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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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3rd story 勇者適性診断

「朝から変な奴にからまれたよ」


教室に入るなり、ボケーッとして自分の席に座っているユグに、俺は声をかけた。


「変な奴?」


「ムガル財閥って知ってるか?」


荷物を机に置きながら、ユグに尋ねる?そんなの当然だ、と言わんばかりの顔で、ユグは頷いた。


「そこのお坊ち(ry シス・ムガルにからまれた」


ユグの顔色が変わる。勢いよく立ち上がり、俺に詰め寄ってきた。


「へ、変な対応してないだろうな?お前」


「変な対応?タメ口で嫌味は変な対応に入るか?」


「ば.......馬鹿野郎!!」


ユグが叫ぶ。本当にこいつ、叫ぶのが好きだな。またか、という周囲の目が痛い。おい、俺は違うだろ。


「お前、消されるぞ!シス・ムガルはな、親が大財閥の当主ってだけじゃなくてな、奴自身が“勇者”の適性を持ってるんだぞ!!」


「あー、うん。そんなこと言ってたわ、本人」


「今すぐ謝ってこい!!今ならまだ許されるかも知れねえ!」


耳元でギャンギャンと.....こいつと友達になったのは間違いだったかもしれない。半分冗談で、半分本気だ。


「えー、面倒臭えよ。第一、あいつがどこにいるかも分からんないし」


「この学校の隣に宝凰胤ほうおういん学園があるだろ?あいつはそこの生徒だ。早く行ってこい!」


宝凰胤学園。身分階級制度の撤廃に反対した元貴族階級の連中が創った、元貴族や政治家の子といった、要は親に権力のある連中のみが入れる学校だ。生徒間にも権力による支配がある、腐った学校だ。俺なら、何があっても入りたくないね。ちなみに、ここ、神陵高校から徒歩三分の距離にある。


「嫌だよ、あんなところ行くの」


「いやいやいやいやいや。絶対行った方がいい!本当にヤバイぞ!お前」


ユグが必死に俺を説こうとしてくる。そんなに言うなら、お前が行けば?と意地悪なことを思ったのは内緒だ。


「大丈夫だよ。金持ちなんて、今の社会じゃ別に驚異でも何でもないだろ?それに“勇者”の適性を持ってるにしたって、あいつが“勇者”になれるとは限らないんだから」


「でも....」


「大丈夫だって」


流石にうっとおしくなってきたので、無理矢理ユグを納得させる。取り合えず、俺に“勇者”の適性があることを願うよ。



春先だというのに三十度近い異常な気温の中、俺達は校庭にいた。

“勇者”の適性診断だ。内容は、走力、持久力、跳力、握力、瞬発力、柔軟性など様々な身体的ステータスを測定するものだ。これが二時間以内に全て詰め込まれているという超ハードスケジュール。まあ、要はこれぐらいは時間内にこなしてかつ記録を残せるような奴じゃなきゃ、まず勇者にはなれないということだろう。


クラス全体で簡単にウォームアップを終えたところで後は自由に行動。好きな競技から計測ができる。


「何から行く?」


一緒に回ろうぜーと、無理矢理同行されたユグと相談する。さて、何を先にやるのが効率的か。持久力テストのシャトルランと走力テストの五十メートル走は最初か最後かにそれぞれ持っていくのがだとうだろう。それにはユグも賛同のようだ。


「じゃあ、五十メートル走からやろう。で、その他をちゃちゃっと終らせて、最後にシャトルラン」


きっと、シャトルランが一番負荷がかかるだろうからな。


順番も決まったことで、さあ五十メートル走を測りに行こう、というところで、校庭の隅で佇む数人の人を見つけた。ほとんどの人物が、こんなに暑い中だというのにダークスーツを着ている。まさか.....ね。


「おい、あれ、シス・ムガルじゃね?」


ユグが気付いて指差す。そのまさかだったよ....

向こうもこちらに気付いたようで、シス・ムガルと思わしき人物が俺たちの方へ近付いてくる。下卑た笑いを浮かべながら。


「やあ、朝方振りだね」


やはり、俺目的のようだ。シス・ムガルは悠々と俺に歩みを進めた。


「覚えてくれたのか。光栄だね。“勇者の適性者”さん」


皮肉たっぷりに言ってやったぜ。シス・ムガルの眉がピクリと動く。


「ふむ、まだ懲りていないのか。まあいい」


シス・ムガルは俺の肩をポンと叩いた。


「これから何を測定するんだい?君が馬鹿にしている“勇者の適性者”がどんなものか、見本がてら見せてあげるよ」


「いや、別にいい。あんたは“勇者の適性者”ではあるけど、“勇者”ではないだろ?そんなの見ても、参考になるかどうか」


シス・ムガルの表情が歪む。あ、怒らしちゃったかな。


「どこまでも僕を愚弄するか下民。いいだろう。この身を持って格の違いを教えてやるよ」


何かスイッチを入れちゃったらしい。困ったなあ。五十メートル走っていったら、俺のタイムは大体....


「おい、お前ら何している」


火花を散らす、といっても、一方的に因縁をつけてきているシス・ムガルと俺との間に、スサノオ先生が割り込んできた。


「その制服、宝凰胤学園の生徒か。本校に何の用だ?」


スサノオ先生が威圧たっぷりに、シス・ムガルの前に立つ。


「大丈夫ですよ、先生。問題を起こすつもりはありませんよ」


ふーん。先生に対しては敬語使えるんだ。感心感心。


「なら、本校に何をしに来たんだ?」


先生が尋ねる。もっともだ。何しに来たんだよ、お前。なに、とシス・ムガルが笑みを浮かべる。


「彼が無謀にも“勇者”の適性を持つ僕と勝負がしたいと言ってきましてね。それを相手してあげるついでに、貴校のみなさんに本当の“勇者の適性者”の実力を見せてあげたいと思うんですよ。勿論、参考程度にね」


「成る程。勝負の話は兎も角、“勇者”の適性を持つ者はどんなものかを見せるのは良いかもしれない」


ええー!?何即答しちゃってるんですか?先生!他校の生徒でしょ、そいつ。やらせちゃ駄目でしょ!


「クライマン、本当に勝負する気かい?」


先生が俺の方を向く。断りてー。断りてーけど、断ったら断ったで面倒臭そうだしな、シス・ムガル。まあ、五十メートル走ぐらいならいいかな。結果によっては、全競技で相手してやるよ。


「ええ、お願いします」


意を決して俺は答えた。先生の背後で、シス・ムガルが笑い声をあげるのをこらえていた。


ぶっつぶしてやる。

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