22nd story 勝負の行方
互いに一度、距離をとる。銃口は相手を向いたままだ。俺は部長の後方、みんなの状況を確認した。向こうも向こうで、決着が間近なようだ。人数的には六十六組の方が勝っているが、疲労が動きから見てとれる。全滅も視野にいれておいた方がいいかもしれない。
俺は部長に視線を戻した。見れば見るほど、部長には隙がないように思えてくる。どう攻める、俺。五分は経っただろうか。いや、まだ経っていないか?時間感覚が可笑しくなったようだ。
しびれを切らして飛び出れば負ける。俺は気を張って部長を睨み続けた。
体内時計で大体十分が経過した。といっても、感覚だからあてにはならない。
いつまでも膠着している俺達に比べ、他のメンバーの戦いは激戦だった。最後に敵一人に対し、六十六組は二人残る。うち一人はフリーメル先輩だ。もう一人は、自己紹介の時に俺に突っかかってきたあの男。俺と部長は、一旦そっちの観戦ということにした。ことの結末を眺める。
二人の仲はいいわけではなく、むしろ日頃は嫌悪なムードが漂いさえしていたはずだと言うのに、その連携には目を見張るものがあった。
二人は、最後の八組の敵を難なく撃破した。俺はホッと一息吐く。これで残るは部長だけだ。
しかし、その安堵もつかの間。銃声がして、フリーメル先輩の“テルミドール”が鳴った。フリーメル先輩がキョトンとした顔をする。俺は部長を見た。しかし、部長は銃を構えていない。
俺は再びフリーメル先輩を見た。そして発見する。フリーメル先輩に銃口を向けている仲間の男を。
「なっ―――――――」
何故味方を撃つ!?これも部長の差し金か!?
「シェル、言っとくが俺は知らないぜ?いくらなんでも、そんなセコい真似はしねえ」
俺の心理を読んでか、部長が言った。だとしたら、あいつは何をしていると言うんだ?
男が、今度は俺に銃口を向けた。俺は狼狽した。
「お前!何をしてるんだ!一体、どうしたってんた!」
男に叫ぶように尋ねる。男は俺を睨むと答えた。
「あ?見てわかんねーのか?こいつを撃った。それだけだ」
男が、呆気にとられながらも仕方なく退場しようとしているフリーメル先輩を指差す。
「俺の聞きたいことはそうじゃねえっ!なんで仲間を撃ったかって聞いてんだ!」
「―――――――テメェらが嫌いなんだよ」
「........は?」
「仲良しごっこだかなんだか知らねえが、和気藹々としやがってよお。ムカつく。つまんねえ友情劇してんじゃねえよ。ちょっと実力があるからって調子乗りやがって。優勝する?笑わせんな。こんな遊びに何の意味があるってんだ。俺はとっとと戦場に行って、魔族どもをぶっ殺してえんだよ。目障りなんだよ、てめえらは。そんな奴ら優勝させるか。俺が邪魔してやる」
言ってることが理解できないのは俺だけだろうか。みんなで楽しくやってるのを見てるとムカつくから優勝させない?寂しいのか?発想がガキじゃねーか。
男が俺に向かって引き金を引く――――前に、部長が男に発砲した。男の“テルミドール”が鳴る。
「下らねえこと言ってねえで、とっとと退場しろ」
部長が投げ槍に言う。
「何しやがんだボケッ!邪魔してんじゃねぇ!つうか邪魔する理由がねーだろ!俺があいつを撃てば、お前らの優勝じゃねーか!馬鹿なのか!?」
男が部長にわめく。部長は男に蔑みの視線を投げ掛けると言った。
「邪魔というか―――止める理由しかねえよ。そもそも、俺たちの勝負に水を指したのはそっちだろ。邪魔なのはお前だ。下らねえ私情で決勝戦を台無しにすんじゃねーよ」
男は舌打ちすると拳銃を地面に叩き付けた。ガシャッ、と勢いで銃が壊れる。おいおい、爆発するぞ。
さて、ど部長が俺に向き直る。
「馬鹿は放っておいて、再開しようぜ。最後の勝負」
男は“テルミドール”
を鳴らしながら、ブツブツと何かを呟きつつ去っていった。
草原の中央に、俺と部長だけが取り残された。俺と部長は、今度は銃を構えずに対峙した。
先に動いたのは部長だった。一直線に俺に向かって突進してくる。俺は直線上の部長に発砲した。当然、部長はそれを避ける。避けると同時に、俺に向かって一発放ってきた。俺はあえて、部長のいる右側に避ける。両者がぶつかりそうになると、部長は足を前に投げてスライディングをした。俺は前方に飛び込むように跳躍することでそれを避ける。
この状態じゃあ、部長の方が体勢を整えるのは速いな。そう判断すると、俺は着地と同時に前転。体勢を立て直すや否や、その場でバク転をした。その下を弾丸が走っていく。危ねえ。まさに神回避だ。
俺はバク転を終え着地すると、すぐさま振り向いた。しかし、そこに部長の姿はない。俺は頭上を見上げた。上空から部長が降ってくる。
俺は後方に下がると、部長の着地の瞬間に合わせて発砲した。だが、部長の胸めがけて撃ったそれは、空を掠める。部長は地面に体ごとうつ伏せに着地して弾を過ごしていた。なんじゃそりゃ。
部長が俺の脛辺りに発砲する。俺は後ろ向きに跳んだ。今度は俺の着地の瞬間を狙って部長が発砲する。地面すれすれだ。けど部長、重要なことを忘れてないか?飛んでくる弾丸にも関わらず、俺は自由落下した。
ここはさ、傾斜の多い地帯なんだよ。
俺は背中から地面に落ちると、受け身を取りながら後ろ向きに坂を転がり落ちた。全然明後日の方向へと弾は飛んでいく。
斜面に沿うようにうつ伏せになると、俺は拳銃を握った。部長の姿はここからでは見えない。俺は部長が動くのをひたすらに待った。
五分ぐらいしただろうか。不意に、背後で銃声がした。
「しまったッ!」
いつのまにか回り込まれている。俺はその場を転がってなんとか被弾を避けた。顔面の横すれすれで弾が地面に着弾する。弾けた土が顔の上に降り注いだ。だが弾は当たってない。ギリギリセーフだ。俺は立ち上がって部長の姿を探した。
背後を振り返った俺の背中が急に重くなる。俺は前のめりに地面に倒れ込んだ。後頭部に固いものが当てられる。俺はとっさに両手でそれを掴むと、力で無理矢理方向をそらせた。しかし、部長のもう片方の手が伸びてきて、おれ左腕を掴む。直後、左腕に痛みが走った。肘から先がしびれる。ツボかっ!このやろう!俺は思わず銃から手を離した。その隙に、再び銃口が後頭部へ突き付けられる。やらかしたなぁ。左腕は動かない。
これじゃあ負けじゃないか。
「終わりだ」
部長がそう呟く。俺は衝撃に備えて目をつむった。
その時だった。
『戦闘開始から三時間が経過した』
区内にアナウンスが響いた。
『只今をもって、戦闘を終了とする。大将は両名とも生存。よって決勝は引き分け。両組優勝となる』
両組優勝―――――――
「おいおい!嘘だろッ!?そんな終わり方ありかよッ!」
部長が俺の背中の上で叫んだ。
そんな終わり方ありかよッ!
無しですね。
次回更新は水曜日です。