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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
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4th story メルシスって呼んでくれ!

「お兄さん、どうもはじめまして。ワイ、アテラ・メルシスいいます。“オリエンティア高校”の覚醒勇者です。よろしく」


腹も一杯になったところで、ホール内をブラブラしていると、一人の男が、めちゃくちゃニコニコしながら俺に握手を求めてきた。身長は百七十センチ程で、決して小さくはない。ほつそりとして、締まった肉体をしている。


“オリエンティア高校”


聞いたことのない高校だ。


「ああ、どうも。シェル・クライマン。神陵高校の一年です」


俺も名前と高校を教えて、握手を返す。メルシスさんの眉がピクリと動いた。


「シェル・クライマン?なあ君、サルゴンって知ってるか?サルゴニア・コシチューシコ」


俺は頷いた。


「おおー!ってことは君、まだ未覚醒やろ?ワイ、サルゴンと昔馴染みの友達でなぁ。君の話をよく聞くんねん」


どうやらメルシスさんは、サルゴンの友人だったようだ。世間は狭い、とはよく言ったものだ。


「まだ一年で、しかも未覚醒なのに、四月の適性診断ではあり得ない結果を叩き出したり、あのムガル財閥の御曹司様(笑)を撃退したり、“はじまりのやま”での、あの悲壮な事故から無事生還した数少ないうちの一人だったり....他にもいろいろ聞いてるぜ、サルゴンから」


何故か、ベラベラと大声で喋るメルシスさん。やめてくれ.......恥ずかしい。


案の定、メルシスさんの声に何人かが反応して、俺達の会話に耳をそばだてた。


「あいつが、あのキャンプのか........よく帰ってきたな、本当」


俺達の周囲に人だかりができ始めた。ちょ、マジで注目されるのは御免だって。


「聞いた話、未覚醒なのにステータスが二万超えらしいな」


「んなわけねぇだろ。覚醒勇者だって、ザラには二万にも届かないんだ。ましてや未覚醒勇者が。一万も超えられりゃ大したもんなのに」


「でも、じゃなきゃ選抜されないだろ?覚醒勇者は俺等以外にも沢山いるのに、それらを差し置いて選ばれてるんだ」


「なら、未覚醒ってのが嘘なんだろ。きっと、もう覚醒してんだよ」


「どのみち、“はじまりのやま”の件もあるからな。きっと俺等よりも強いぜ?」


周囲から、そんな感じの会話が聞いてとれる。どこへ行っても、俺の実力ってのは信用されないらしい。


「そういえばクライマン君。さっき、ヒデ・ヤマトさんと会話してたよね?あれ、どんなこと話してたの?」


なにそれ。どんな公開処刑ですか。本当に、注目されるのは嫌なんだってー。


「いや......世間話...」


嘘をついた。まあ、ばれることはないだろうし、悪い嘘でもないからいいのだ。プライバシー保護なのだ。


「ほー?ヒデ・ヤマトと会話したり、色んな奴に注目されたり.....さぞ、いい気分だろうなぁ」


誰かが人混みの中からそう言った。おい、どけ、と周囲の人を押し退けながら、声の主が俺の視界まで出てくる。また厄介なのに絡まれた。


「なんだ、コイツ。もっとゴツい奴を想像してたんだがよー.....全然強そーに見えねーな」


出てきたのは、チャラチャラした男だった。髪は金髪に染め上げられ、趣味の悪そうなアクセサリーばかり身に付けている。服装は乱れ、行儀悪くクチャクチャと音をたてながらガムを噛んでいる。


こいつに会った人は、みんなこう思うだろう。


DQNやん。ヤンキーやん。



男は俺の眼前に立つと、俺を睨み付けた。


「は、まだガキじゃねーか」


男が鼻を鳴らす。精神的にガキなのは貴方の方です。


「あの.....俺は今、メルシスさんと話してるんで.....どいてもらっていいですか?」


俺とメルシスさんの間に立たないでくれるかな。邪魔でしかねーよ。


「あ?メルシス? 誰だそれ。ああ、こいつか」


男が背後を振り向き、メルシスさんを見付ける。


「ふーん。お前ら話してたんだ。それで?俺には関係ねえよ、そんなの。それで、クライマンとか言ったな、お前」


男が急に爆笑し出す。駄目だこいつ。頭のネジが何本か外れてやがる。


「クライマンだってさ。はははははははは。泣き虫だとさ。きっと、家族はみんな弱っちいんだろうな」


何が面白いんだか。めんどくせえ。俺は腹を抱えて笑い転げる男を無視して、メルシスさんの下へ近寄った。


「メルシスさん、もっと静かなところへ行きません?」


「奇遇だな。ワイもそう感じていた所や。でな、クライマン君。ワイに敬称は付けなくていいで。メルシスか、アテラって呼んでくれ。同い年なんやし」


「わかった、メルシス。じゃあ、俺のことも呼び捨てにしてくれ。これで対等だ」


「オーケィ」


俺達が、友情に厚い握手を交わしたところで、さっきのチャラ男が水を指してきた。


「おい、クソ野郎。何、人のことガン無視してんだよ。死にてえのか?あ?死にてえのか?」


「俺達が喋ってたっていう事実は無視してたくせに、よく言うよな」


俺は、わざと男に聞こえるようにそう呟いた。


「あ?」


男が俺の襟首を掴んだ。もうちょいだ。こいつに先に手を出させさえすれば、かねて“あれ”が発動できる。


「おい、クソ野郎。もっかい同じこと言ってみろや」


「断る。俺になんのメリットもない」


俺は即答した。男のイライラ度が更に増す。


「んなこたぁどうでもいいだろ!俺がもう一度言えって言ったんだ!従えよ!」


「なんで?貴方にそんな権限はないでしょ?」


「ゴチャゴチャ言ってねえで............従え...」


噛みつくような目付きで男が睨んでくる。もう一押しだ。


「じゃあ、これならもう一回言ってやるよ」


俺の襟を握る男の腕に力が入る。こいつ、俺が何言っても殴る気だろ。


俺は最後のダメ押しをした。


「断る」


男が俺に向かって拳を振った。よし、これで“あれ”が発動可能だ。


秘技




“正当防衛”




俺は男の拳を避けると、その腕を掴んで男を組み伏せようとした。みが、俺が男の腕を掴む前に、男の上体が沈む。


反撃か?俺は即座にバックステップで男から距離をとった。


反撃に構えていた俺だったが、それが来ることはなかった。


男はいつのまにか、メルシスによって地面に組み伏せられていた。どうやら、先程男の上体が沈んだのは、メルシスの仕業らしい。


「シェル、こいつのことはワイに任せてくれ」


男をうつ伏せにさせ、その上に乗るメルシスが俺に向かって言う。


「こういう輩を見ると、無償に腹が立って仕方がないんや、ワイ。テメェの都合だけで物事を推し進めようとするクズとかよ」


メルシスは、捻っていた男の腕を、更にきつく締め上げた。


「イデデデデデッ!てめぇ!何しやがる!ぶっ殺すぞッ!」


男が叫ぶ。メルシスは覚めた目でそれを眺めた。


「ぶっ殺す?この状況下で、どうやって?出来もしないことを吠えるなよ」


「うるせえっ!黙れや!!このクソガキ!」


「まずお前が黙れよ。どう考えても、お前の方が五月蠅えだろ。周りの人に迷惑してンじゃねえよ」


怖い。怖いよ、メルシス君。キャラが変わってるよ。


「おい!何をやっている!」


警備員が、騒ぎを聞き付けてやって来た。


「いえ、こいつが暴れたもんですから」


メルシスがチャラ男に馬乗りのまま弁明する。本当か?と警備員は周囲の人だかりに確認を取った。周囲は皆、首を縦に振る。


「わかった。この男には、しかるべき処置をこちら側で取らせてもらう」


警備員は応援に駆けつけた数人で暴れる男を引き摺っていった。


「みなさん、スンマセン。お騒がせしました。さ、会食続けましょ」


メルシスは周囲に頭を下げると、満面の笑みで俺にサムズアップを決めた。

次回更新は水曜日です。

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