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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
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19th story 決勝戦

「一ヶ月、よく頑張ったと思う。何人か目立つ活躍をして来た奴も居るが、その少数だけがこれまでの戦いを決めてきたとは、決して思ってない。活躍できる人物が居たっていうことは、それだけ周りが裏で頑張ってたってことだと、俺は思う。一人ひとりで見たら、大した結果を残せていないと思っている奴も居るかもしれない。けれど、この中の誰か一人でも欠けていたら、俺達は今、ここに立つことはできなかった」


“セルベ実戦区”森林の中で、俺達六十六組、五十五名は円陣を組む。


「相手は手強いぞ。奇襲が通用するかどうかも分からない。けれど....ここまで来たら、かって優勝しようぜ!!」


応ッ!と皆が答える。


「行くぞぉッ!」


オオオッ!六十六組が吠える。俺達は円陣を解くと、それぞれの準備に取りかかった。今日の大将は俺だ。


「シェル、まずいことになった」


俺が特殊弾入りの銃の確認をしていると、班員の一人の勇者が、神妙な顔付きで声をかけてきた。


「どうした」


「相手の八組、草原の中央に陣取ってやがる。俺達の森林を生かした奇襲をさせないつもりだ」


「.....まあ、それが妥当な策だろうな。これまでのほとんどの戦闘で、俺達は奇襲で勝ってきたからな。それさえ押さえれば、恐くないってことなんだろ」


「どうするんだ?作戦は変更か?」


「そうだな、まずは敵の出方を見よう。全員、このまま待機だ」


「分かった。皆に伝達してくる」


男はそう言って、足早に去っていった。俺は舌打ちする。やってくれるじゃねえか。いきなり俺等の最大の利点を潰してきやがった。部長の案か?いや、あの人でなくても、ほんの少し頭が回れば、この程度は考え付く。これまで戦ってきた相手が、揃いも揃って脳筋だったってことか。


草原上での戦闘に備えてこなかったわけではない。いくつか作戦も考えてある。ただ、どれも微妙なのだ。部長の組が相手なら、なおさら、直ぐに看破されそうな、簡単な作戦ばかり。



とりあえずは、さっきも言ったように、敵の様子を伺うのが吉だろう。


戦闘開始の五分前になった。俺は六十六組の面々を集めた。


「みんな聞いてるな?敵は草原の中央に居座って、俺達を森林地帯から引き出そうとしているらしい。最善の一手を見定めるのに、先に相手の出方を伺う。敵を観測できて、かつ安全な位置まで移動するぞ」


森林と草原の境界から五十メートルほど離れた場所で、俺達は陣を展開する。人の準備が終わるか否かのタイミングで、場内に戦闘開始のサイレンが響いた。樹上に五人ほど観測隊を登らせ、その間に、俺達は応急で陣形を整えた。


「まだ動かない」


戦闘開始から十分が経過するも、戦場は膠着状態にあった。長引かせたくはないものだ。飯食えないし。


「前方以外―――特に頭上と後方に警戒。奴等、俺達を森林から追い出すために、後ろから追い込んでくるかもしれない」


俺は、三人の風魔法を使える魔法使いに指示をした。三人は魔法で風を作り、それらを俺等の周囲に張り巡らせた。三人と風の感覚は共有されていて、風が何か障害物にぶつかれば、その抵抗から物質の形、大きさ、質量などを三人は知ることができる。初めて五百組と模擬戦闘をやったとき、相手のあの女性が使用していたのも、恐らくこれに近い探索術。


「挟み撃ちって可能性もあるかな」


俺は一人ごちる。何にせよ、こっちは大分詰まっている。相手はきっと、確実に勝てるような手を打ってくるのだろうが、きっとその条件が揃うまでは動かないだろう。このままでは、俺達は負けるかもしれない。現時点ではむしろ、その可能性の方が高い。


「なあ、シェル」


俺が思案にあぐねていると、フリーメル先輩が草原の遠くを指差した。八組の居る場所とは反対だ。


「敵の射程の外を回って、あそこまで移動しねえか?あそこの傾斜なら、いい感じに敵から身を隠せると思うんだ」


「でもそれなら、森林の中にこのまま隠れていた方が安全なんじゃ?わざわざ移動なんて危険を冒さなくても」


俺は反論する。


「確かに、奥に逃げちまえば、敵には見つかりにくくなる。でもその分、俺達も相手を見付けにくくなる。あっちなら、幾分か見晴らしがいいだろ」


確かに。俺は頷く。


「それに、このままどちらも動かないんじゃな。向こうに移動することで、いくらか戦況も変わるはずだ」


「でも、だからこそ慎重に動かなきゃいけないんですよ。下手に動きを見せて、それが相手にとって有益な行動だったとすれば、向こうは即、攻撃に移るはずです。それに、この位置関係―――」


俺は八組の居る位置と、フリーメル先輩の指した傾斜地帯とを交互に眺めた。


「多分ですけど、あっちに移動することを誘導されてます」


「誘導?何でさ」


「だって」


俺は肩をすくめて見せた。


「あれ、よく考えたらかなり有利な地刑してますよ。こっちは身を隠せるし、向こうの様子は丸見え」


「そうだ。だからあっちへ行こうって提案したんだ」


「いえ、だから、は違いますよ。だから、なのはこっちです。“だから移動できない”」


「シェル、もっと端的に言ってくれ。分からないったりゃ、ありゃしねえ」


「えっと、そうですね―――そんな好条件な地形を、決勝まで勝ち上がってくるような、まして、たった一手、陣の構える場所だけで俺達の最初の攻撃を未然に防いだ相手が、俺達に譲り渡すと思えますか?そんなミスしますか?」


「そういうことか。確かにな。ありゃ、誘われてるな」


でしょう?だから嫌なんだよ。こんなこと考えるの、部長しか居ないだろ。


「それじゃあ、敵陣に突っ込むのか?」


「負けますよ」


俺は即答する。対策が施されてないわけがない。


「じゃあ、どうするんだよ。突っ込んでも負け。移動しても負け。留まっていても恐らくは負け―――何も出来ねえじゃねえか」


やっと気付いたか。俺はフリーメル先輩を見ずに言った。


「ええ。手も足も出ません。どう転がっても、俺達の負けは必至です。俺達は今、詰んでるんですよ」

次回更新は土曜日です。

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