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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
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15th story 主役登場

さっきまでなんか、物凄く最終決戦みたいな雰囲気出てたけど、全然そんなことないからね?正直な話、この模擬戦闘に勝とうが負けようが、そこまで今後に影響はないんだよね。でも、出だしで負けるとさ、モチベーション下がるじゃん?ほら。だから、負けないようにしようぜって。それで、それなら勝ちに行こうぜって、それだけの話なんだよね。


閑話休題


さっきの小競り合いの中で気づいたんだけど、銃弾って結構、避けられるものなんだね。視界の中に銃口がありさえすれば、五メートルぐらいの至近距離から撃たれても、ひょいって避けられたり。背後とか、死角からの射撃はちょっと対応できないけどね。


一般人とかただの勇者適性者は真似しないでくれよ?自慢とかじゃないが、これは覚醒勇者の精鋭に匹敵するステータスを持つおれだから出来る所業なんだから。


と、まあそんなわけで、背後まで囲まれているこの状況は、俺にとっては芳しくないんだ。そろそろ残弾も気になる頃だしさ。木の上で補充してくりゃよかった。今更ながらに後悔だ。


背後で銃声が一発轟く。ああ、マジで袋小路ってやつじゃねえか。やるしかないのか。


俺は体を左に反転させると、そこに居た敵に向かって一歩を蹴り出しながら発砲した。俺の元居た位置を弾丸が通り過ぎ、そのまま前方の敵に着弾する。それとほぼ同時に、俺の放った弾が、俺の向かう左に居た敵の腹部に当たる。



二つの“テルミドール”が共鳴し合うかのように鳴った。オーケー。これで脱出可能だ。


俺は被弾した敵に対し、体当たりをするかのようにそのまま突っ込んだ。敵が慌てて身をよじって俺を避ける。ありがとう。突破完了だ。敵の脇を通り抜ける際、もう一人めがけて発砲しておく。当たりはしなかったが、まあいいさ。


追ってくる弾丸を避けるように、俺は木の群集した地帯へと足を踏み入れる。相手の追っ手がないことを確認すると、俺は弾倉を補充した。


ヤベーよ。ヤベー。滅茶苦茶格好つけて、<さて、決着をつけに行くか>とか言ってたのに、また隠れてるよ。グダグダじゃねーか、俺。早く片付けないと、敵の前線が戻ってくるかもしれない。それじゃあ笑い話にもなんねえ。俺は意を決して、密集林から飛び出した。


敵の数は残り十人。一人ひとり片付けていたんじゃ、らちが明かない。ここは、俺の機動力を生かして特攻しよう。


俺は地面を踏みしめた後、思いっきりパワーを爆発させて蹴った。二歩、三歩と駆けていくうちに、トップスピードに乗る。四人の敵が、慌てて俺に照準を会わせて射撃する。俺は前方に足を伸ばしてスライディングすることで、それらの全てを回避すると、ブレーキを掛けることなく、そのままスライディングで四人の足下を通りすぎた。何が起きたのか理解できず、茫然と虚空を見詰める四人。俺は滑っていた足を少し立てることでブレーキを掛けた。スピードも相まって、盛大に落ち葉が舞い上がる。それは、前方で身構える大将含む六人の敵から、俺の姿を隠してくれた。


一瞬、敵に隙が生じる。ブレーキは掛けたものの、慣性の法則に従って尚も前に進もうとするエネルギーを使い、立ち上がり際に俺は跳躍した。


落ち葉のカーテンを突き抜け、敵四人の頭上を越える。本当は、そのあと直ぐに着地を決めたかったのだが、勢い余っていた俺は、更に敵大将と探索の得意な女性の二人をも飛び越えた。


大将と女性の後方に着地した俺は、一回前転して着地の勢いを殺し、振り返る。驚きの表情を浮かべながら、敵大将がゆっくりとこちらを振り向いた。


あれ?これチャンスなんじゃね?俺は銃を敵大将に向けると、心を落ち着かせるよう、ゆっくり引き金を引いた。弾は、吸い込まれるように敵大将に向かっていき、その右胸に―――着弾しなかった。


「危ない!」


そう叫んで、俺の発砲とほぼ同時に敵大将の正面に飛び出してきたのは、あの女性だった。銃弾は、身長差によって女性の右肩に当たる。やかましい“テルミドール”の電子音が鳴った。こいつは一体、何をしているんだ?まるで“先読み”をしているような――――


いやしかし、この女性をこのタイミングで退場させられたのは、ある意味僥倖だったかもしれない。


銃声に、前方の八人の男が反応していた。まるで、撃たれても構わないかのように、八人が何の策もなく、一斉に突進してくる。実際、撃たれても構わないのだろう。例え、八人中七人が撃たれても、残った一人が俺を撃てばいい、という考えだろう。そして、その目的は達成される。


二人の敵を返り討ちにしたところで、一発の弾が俺の体に着弾した。流石に、四つ一気に避けるのは無理があったか。どす、と衝撃がする。結構痛い。続くように、胸ポケットの表に引っ掻けた“テルミドール”が鳴る。滅茶滅茶うるせえ。どうやって止めるんだよ、これ。


「残念だったな。君たちの奇襲は失敗に終わった」


敵大将が、地面に座り込んだ俺に語りかけてくる。“テルミドール”がうるさくて、話の半分も聞こえなかったが、大方、こんなことを言ったのだろう。


「本当、残念だよ。俺の奇襲が失敗するなんて」


“テルミドール”に負けないよう、声量を上げて俺は答えた。


「まあ、ゆっくり休みながら自陣に戻りな。着いた頃には、俺たちの勝利が決定していると思うからさ」


考えるに、君達の陣の守りは手薄だろ?と、声量を上げてくれる敵大将。


「何で?」


俺は首をかしげて尋ねた。


「何でお前達の勝利が決まるんだ?俺たちの勝利が、もう決まってるっていうのに」


「何?」


敵大将が目を細める。


「戯言はまたにして、さっさと退場したらどうだ」


その声に、少し怒気がこもったように感じられる。相変わらず、“テルミドール”はうるさい。


「そうだな。そろそろ退場するか。――――只し、それはお前の敗北を見届けてからだ」


「お前!いい加減に!」


見るからに大将が怒り出した。こんな短気な奴に、よく大将が務まったな。いやいやいやいやいや。そんなのは重要じゃないだろ。よく脱線するよな、俺って。今更気付いたよ。


俺は立ち上がって、尻に付いた葉や土を払うと、“テルミドール”に負けないよう声を張り上げて、こう言った。


「主役ってのはさ、最後に颯爽と現れるもんなんだぜ?」


バサッ、と頭上で樹枝が揺れる。敵九人が上を見上げると同時に、大将の背後に男が一人降り立った。そう、俺の連れてきた六十六組奇襲班――今名付けた――の四人のうちの一人だ。


男が、敵大将の背中に向かって特殊弾を放つ。衝撃を食らって、少し前のめりになる敵大将の胸ポケットの中で、“テルミドール”が鳴った。


「ば........馬鹿な......奇襲組は.....五人ではなかったのか?」


検討違いも甚だしいようなことを、敵大将が言う。


「いいや?最初っから俺らは五人だったぜ?」


「だったら....何で...」


「おいおいおいおい。何か、勘違いしてるんじゃないのか?いつ俺ら五人が全滅した?ここにいる誰一人として、俺ら全員が退場する所は見てないんじゃないのか?」


「しかし...今の今までこの男は....どこにも居なかったではないか...もう撃たれたと思うのが当然だろ...」


やれやれ、と俺は肩をすくめる。


「最初の奇襲が失敗して、乱戦になった時に、こいつは木の上に隠れた。そして機を見計らって、今の今まで身を隠していた。それだけだ。何も難しいことはしていない」


最初に俺が木の上で鳴りを潜めていた時、背後で鳴った葉の擦れ合う音の主は、風でもなければ敵でも、まして動物でもなく、味方のこの男だったのだ。だから、俺はあえて呟いたんだよ。


主役ってのは、最後に颯爽と現れるものなんだ、って。いつだって主役が俺だとは限らないんだよ。


「森林側、六十六組と百五組の模擬戦闘が終了した」


アナウンスが入る。それと同時に、鳴っていた全ての“テルミドール”の音がやんだ。何?まだ他の機能もあったの?


「六十六組、百五組の大将撃破により勝利」


俺は、今日の主役とハイタッチを交わした。

次回更新は土曜日です。

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