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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
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12nd story 六十六組

キツかった。キツかったが、長くはなかった。


基礎的な体つくりの三ヶ月間が今日、終わりを迎えた。あれ以来、食事と休養をしっかり摂ることで、倒れるようなこともなく。何事もなく、と言うにはいささか非日常ではあったが、特に目立った事件もなしに、時だけが過ぎた。


今日からは、五十五人ごとの団体を組んでの、集団行動の演習訓練だ。


早朝、寝間着から訓練服に着替えていると、上官が部屋に入ってきた。


おはようございます、と俺達が挨拶をすると、上官も挨拶を返しながら、紙を一枚、俺たちに向かって突き出した。入り口に近い俺が、その紙を受けとる。


「本日から行われる団体訓練の組分けだ。自分の組を覚えて、九時にグランドに集合するように」


渡された紙には、俺等六人の名前と、それぞれの組分けが書かれてあった。六人が六人、全員バラバラだ。


俺は六十六組。ゾロ目なのは覚えやすくてありがたい。


もう一度、自分の組が間違いでないことを確認すると、俺は紙をナポレオンに渡した。ナポレオンも、自分の組を確認し、次に渡す。


全員に紙が渡り終えたところで、俺は時間を確認した。


七時五十八分


上官は、九時にグランド集合と言っていたから、短くてもあと三十分は時間が空く。


まあ、これから始まるのは、地獄なのかもしれないし、休める時には休んでおこう。


八時四十分。俺達は六人揃ってグランドに出た。


グランドには、もうほとんどの人が降りていた。入り口近くで、一ヶ所にまとまって整列を始めている。この辺りの行動の早さは、これまでの三ヶ月間の指導によるものであった。


俺達も、列の後続に並ぶ。並び順は特に決められていない。来た人から適当に並んでいくスタイルだ。


九時になった。上官の一人が、前方に設けられた壇の上に登り、話を始める。壇の下にはいつも、魔法使いが一人居る。この魔法使いが風を操って、上官の言葉を列の後方まで届けているのだ。本当に便利だよな、魔法。


「本日より、五十五名ごとの組に分かれた団体での演習訓練に移行する。細かい説明は、組分けの終わった後となるが、これからの四ヶ月間の訓練は主に、実戦的なものが多くなる。それに伴い、この“ペルセポリス”から西に三十キロ程進んだ先にある“ゼルベ実戦区”を開放する。組にもよるが、およそ二日から三日に一度、この実戦区で、より戦場に近い臨場感を体感しながら訓練してもらう」


それでは、と長官は続ける。


「早速ではあるが、五十五名づつ、二百の組に分かれてもらう。後ろを見れば分かると思うが、グランドに数字の書かれたプラカードが置いてある。それぞれの組の番号だ。自分の分担された組と同じ番号のプラカードの周りに集まるよう。以上、解散」


上官が降壇し、他の上官達の並ぶ位置まで戻ると、俺達もゾロゾロと動き出した。俺は部屋の五人と別れると、六十六番のプラカードを探した。どうやら、グランドの奥に進むにつれて数字が大きくなっているようだ。となると、半分も行かないうち、四分の一程進んだ所に、六十六番のプラカードはあるのかな?


果たして、二百メートルほど進んだ先に、目当ての“66”と書かれたプラカードを見付けた。


六十六番。間違いない。


既に数人、人が集まっていた。知り合いは、今のところ居ない。


俺はひたすら、五十五人が集まるのを待った。


「よおっ、シェル!」


ポケーと突っ立っていると、いきなり背後から肩に手を回された。俺は振り返る。立っていたのは、小柄先輩だった。


「あ、どうもっす」


「お前も六十六番か?」


俺は首肯いた。お前も、ということは、小柄先輩も六十六番なのだろう。よかった。これで初っ端の孤立を免れた。


やがて、六十六組の五十五人全員が揃った。揃ったところで、全員が顔を合わせられるよう、一つの円になる。


「.........」


無言のまま、ただ顔を突き合わせる。誰か率先してくれないのか?だが、誰かがそんなことをする兆しも見られない。


仕方ない。もし、このチームで四ヶ月後に始まる団体戦に優勝すれば、俺は“少佐”になれるわけだ。人の上に立つことになるわけだ。その予行演習だと思うことにしよう。


「―――――えっと.......とりあえず自己紹介からするか。俺の名前は―――――」


と、俺が一番に自己紹介をしようとした時、


「おい、何言ってんのか聞こえねーよ。しゃしゃり出てくるくらいならよぉ。もっとハッキリ喋れや」


俺の対角に立つ一人の男が、腕を組ながら俺を睨んできた。


そんな威勢があるんなら、最初から自分で進行すりゃいいのに。周りを貶めることしかできない馬鹿の典型か?


突っ掛かっても面倒事になるだけなので、俺は素直に男の言うことを聞き入れるようにした。


「それはすまなかった。じゃあ、もう一度最初から言うよ。とりあえず、自己紹介からしよう」


声のボリュームを上げて、暗に煽ってみる。


「はあ?お前、何いきなりタメ口ついてるんだよ。初対面相手なんだから敬語使えよ」


男がイチャモンをつけてくる。なんという理不尽。今の言葉、録音してそのままこの男に聞かせてやりたいくらいだ。初対面相手に、何だって?


「......あと四ヶ月。あと四ヶ月で、とりあえずのところ一通りの連携を、このグループで出来るようにならなきゃいけないんだ。初対面だからって、互いに変な距離を取っていたら、時間が足りない。俺はなるべく早く、みんなと打ち解け合いたいんだ」


勿論、親しく言葉を交わすことと、馴れ馴れしく接することとは違う。それは弁えている。だからこそ、打ち解けるまでは、言葉の選別には必要以上に意識するし、一定以上の敬意を相手に持たなければならない。逆に、それができるのなら、敬語で話す必要はないように俺は思う。初対面ではあるかもしれないが、俺達は仲間なのだ。同じ目的の下に集められた、“魔族討伐隊”の“選抜者”。今はそれ以上の関係ではないが、それ以下でもない。


「俺は良いことだと思うよ、うん。そもそも俺等は、軍の中では同じ立場にあるわけなんだから。クラスメイトと敬語で会話することなんて、そうそう無いんじゃないのか?それと同じ感覚だよ」


小柄先輩がそう、周囲に言い聞かせてくれる。結果、それもそうだな、と周囲のほとんどの賛同を獲得した。


俺に言いがかりをつけてきた男は、舌打ちをして俺から目を逸らす。勝手な行動をとれば上官から懲罰を食らうため、周囲に協調するしかない事も相まってか、見るからに、男の不満は相当なものだった。


初っ端から、なんか嫌な雰囲気になっちまったなあ。


また、どこで間違えたんだろうか。人生ってのは、対人関係ってのは、とことん難しいものだ。


それでも何とか、自己紹介を一通り終えたところで、上官が一人やって来た。


「六十六組、いいか。お前達の今後のスケジュールについて説明する。のちに食堂前にも同じものが貼り出されるが、最低限は、これからの説明で覚えておくように」


上官は、俺達の輪の中央に入り込んで説明を始めた。


「お前達六十六組は、月曜日の午前、木曜日一日、土曜日の午後に“ゼルベ実戦区”での訓練がある。実戦区での訓練内容は、その場で説明した方が分かりやすいので今は省く。実戦区での訓練時以外は、主にここ、“ペルセポリス”に残って、少数の集団による行動の基本訓練や、これまで通りの訓練をこなしたりする。その日の訓練の内容が、当日に決定したり、変更になったりすることも多くはなるが、その都度、柔軟な対応が出来るように心掛けておくよう」


以上、と上官が顔を上げる。


「何か質問はあるか」


目立った反応はない。そうか、と

上官は一人頷き、輪の外へ出た。しかし、直ぐにその足を輪へと戻す。


「おっと、そうだ。この後は、射撃場にて射撃訓練だ。十時から訓練開始となっているので、それまでに射撃場に集合しているように」


射撃場は、俺達の寝泊まりする宿舎の北側に、トレーニングルームと並んで建てられてある。


勇者選抜者は、そこで主に銃による射撃訓練を行い、魔法使いの選抜者は、そこで魔法の、主に火球をぶつけるといったような、遠距離魔法の精度上昇を狙う。


建物は、グランドの八分の一程度の広さ。普通に広いです。


上官が立ち去り、六十六組の輪に静寂が流れる。


十時まであと二十分。移動するか。

※小柄先輩の“小柄”は、名前ではありません。あだ名です。



次回更新は水曜日です。

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