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Near Real  作者: 東田 悼侃
第三章 悪魔編
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3rd story 売られた喧嘩

昼休み、男に言われた通りに部室裏へと向かう。万が一の場合を想定して、昼は食べていない。


部室裏には、既に男達が集まっていた。その数はざっと十人。まぁ、そんなところだろうとは思っていたよ。取り巻きが、俺と自称校内最強の男の周りを取り囲む。そういえば、こいつの名前を聞いてなかったな。


「よく怖じけずに来たじゃないか。流石、魔族討伐隊の選抜者だ。過信にも程があるだろうに」


「その言葉、そのままお前に返すよ。自分の力を過信しているのは、お前の方じゃないのか?」


男が苛ついたのが目に見えてわかった。こいつも煽り耐性ゼロか。


「―――それで、まだお前の名前を聞いていなかったな。このあと一週間は口を利けなくなるかもしれないから、今のうちに言っとけよ」


ならば、煽って冷静さを欠かせるのがいい。俺は挑発を交えながら男に名を尋ねた。


「まだ大口を叩くか。いいだろう。冥土の土産に聞け。俺の名前はハンニバル・ノミマスだ。覚えておくがいい」


なんだ、その凶悪そうな名前は。そのインパクトは絶対忘れないな。


さて、と俺はアキレス腱を伸ばす。


「一年ぶりに登校できたわけだし、正直騒ぎは起こしたくなかったんだが―――仕方ない。お前みたいな奴は、痛い目見ないと理解しないからな」


俺のその言葉に、ハンニバルが怒りを露にする。


「戯言をほざくのもそこまでだ。死ね。糞野郎」


ハンニバルが、親指を下に突き出した、規制の入りそうなハンドシグナルを俺に向ける。それが合図だったのだろうか、取り巻きの男達が四方から一斉に襲い掛かってきた。


でも、なめてもらっちゃ困るな。突破口はいくらでもある。そのうちで、最も有効的なのは正面、ハンニバルだ。取り巻き達の伸ばす手が俺に掴みかかってくる前に、俺は地面を蹴って前方のハンニバルへと跳んだ。ハンニバルの襟を掴み、押し倒す。


「なっ.....」


ハンニバルの表情が驚きのものに変わる。どうやら、全く俺の動きに反応できなかったようだ。なんだ、この程度か。去年のサルゴンの方が強いぞ。


「お....おいっ!お前ら!何やってる!早くこいつをやれ!」


ハンニバルが俺に置き去りにされた取り巻きの男達に怒鳴る。取り巻きの中の二人が、俺の両腕を掴んでハンニバルの上から引き摺り下ろそうとした。だが、そう簡単に力負けするわけがない。俺は、腕力だけで二人を持ち上げると、背中から地面へと落とした。二人が悶絶する。それを見て、他の取り巻き達がまた一斉に俺に襲い掛かってきた。殴り掛かろうとしている奴も居れば、蹴り掛かろうとしている奴も居る。


この量は捌ききれないな。俺は後方の取り巻きの一人の頭上を越えるように宙返りをする。バキ、と音がして、男達の拳と靴がぶつかり合う。痛そうだな。その衝撃で怯んだ男達を、二秒の内に全員地面へと組み伏せる。そのついでに、身体中の関節を痛め付けて立ち上がれないようにしておいた。男達から呻き声が上がる。間違っても外したりはしていないから大丈夫だ。塵も積もれば山となる。体のあちこちから来る痛みに、大袈裟な反応を示しているだけだ。


「さて―――」


一息吐いて、ハンニバルへと向き直る。ひっ、とハンニバルは情けない悲鳴を漏らした。


「それで?自称学校最強さん。お前はどうするんだ?」


「あ......う、えっと.....その......」


声を詰まらせるハンニバルに近付くと、俺はしゃがみこんだ。


「勘違いして欲しくないのはさ、俺は未覚醒勇者ではあるけれど、討伐隊に選抜された未覚醒勇者ってことなんだよ。つまりさ、言い方は悪いけど、そこら辺に転がってるような覚醒勇者よりは強いって事なんだよ。しかも、一年間もみっちりと軍で鍛え上げられてきたんだ。お前みたいな中途半端な奴には負けないんだよ」


「そっ、それは知らなかったなぁー。ははは」


ハンニバルが、から笑いする。


「それで?もう一度聞くぞ。お前はどうするんだ?」


「それは――――そっ、そうだ!分かった!お、俺とお前は対等な立場ということにしよう!なっ?そうすれば、俺とお前がこの学校のナンバーワンだ。そっ、それならいいんじゃないのか?」


呆れたな。俺は大袈裟に溜め息を吐く。


「一番とか二番とか―――そういうのはどうでもいいんだよ。そもそも、俺はこの学校じゃ一番にはなれない。絶対にな」


絶対は言い過ぎかもしれない。だが現状、この学校の一番は部長である。どうあがいても、今の俺じゃあの人には敵わない。


「すっ!すまなかった!!」


急にハンニバルが土下座を始めた。カチ割れんばかりの勢いで頭を地面に打ち付ける。


「いや.......謝れとかそういうことを言ってるんじゃなくてな―――」


というか、謝ってくるとか予想外すぎて、どう対応すればいいのか分からねえし。ムキになって反抗してくるとばかり思ってた。こいつ――――――やりおるな。


「――――――何やってんの?」


そんな阿呆みたいな茶番を脳内で繰り広げていると、部室の方から女子の声がした。


「いきなり一年しめてるの?貴方、一年前とやってること大して変わってないわね」


ハルさんだった。一年見ないうちに、随分と印象が変わっているようで―――――。一年前は、もっと尖った雰囲気なかったっけ?


「いや。別に俺が喧嘩を吹っ掛けた訳じゃなくてな――――」


「そうなんです!!こいつがいきなり俺達を連れ出して―――――早く先生を呼んできてください!」


俺がハルさんの誤解を解こうと口を開くと、ハンニバルがそれを遮って何やら訳のわからないことを口走らせ始めた。


「はい?いやいやいや。俺がお前らに呼び出されたんだぜ?」


「違う!こいつだ!こいつが元凶なんだ!」


ハンニバルが起き上がり、メチャクチャなことを言いながらハルさんの下へと駆け寄る。


「助けて!!殺される!」


「ねえ、シェル。一つ聞きたいんだけど」


ハンニバルを横目に、ハルさんが俺に尋ねる。


「いや、俺が発端ではないからな?確かにこの惨事を作ったのは俺だけど、どちらかというと被害者は俺だからな?」


「そんな事分かってるわよ。違うの。私が聞きたいのは――――」


ハルさんは、そう言ってハンニバルを指差した。


「こいつ誰?」


数秒の沈黙の末、俺とハンニバルは同時に声を出した。


「え?」

ハンニバル・ノミマスとか適当です。


次回更新は水曜日です。

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