、その腕を掴んだ。


「待ってください!」


それと同時に、俺の真後ろの席に座っていた、図体のデカい男が立ち上がる。男は俺とミケネさんのところへやって来ると、ミケネさんを握る俺の腕を掴んだ。護衛か?腕を握るのは軽率だったな。俺は抵抗せずにミケネさんの腕から手を離す。


「丁度いいわ。この男は覚醒勇者で、かなり腕の立つ方なの。この男とあんたが勝負して、あんたが勝ったのなら、あんたの言い分も認めましょう」


何だか話がややこしくなってきたぞ?とはいえ、今はその手に乗るのが最善のやうだ。


「分かりました。受けましょう。それで、その内容は?」


「そうね―――――腕相撲はどうかしら?筋力を見るのに一番楽でしょ?」


「構いません。ただ、場所はどうします?店のテーブルだと、万が一壊した場合に困ります」


ミケネさんが思案にくれる。


「面倒だ。外のコンクリートブロックの上ででもいいだろ」


男が口を開いた。異論のない俺は首肯する。


「そう。じゃあ決まりね。お会計があるなら済ませてきなさい。――逃げても構わないわよ。私達からしたら、それはそれで好都合だから」


別に何も頼んでいないため、特に会計はない俺は、それを二人に伝える。俺達は、そのまま店を出た。


「この辺は人が多いな。ついてこい」


外へ出るなり、男が俺を見て言う。男はしばらく道なりに進んだあと、大通りを外れて裏道のようなところへと入っていった。しばらく道なりにすすむと、コンビニエンスストアに到達した。男はその駐車場へ入ると、店裏付近の車のストッパーなるものを指さした。


「これでどうだ」


これ?


「でも、これだと勝敗の付け方が分かりませんけど」


「そんなのは簡単だ。俺の腕をスタート位置から動かすことができたらお前の勝ち。できなかったら俺の勝ち。何も難しくはねぇだろ?」


「そんな―――ハンデいただいてもいいんですか?」


はん、と男が笑う。


「未覚醒勇者と覚醒勇者って差があるんだ。これぐらいは当然だ」


どこへ行って、誰に会っても、大方みんな同じような対応を俺にするよなぁ。


「さて、とっとと終わらせようぜ。人通りも少ないから、何かあったときに困るしな」


男が腕をコンクリートの上に置く。――――――ちょっと待て。これ、体勢的にかなりきつくならないか?

遅くなりました。

次回更新は水曜日です。

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