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Near Real  作者: 東田 悼侃
第二章 遠征編
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3rd story 人類最強

夏休み最終日の日曜日。俺や部長達“魔族討伐隊”選抜者は、“アクピス教”の主催する“討伐隊結成会”に出席した。


会場は人類領域中央に位置する“” アクピス教”の総本山“ペルセポリス”の大講堂。一面だけで三万人が収容可能な、巨大な建造物だ。


ちなみに、今回の集会の参加者総数は五万四千人。二階席や三階席を使って、ギリギリ入る人数だ。とはいえ、この大講堂は六階建てだから、まだまだ余裕ではある。


俺達“討伐隊”の選抜者は、一階の中央に座っている。その前には、軍関係者を始めとした“アクピス教”教団の人間が陣取っていた。


午前十時。会が始まる。


会の最初、“初めの辞”を述べたのは、現“アクピス教”最高顧問、ミッキー・サイモンさんだった。そういう位があるらしい。“アクピス教” 教団の中で、一番偉い人だそうだ。


サイモンさんは、いかに“アクピス教”が素晴らしいか、という話を織り混ぜながら会の始めを飾った。二十分ぐらい語ってて、途中で司会の人に話を終わらされていた。ちょっとお茶目な人なのかな?


続いて、軍事部の方から今回の遠征についての大まかな説明が入る。


今回の遠征の目的は、“豊作の時代”によって誕生した覚醒勇者達を戦力に、“人類の聖戦”で受けた屈辱を魔族に倍にして返すこと。実際は、もっとオブラートに包んで話していたけど、要点だけをかいつまんでいくと、こんな感じだ。


目標は、魔族が魔境に設置している防衛線のうち、第一防衛線と第二防衛線の突破。ちなみに、人類はこれまで一度も、第二防衛線はおろか、第一防衛線も突破したことがないそうだ。


人間弱い..........いや、魔族が強いのか?


でも、今回の戦力ならそれぐらい行けるだろ!と判断したそう。まあ、確かに一理なくもないかな。


その後も、色んなお偉いさんが俺達に激励の言葉を投げ掛けていく。途中には、選抜者代表の挨拶も挟まれた。


気付けば、時刻は十二時半。


ここで、最後のゲストが登場した。司会がその人の紹介をする。


「さて、時間もそろそろとなって参りました。それでは、最後にお言葉を戴くのはこちらの方。覚醒勇者でもあり、魔法使いの適性も持つこの方は、そのどちらにおいても、他に並ぶ者の居ないほどの実力を持ちます。歴代勇者の中においても“最強”と賞される.....ヒデ・ヤマトさんです!」


俺達の前に座る教団関係者の中から、一人が立ち上がる。その人は通路へ抜けると、ステージへと向かった。遠目ではあるが、顔は識別できる。年齢はまだ二十代前半だろうか。顔立ちは若いが、いかつい表情だ。坊主頭の彼は、壇上へ上るとマイクのスイッチを入れた。


「えー、こんにちは。ご紹介に預かりました。霊長類最強のゴリラ、ヒデ・ヤマトです」


ヤマトさんの自己紹介に、教団関係者から笑いが起こる。何が面白いんだか......顔がゴリラに似てるからってことだろうか。


「好きな食べ物はバナナです。たまに、動物園で子供に泣かれます」


再び教団から笑いが起きる。身内だけがウケるようなギャグほど、周りがつまらないものはない。事情を知らない俺達の頭上には、“?”マークしか浮かんでこなかった。


「あんまりこんな下らないことやってると、後で怒られるので、これぐらいにしておきますね。えー。“魔族討伐隊“選抜者のみなさん、先ずはおめでとう。君達は有望だ。将来これから、俺を抜くようなゴリ.....失礼。勇者が現れるかもしれない。俺はそれを歓迎しよう。俺を超える勇者が現れること。それは人類にとっての救済だ。“アクピス教”の教えに乗っ取って、俺は人類の為となる存在を喜ぼう」


勝てるかな。俺、あの人に勝てるかな。


ヤマトさんのステータスはどれぐらいなのだろうか。少なくとも、全ステータス二万は超えてるよな。覚醒勇者の中で精鋭と呼ばれる人達のボーダーラインが、そこらへんらしいからな。


「ただ、ここに選ばれた一万人の中でも、その可能性が見られるのは今のところ数人かな?そういう人には俺も興味があるから、そのうち個人的に話をさせてもらうかもしれない。短くなったが、俺からは特に話すこともないので、これで祝辞とさせてもらう。選抜者のみなさん。もう一度、おめでとう。以上」


ヤマトさんが降壇する。会はここまでだった。


続いて、俺達選抜者一万人は、大ホールへと向かった。今度はここで会食である。


沢山の選抜者と顔見知りになったり、“アクピス教”の人間と接触のできる貴重な時間だ。


大ホールは、一階から三階の高さまで吹き抜けとなった豪華な建造物だ。一万人が軽く入る程度の大きさだから、まあその通りだ。


ホールには、白い布のかけられた丸テーブルが無数に並べられていた。


ホールに入ってきた者から、奥のテーブルへと詰め込まれる。武術部の先輩達とは離れ離れになりながらも、俺は一席に落ち着いた。


やがて大ホールに一万人が収容されると、先程の集会の司会者が再び司会を始めた。


現“アクピス教”最高顧問のミッキー・サイモンさんが改めて挨拶をしたあとに、乾杯。会食が始まった。


何人かの積極的な人は、既に自分の顔を売るために動き始めている。


俺は――――――――――言うだろ?“腹が減っては戦はできぬ”って。


バイキング形式のため、ホール中央の長机に置かれた食べ物を皿に盛って、自分の席に戻る。


しばらく食事を楽しんでいると、背後から誰かが俺の肩を叩いた。俺は慌てて口の中のものを水で流し込むと、後ろを振り向いた。


「食事中に失礼するね。君、シェル・クライマン君だよね?ちょっといいかな?」


後ろに立っていたのは、あのヒデ・ヤマトさんだった。俺は慌てて襟元を正した。


「は、はい。シェル・クライマンは俺ですが。如何な御用でしょうか」


「実はね、今回の“討伐隊“編成者の選抜に、俺も関わらせて頂いていてね。その時に、君のデータを見付けて以来、気になっていたんだよ。まだ未覚醒なのに、覚醒勇者の精鋭にも引けを取らない......いや、下手をすれば、それを超える程の力を持つ君がね」


ありがとうございます、と内心キョドりながらも、冷静に答え返す。


「これから上手く成長して、覚醒することができれば、君は確実に俺を超えるだろう。それも、圧倒的な差で。知ってるかな?一般に、勇者適性者は、覚醒するとステータスが二~三倍になると言われている。稀に、五倍とかに跳ね上がる者も居て、それが俺だったり、精鋭と呼ばれる人達だったりする」


五倍に上昇してステータス二万だと仮定すると、覚醒前のステータスは四千。もしそれが、覚醒時に二倍しか上昇しなかったら、覚醒後のステータスは八千。一万にも満たない。“勇者適性者”でない一般人からみれば、八千でも十分すごい数値ではあるが、勇者としては心許ない。


「なのに、君は覚醒前から二万超えのステータス。覚醒さえすれば、そのステータスは五万は下らないんじゃないか?上手くいけば、五倍になって十万以上だ。まあ、そこまできたら、もう化け物のような、神のような領域だけどね?」


なるほど。五万あればヤマトさんを超えることは出来るのか。......ヤマトさんって、どれぐらいのステータスなんだ?俺は思いきって、直接聞いてみることにした。


「あの、ヤマトさん。ぶしつけなお願いなんですが......ヤマトさんのステータスを教えていただいても宜しいでしょうか」


「何故だい?」


ヤマトさんは、楽しそうに俺に尋ね返した。


「えっと.......参考にしたいんです。将来覚醒した時に、ヤマトさんを超えられたかどうかの指標にするために」


「いいよ」


あっさりとヤマトさんが頷く。俺は心の中で軽くガッツポーズをした。


「ただし、教えるのは総合戦闘力だけ。あとは個人情報だからな」


それでもいいのだ。俺はヤマトさんの次の言葉を待った。


「四万二千だ」


えーと......俺の戦闘力は確か二万七千だよな..//............ヤバくない!?俺はてっきり、三万台なのかと思ってたんだが.......四万と......四万とな。俺より一万五千も多いのか.........覚醒前にもっと底上げしないとな。覚醒時に二倍にもならないなんてことになったら最悪だ。


「あ.......ありがとうございます」


俺は礼を言った。ヤマトさんが苦笑しながら俺の肩を叩く。


「大丈夫だ。軍で訓練を受けるだけで、数千はステータス上昇するからさ」


まあ、何だ。あれだ..............頑張ろう。

....坊主........ゴリラ........ヒデ..................




うっ!頭が痛い。







次回更新は土曜日です。

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