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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
48/119

20 story 詰まり

手も足も出ないけど、他の部位なら出せるよ、とか、そういうのではなく。そのまんま、言葉通り、俺達がどんな行動を起こしても、何も行動を起こさなくても、その先にあるのは大方、負けだ。二手三手先はおろか、四手五手先まで、部長には読まれているだろう。そういう人なんだ、あの人は。一見、おちゃらけた、楽天的なイメージを持ちやすいけれど、実のところ誰よりも冷静で、誰よりも賢い。狡猾、と言った方がいいかもしれない。


「そんなのは分かってるぜ。同学年なんだ。でも、勝ちてえだろ」


フリーメル先輩は言う。


「何かないのか。あいつに勝てる策は」


俺はここ数ヵ月の間に教わった、集団戦法のあれこれを思い出した。幾つかの策が浮かんでは、次の部長の一手が安易に予想できてしまい、ことごとく潰れてゆく。それに部長の事だ。俺の予想を更に上回る策がいくつもあるに違いない。



「おい!敵本隊が動いたぞ!」


樹上で敵の動きを見張っていた男が、下に居る俺達に向かって叫んだ。大勢がざわめく。


「どんな動きだ!」


フリーメル先輩が叫んでその男に尋ねる。


「こっちに一直線に向かってきてる!速度的に考えて、あと五分としないうちに突っ込んでくるぞ!」


なるほど、そこまでのスピードはないようだ。


「シェル!」


男の報告に、フリーメル先輩が俺を振り返る。


「このまま八組を森の中へ誘い込もう!そうすれば、奇襲も仕掛けられる!」


チャンスだ!フリーメル先輩がそう言い終わるのとほぼ同時に


「シェル!風が敵を感知した!後ろから来てるぞ!」


風魔法で周囲を警戒していた魔法使いの一人が走ってこっちまでやって来て言った。


「挟み撃ちか!」


フリーメル先輩が叫ぶ。


「距離は?」


「約二百メートル先だ。移動速度は速くない。二分はかかるスピードだ」


そうか。前後から同タイミングで襲おうって魂胆か。


「人数は?なるべく正確に把握できるか?」


ちょっと待ってくれと言うと、男は目を閉じた。


「―――――三十五人?どういうことだ?半数以上が後方に固まってるってことになる」


目を開けた男が困惑する。


「主戦力は後方なのか?だとしたらシェル、チャンスじゃねえか。本隊の守りは薄い。全戦力で叩いちまおうぜ!」


フリーメル先輩が声を荒らげる。いいから落ち着いて。


「あいつら、俺達に探索能力者が居ないと思ったのか?好都合だ。これで勝機が見えてきた!」


「待ってください、フリーメル先輩」


この人、こんなにテンション高いキャラだったっけ?俺は興奮するフリーメル先輩をなだめた。


「部長がそんなに馬鹿なわけないでしょう。その編成も、俺達が数まで正確に把握できると見抜いた上でのものと考えるべきです」


そうだな、と相槌を打つフリーメル先輩。俺は話を続けた。


「そうなった時に、本隊を手薄にするなんて、普通は考えますか?そんな風にしたら、先輩の発想に辿り着くのは当然のようなものです。もし後方からの戦力に偏りを作っていたら、本隊が危ない。この場合、本隊の人数の方が少数なのは、それだけ本隊の戦力に自信があるってことです」


むしろ、主戦力は、後方の大人数の方よりも前方の本隊の方に偏ってるだろう。


「だから、叩くのは後方の分隊です」


俺は背後を振り向いた。


「当初予定していた攻撃を後方の分隊に仕掛ける。各班に分かれるよう伝達を」


俺は近くに居た一人の勇者にそう伝えた。了解、と男は他のメンバーの下へと走っていく。


三十秒としないうちに、行動は終わる。俺達は十の班に分かれた。


「草原側から敵本隊も迫ってきている。後方隊をなるべく迅速に壊滅させ、森林の中に身を隠すぞ」


時間はない。十の班はそれぞれの配置へと移動した。布陣を整えながら後方隊へと向かう。俺の属する、というか、俺が率いる班の五人は、樹上に鳴りを潜めた。俺が敵陣に無理矢理攻めることは今はできない。俺が撃たれれば負けなのだ。そういう自負とかではなく、ルール上。


基本五人で組まれた十個の班は、視界に敵勢力を捉えると、一気に周囲に散開した。前方からは二班。左右それぞれからも二班ずつ。後方から一班。頭上からは二班が、一気に敵に襲いかかる、という作戦。


下で銃声がする。始まった。ワァッと一気に下が騒がしくなる。銃声とテルミドールの電子音、雄叫びが入り乱れる。俺は、なるべくこの戦闘が早く終わるように願った。この騒ぎに、いつ敵本隊が駆け付けてくるか分からない。


ほぼ全勢力を投じた甲斐もあって、戦闘は二分足らずで終了した。敵の後方部隊は全滅だ。しかし、これは若干、予想外と言わざるを得ないが、こちらの損失も大きかった。半分以上のメンバーが、被弾によって退場を余儀なくされたようだ。残ったのは二十五人。敵本隊の数は二十人。この戦闘での疲労も考えると、現時点では俺達の方が不利な状況だ。


俺達残った二十五人は、一時森の中へと撤退した。一度、状況を建て直す必要がある。


「さて――――こっからどうするか」


二十四人を前にして、俺は考える。ここからはどうしても、チームの総力というよりかは、個々の力が重要になってくる。


「最悪、大将さえ倒せればいいんだよな」


一人が確認をとる。水魔法使いでリア充の彼だ。


「だったら、シェルを守りながら敵陣に特攻すればいいんじゃねえのか。こう、シェルの周りをみんながグルーって囲んで、壁になってよ」


体を使って表現する男。


「でもそれじゃあ、むこうがガチガチに固めてたら通じないんじゃないか?」


誰かが反論する。また白紙だ。戦闘開始から三十分。今回は、ずっと策を考えているような。


部長の事だ。このタイミングで畳み掛けようと、俺達を探しているに違いない。


「少しばかり.....時間が足りないよなぁ」


もっと勉強しないとな。俺は切に感じる。

次回更新は水曜日です。

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