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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
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21st story クライマックス

それから三十分。森林の中で戦況をうまく掴めなくなった俺達は、一旦草原へと出た。八組はいつのまにか、戦闘開始時と同じように草原の中央に戻っていた。これでまた、戦場は膠着した。一体どうしろってんだ?この状況。俺は途方にくれる。これじゃあ、絶対勝てないじゃないか。やはり、メンバーの言うように、駄目元で特攻するしか手はないのか?少佐の地位は、諦めるべきか?


――――そうかもしれない。それが正しいのかもしれない。こんな、悪く言えば遊び程度の模擬戦闘でさえこの様の俺が、実際の戦場で指揮を執ったところで、どうなるというのだろうか。むしろ先輩達を、仲間達を危険にさらすんじゃないのか?俺が上に立つというのは、かえって悪いことじゃないのか?俺は俺らしく、俺の出来ることを―――――――――俺の.......出来ること.......


「先輩」


俺はフリーメル先輩に声をかけた。


「先輩に指揮権の全てを委任します。今から事実上、俺達を動かすのは先輩です」


「おいおい。急にどうした。そんなこと言われてもな、怖じけずいたのか?」


俺は首を振って否定する。


「勝つにはこれしかありません。俺がいつまでも指揮権を持ってなよなよしているのは、チームにとっていいことじゃありません。部長のことを一番よく知っている先輩に、一番勝機があります」


「そう言われてもなぁ」


首の裏を掻くフリーメル先輩。


「俺の方が向いてないと思うぜ?さっきからそうだけど、俺の発案は全部、部長に読まれてるって感じじゃねえか。もし最初から俺が指揮権を握っていたら、今ごろ俺達は敗北してるぜ?」


「その思いっきりの良さが、今は必要なんですよ」


俺は流れる汗を拭いながら続けた。


「先輩の考える単純な作戦は、かえって有効打になるかもしれません」


そうか、と決意した表情を見せるフリーメル先輩。


「みんなは、その事について異論ないのか?」


フリーメル先輩が周りのメンバー二十三人に尋ねる。ほとんどが縦に頷いたのを見てから、フリーメル先輩は俺に向き直った。


「じゃあシェル、その指揮権受け取るよ。ただ、守るのは大将マークを持ったお前だ。俺はあくまで、指揮権があるにすぎない。そういうことでいいんだよな?」


「そういうことです」


無責任なのはわかっている。詩文勝手なのはわかっている。けれど、今の俺にはこうすることしか出来ない。俺が指揮している限りは、俺達は絶対に勝つことが出来ない。


「じゃあ、少し時間をくれ。作戦を考える」


それでも、直感は避けないとな。フリーメル先輩ははにかんだ。



結局みんなで作戦会議をすることになり、策がまとまったのは五十分後だった。敵の動きを警戒したり、移動しながらの会議だったので、必要以上に時間をとられたのだ。その間、いろいろな奇策は浮かんだものの、所詮は奇策。相手の意を突くものでしかない。今回の相手のように、隙を見せない相手に通用するかどうか。


正面からの特攻。結論はそれだった。


「これだけ時間をおけば、相手もダレてくるだろうし、そうでなくても、俺達が奇策を練ってくると踏んで、あらぬところを警戒しているかもしれない」


メンバーの誰かが言った言葉だ。


俺達は草原へと出た。フリーメル先輩が最初に見つけた傾斜の多い地帯へと移動する。正面特攻をするにあたって、俺達が何の考えもなく突っ込んでいったら、この距離間を詰めている間に対応されてしまう。近場から唐突に飛び出た方が、作戦は成功しやすい。


この傾斜地帯には、相手は何か罠を仕掛けているだろう。きっと、相手から俺達に接近してくるはずだ。そうすれば、傾斜を生かして資格から飛び出せる。これしかない。


案の定、俺達が傾斜地帯に到達すると同時に、八組の本隊は動き出した。およそ二十人が横一列に並びながら進軍してくる。


なるほど。俺は理解する。傾斜の中の窪地に俺達を嵌めようってわけか。俺は皆に、その旨を伝えた。


「ギリギリまで引き付けて、囲まれる前に一気に敵を叩こう」


フリーメル先輩が作戦をまとめる。見えてきた決勝の終結に、俺達はもう一度気を引き締めた。


敵との距離が十五メートル程になる。俺はフリーメル先輩に目配せした。先輩もそれに気付き、頷く。


「三.....二.....一.....」


フリーメル先輩の口がそう動いた。敵との距離は十メートル。


「ゴーッ!!!」


フリーメル先輩の叫びに呼応して、俺達は一斉に傾斜の影から飛び出した。手当たり次第に発砲する。困惑していた敵が徐々に気を取り直すと、戦況は拮抗していった。味方からも“テルミドール”の電子音が発せられるようになる。


俺は流れ弾を避けながら、敵大将を探した。


居た。やっぱり部長だ。敵方の後方で、俺と同じように流れ弾を避けながら戦況を見守っている。俺は三歩ほど助走をつけると跳躍した。

敵も味方も飛び越え、部長の背後に着地する。背中合わせの状態だ。


「だから嫌なんですよ、部長とやるのって」


背を向けあったまま、俺は部長に言った。


「やりにくいったらありゃしない。まったく、いい性格してますよ、部長」


「だろ?よく言われるぜ」


俺は振り向いて部長に銃口を突き付けた。だが、部長の握る拳銃も、俺の額に向けられている。やっぱり。反応速度はおおよそ互角か。


「にしてもな」


十を向けあったまま、部長が口を開く。


「正直驚いたぜ、シェル。こんなこと言っちゃ悪いが、もちっと馬鹿な奴だと思ってたよ」


俺は苦笑する。まあ、部長にとってみればやっぱり、俺は馬鹿なんだろうな。


「本当は、最初の挟み撃ち作戦で仕留めるつもりだったんだけどな。露骨すぎたか?」


「ですね。誘いが丸分かりでしたね」


もしかしたら、それすらも作戦だったのかも知れないが。部長はウンウンと頷いた。


「それで――――?お前はどうしたいんだ?俺とやりあうのか?それとも、仲間に任せるのか?」


「それは勿論――――」


今回、特にチームに貢献できなかった俺の、最初にして最後、唯一の名誉挽回のチャンス。


「俺が部長を倒して、六十六組を優勝させますよ」


「そうこなくっちゃな」


部長は笑う。


「二人で決着をつけるだけなら、まだ時間はある」


俺と部長は、引き金を握る指に力を込めた。


「楽しもうぜ、シェル」

次回かその次ぐらいで決着がつく予定です。



次回更新は土曜日です。

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