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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
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14th story 模擬戦闘開始

その後、細々とした作戦の段取りをして模擬戦闘の開始に備えた。


上空から樹上に潜む敵を撃退する、いわば空爆チームの四十人は、空を飛ぶ訓練をしている。風を操って彼等を飛ばしているのは、風の魔法が得意な魔法使い三人。四十人、一人ひとりが自在に飛行できるわけではないので機動性には欠けるが、“空を飛んでいる”というアドバンテージがこの場合は重要なので、そこまで気にはしていられない。


『三十分が経過した。これより、本日一回目の模擬戦闘を開始する。各組、配置について開始の合図を待て』


区内にアナウンスが響く。空爆隊は地上で四十人に固まり、俺達はその後方で、大将のフリーメル先輩を囲んだ。ちなみに、規則として大将は、タスキを肩からかけている。


『それでは模擬戦闘を始める。制限時間は四十分。各組、検討を祈る』


二分後、再びアナウンスが入る。俺は銃を握る手に力を込めて、戦闘開始を待った。


『始め』


四十人の空爆隊が、開始の合図と共に上空へと飛び上がる。一番最初に上空へたどり着いた一人が、地上に残る俺達にサムズアップを送った。それを確認した、自陣に残る十五人のうち、俺を始めとした五人は、敵陣に向かってでなく、森林の外めがけて走った。


敵陣側がどよめく。空爆隊に気付いたのだろう。いいぞ。その調子でもっと目立ってくれ。


森林の端まで辿り着いた俺達五人は方向を転換し、そのまま端に沿って敵陣まで向かう。


死角からの速攻。それが今回の、俺達六十六組の作戦だ。


人数の大多数、およそ八割を上空の空爆隊に割き、いかにもそちらが俺達の攻撃の要だと相手に思い込ませる。そして上空に注意が向いた敵の隙を、俺達五人が少数戦力で突破、一気に敵大将を撃破する。集められた五人は、六十六組の中で最も戦闘力の高い五人だ。


ただ、この作戦には幾つか穴があった。


先ず、最大の欠点としては、自陣大将の守護が少ないこと。今自陣に残っている戦力は、大将のフリーメル先輩含め十人だけだ。もし、向こうが上空の空爆隊に気を取られず、冷静に大将まで突っ込んできたら、俺達の勝てる見込みは、ほぼ消えるだろう。


更に、相手も自分達も同じ発想に辿り着いていたとしたら。相手も空を飛んできたら。


悩み所は尽きない。


しかし、それらの懸念の殆どは、戦闘開始後十秒で払拭された。先のサムズアップの意図がここにある。


空爆隊の一人に、開始直後の敵陣の様子を俺達に伝えてくれるように頼んだ。速攻で大将のフリーメル先輩に突っ込んできている敵の影はないか。相手も空を飛んでいないか。


最低限、この二つさえ抑えることができれば、後は何とかなる。


今回は運良く、相手が俺達にとっての好条件をすべてクリアーしてくれていた。


制限時間四十分と聞くと、短くても二十分か三十分くらいは戦闘を続けてないといけないような気がしてくるが、そんなことはないのだ。


五分も時間を掛けるつもりはねぇ。


敵陣の最深部に到達する。後は大将目指して、中央に進むだけだ。俺は背後の四人に目配せした。四人が頷く。


上空では未だに、空爆隊の四十人が戦闘を続けている。やるなら今のうちだ。


俺達は、足音をたてないよう細心の注意を払いながら、敵陣中央まで移動した。


遠目に敵大将の見える位置で、相手の様子を伺う。


人数は二十八人。攻守で大体半分ずつに分けたってことか。なかなか厄介な数ではあるが、幸いなことに、ほとんどが上空の空爆隊に気を取られている。大将に向かって最短最速で突っ込めば討ち取れるだろうか。余り危険は冒したくない。こっちの攻撃戦力の核は、俺達五人に集中しているのだ。いわば、一回きりの奇襲。俺達五人の全滅は、六十六組を一気に窮地へと追いやる。


考えすぎても仕方ない。決定的なチャンスを掴むため、俺達は接近できるギリギリまで移動を開始した。現在大将までの距離はおよそ百メートル。その半分、五十メートルまで、何とかして近付けないだろうか。


俺達は再び移動を開始した。これまで以上に五感を活用し、一切の気配を消すように行動する。


残り七十メートル程まで近付いた。付近を敵の一人が通りすぎようとしているので、茂みに身を隠して待つ。


その時


「後方六十八メートルに不審な反応!侵入者五名です!」


女性の声が響く。ばれている!?


「あそこの茂みの裏です!」


同じ女性の声。同時に、茂み脇から銃を構えた男が飛び出してきた。味方の一人が驚異的な反応で男を射つ。射たれた男の服の内部から、けたたましい電子音がした。これが“テルミドール”の性能か。なるほど、分かりやすい。


いや、感心している場合ではないぞ。


「散開!」


俺は四人にそう指示した。このまま全員囲まれるのは最悪だ。俺達はそれぞれ五方向へと散る。一秒もしないうちに“テルミドール”の電子音が鳴り響く。味方が一人射たれたようだ。だが、それに構っている暇はない。


俺は茂みから飛び出すと、正面を切って、敵大将に向かった。と同時に、視界に入った何人かの敵を射つ。


あちこちで電子音が鳴る。まるで共鳴だ。


俺は走りながら、茂みに隠れていた俺達を真っ先に発見した女性を探す。どうやって俺達を見付け出したのかは分からないが、おそらく散策特化であろう彼女は厄介だ。


しかし、視界に見えている女性は全部で六名。誰だ?誰があの女性なんだ?


もたついているうちに、周囲を五人に包囲される。


しまった!


俺は咄嗟に真上に跳んだ。足下を銃弾が通り抜けていく。一番低い位置にある木の枝を掴み、さらに上に飛び上がった俺は、ホッと一息吐いた。


葉の影に隠れて敵弾をやり過ごしながら、上から一人ずつ狙撃していく。


「そっちばかりに気をとられないで!反対からも来る!」


敵大将の横に立つ女性が叫んだ。次の瞬間、対面から俺の仲間が躍り出てくる。成る程、あの人か。


味方が射たれ、“テルミドール”が鳴る。お前の頑張りは無駄にしない。


カサ、と背後で葉が擦れ合う音がした。風か?敵か?.....いや。


俺は地上の様子を確認した。あの女性と大将を含め、敵は十人ほど。あいつらが大奮闘してくれたのだろう。


さてそれじゃあ、決着をつけに行くか。


「主役ってのは、最後に颯爽と現れるもんだものな」


俺は誰ともなく呟くと、留まっていた木の上から飛び降りた。


「上!来ます!」


大将の横で女性が声を挙げる。さて、可哀想ではあるが、先ずは彼女に退場願おう。


俺は周囲を見渡した。六人の男が俺を囲み、大将の前にも五人ほどが並んでいる。


気付けば、もう五分経っちまってるじゃないか。十分以内には終わらせられるかな。

次回更新は水曜日です。

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