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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
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9th story 訓練開始 2

結論から言おう。俺の持つこの“力”は、やっぱりチートだったらしい。


チートというか、バグというか、裏技というか。まあ、そこらの概念は置いておこう。兎に角、下手をすれば世界の均衡を崩しかねないようなパワー。


仕方ないじゃん。俺だって、今現在の自分の実力がどの程度のものなのか、知らなかったんだから。知りようがなかったんだから。


先に知っていたら、いくら大事な体力測定とはいえ、流石に力をセーブして挑んでたよ。こんな結果じゃ、上層部に取り入ろうとした当初の目論見とは逆効果だ。イカサマを疑われちまったじゃねえか。いや、疑われてるだけならまだいいよ。半分ぐらいの奴は、俺がイカサマをしたってはっきり信じ込んでいるだろうな。


それだけの記録が出ちゃったんだよ。


二百メートル走 7秒24 (平均:10秒58) (歴代最高:7秒01)


五十メートルシャトルラン 857回 (平均:594回) (歴代最高:859回)


立ち幅跳び 27m06㎝ (平均:16m91㎝) (歴代最高:29m41㎝)


握力 594㎏ (平均:397、46㎏) (歴代最高:614㎏)


反復横跳び 1314回 (平均:976、2回) (歴代最高:1351回)


長座体前屈 64㎝ (平均:57、43㎝) (歴代最高:82㎝)


―――――いや、頼むから君達までそんな目で俺を見ないでくれ。ほら!俺よりも記録のエグい奴は、歴代にはまだ居るんだから!いや、それが大体、あのヒデ・ヤマトの記録とか、そういうこと言わなくていいから!だからマジで、その化け物を見るような、気味悪がるような目付きとかは止めてくれって!


「まあ、何だ、シェル―――」


メルシスが、俺の肩に手を置いた。


「やっぱりお前はスゲェ。サルゴンから聞いてた通りだ。でもな、流石にこれはアレだ.....気持ち悪いで.....」


.......なぁ、メルシス。そこは俺をフォローしてくれてもいいんじゃない?むしろ、フォローしてくれよ。フォローしてくださいお願いします。


いや、待てよ.....部長なら....部長ならこの状況、何とかしてくれるんじゃないのか?俺は部長に救いと期待を望んだ眼差しを向けた。


「......」


「......」


何とか目線だけで部長に訴えようとしてみたところ......



あっ!まって!目を逸らさないで!俺知らねって顔しないで!おい!笑いやがったよ!この状況を楽しむな!


いや、この際部長じゃなくてもいい。誰か、誰か俺を助けてはくれまいか!?


俺は周囲に点在する武術部の先輩達に、片っ端からお助けサインを送った。しかし、俺と視線のぶつかった先輩達は、笑いをこらえながら、時に盛大に吹き出しながら、無慈悲にも俺から目を逸らしていく。


何て非情な現実なのだ.....


クソ。自力でこの場を切り抜けろって事かよ。


こんなの予定にねえよ。あるわけねえだろ。何も打開策が思い浮かばねえ。畜生。


――――――――駄目だ。思い浮かばない。ここは、強引にでも部長を引っ張ってきて、俺の正当性を証明してもらう他ない。俺は部長を呼ぼうとした。


「部長ぉ『シェル・クライマン。こっちへ来い。』


が、しかし、上官からまさかのお呼び出し。俺は戦々恐々と上官の居る背後を振り向いた。


ああ、終わった。


そこに並んでいたのは、筋骨隆々、威風堂々といった、まさに“漢”達。某秘孔を突く格闘マンガの登場人物のような肉体の集合。しかも、ヒデ・ヤマトさんまで居るじゃないですか。


「何をしている、シェル・クライマン。早く来い」


俺は生唾を飲み込んで一歩を踏み出した。嫌な冷や汗が首筋を伝わる。大袈裟な、と言われるかもしれないから言っておくが、尋常じゃないプレッシャーだからな?もし雰囲気を人形に具現化したとしたら、あの人達余裕で三メートルの人形オーラ放ってるよ。


「シェル・クライマン。この記録だが.....」


複数名居る上官のうちの一人、おそらくこの場では一番階級の高いであろう人が、俺の記録の書かれた紙を手にする。


「これは......この結果は.....貴様まさか...“イカサマ”してないだろうな」


高圧的に質問を浴びせてくる。あ...ヤバイ...足が震えてきた。


「いえ。“イカサマ”なんてとんでもない....実力...といいますか」


なるべく声の震えを隠しながら答える。上官は少し前傾になるように膝を屈めて、俺の表情を覗いた。


俺は、上官と目を会わせないようにする。視線の先に、心配そうにこっちを眺める武術部先輩達を見付ける。そんな目をするんだったら助けてくださいよーーー!!


「ふむ.....」


ふと、上官が顔を上げる。俺は詰まっていた息をほっと吐き出した。


「こいつを長官の所へ連れていく。こっちのことは任せた」


ああ、最悪のパターンじゃねえか、これ。追放されるかも....な.......


「シェル・クライマン。付いてこい」


グランドの外へ足を向ける上官。俺は地面に視線を落とし、トボトボとその後を付いていった。



「失礼します」


グランドを出てから、俺達の泊まる宿舎三棟を抜けた先にある教団関係者専用宿舎へと辿り着く。


宿舎一階の一番奥にある“軍事長官”室に、俺と上官の二人入室した。


一歩室内に入り、その内装を見た俺は、思わず部屋の外まで後退った。


入り口左手には、壁一面に額縁が飾られている。その内容は、人体破壊の限りを尽くしたようなスプラッターな写真や、人間の全身の生皮を剥ぎ取った物だったりである。


それだけでも十分過ぎるほどおぞましいというのに、反対の室内右側には、棚が並んでいて、そこには何らかの臓器のホルマリン漬けやら、血液の溜め込まれたビンやらが陳列されていた。




.........これから俺は、始末されるんでしょうか。


冗談にしたって、悪趣味が過ぎるぜ。


俺は、腹の底から込み上げてくる胃液を、グッと堪えた。

次回更新は土曜日です。

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