表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
5/119

4th story 競争

「準備運動はいいのか?」


無数の視線が、俺達二人に集まる。俺はコース上に立つシス・ムガルに尋ねた。


「ふん。君になんかじゃ、こんなハンデでも足りないぐらいだ。最初に言っておく、俺はかなり早い」


参ったな、本気のこいつを潰すからいいいのに。少しかまをかけてみるか。


「それで?もし俺に負けたらどうするんだ?準備運動をしていないのを言い訳にするか?」


「何を勘違いしている。まさか本気で僕に勝てると思ってるのか?」


「あのなぁ。もし、って言っただろ?仮定だよ、仮定。それにさ、ここにいるやつらに“勇者適性者”の実力を見せるんじゃないのか?なんだ、勇者ってこんなんなんだ、って思われたいのか?」


「ふん。分かったよ。なら本気でやってやる。二度と走りたくないって思える程、惨めに差をつけて勝ってやる」


シス・ムガルがストレッチを始める。俺も、もう一度足をほぐした。


トラックの周囲は静まり返っていた。さっきまで聞こえていた他会場での喧騒も、今は聞こえない。どうやら、今測定をしている全員が、俺達の競争を見に集まっているようだ。いや、シス・ムガル、“勇者”の適性を持つ者を見に来ただけか。きっと、俺の勝負はおまけだと思っているのだろう。隣のシス・ムガルも、満更でない顔をしている。


「いいかー!?お前らー!」


五十メートル先のゴール地点で、スサノオ先生が声を張り上げた。俺らは先生に無言で手を挙げ合図を送ると、スタート位置についた。


「いくぞー! よーい!」


俺はクラウチングスタートの姿勢をとる。シス・ムガルは、立ったままかけっこの“よーい”の姿勢だ。ダサい。


バン!!


空砲が響く。それを合図に、俺とシス・ムガルは飛び出した。

おお、あの体勢からスタートしたってのに、かなり速いぞ、シス・ムガル。流石、勇者の適性者なだけある。並の人間じゃ、どんなに鍛えても勝てないな、あれ。


でも......それは、相手が並の人間の時の話だ。


ゴールが近付く。シス・ムガルは俺の後方だ。勝った。視界の隅、先生がストップウォッチを止めるのが目に入る。ゴール後に流して帰ってくると、シス・ムガルが行きを切らしながら呆然としていた。周囲も、ポカンと口を開けている。


「馬鹿な.......僕が負けるなんて......“勇者”の適性を持つ僕が......ありえない.....」


 ぶつぶつとシス・ムガルが虚ろな目で呟く。俺は先生の元へ向かった。


「先生、タイムは?」


俺の言葉に、ハッとしてストップウォッチを見直す先生。


「い.......一着、シェル・クライマン.......2秒48......」


うん、想像より一秒ぐらい速いな。少し驚いた。さて、それで?と、俺はシス・ムガルの方を向く。


「彼は?」


「4秒.....16」


先生が答える。俺は頷いた。


「どうする?これで終わりか?」


ヘタリと地面に座り込んだシス・ムガルの肩に手をかける。


「き.....気安く僕に触れるな!!」


シス・ムガルかわ俺の手を払い除ける。おうおう、まだ元気じゃねえか。


「み......認めないぞ.......この僕が下民に負けるなど.......断じて認めない.....」


「じゃあ、他にも勝負するか?」


今ので、大体こいつの実力が分かった。こいつになら、俺は負けない。


「い、いいだろう。次こそ負かしてやる......今のは偶然だ...」


偶然って、おいおい。君の中じゃ、俺は只の一般人じゃないのか?一般人がどうやったら五十メートルを二秒台で走れるんだよ。どれだけおめでたい頭してるんだ?


俺達は次の測定会場へ向かった。




握力 俺 測定不能(計器破壊) シス・ムガル 173.2㎏


反復横跳び 892回 176回


ハンドボール投げ 637m 86m


上体起こし 248回 65回


立ち幅跳び 17m28㎝ 4m12㎝


長座体前屈 60㎝ 34㎝


シャトルラン 921回 368回



「嘘だ..........この僕が.......下民に一つも勝てないなど.............」


顔面蒼白となって、シス・ムガルは立ち尽くした。正直、俺も驚いている。ちょっとやり過ぎた感の否めない数値だ。いわゆるチート的なやつなんじゃね?これ。


周囲のクラスメイトは、もう途中で呆れていた。一人だけ興奮している、ユグノ・サンバルテルミとかいう奴がいたが。


「満足したか?満足したら、もう帰れ」


俺はシス・ムガルに言った。シス・ムガルはダークスーツの、おそらくボディーガード的なやつの男達に支えられながら立ち上がった。


「調子に乗るなよ。この借りはきっと返してやる.......覚えてろよ」


「いや、わざわざ返してくれなくてもいいよ。だから、もうこっちにはこないでくれ」


学校から出ていくシス・ムガルを、俺はヒラヒラと手を振って送り出した。


途中、握力測定器を粉砕しちまうというハプニングもあったが、まあ結果オーライだ。

さて、ユグの測定を手伝うとするか。

ご意見、ご感想宜しくお願いします。次回更新は、なるべく平日中を目指しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ