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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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2nd story 御曹司ってウザい

教室の壁に貼られている年間予定表を見てみると、入学式の翌日は新入生学力診断テスト。そのさらに翌日には“適性診断”とある。つまりは、今日がテストということだ。・・・・・全力でダルい。俺は青春をenjoyしたいんだよ。何でいきなりテストなんだよ。


テストは合計三つ。国語、数学、魔族語だ。国語と数学は周知の通りで、魔族語についても名前そのままだ。魔族の用いる言語を学ぶ。これに何の意味があるのかというと、そんなのは知らない。気になるなら、学校のお偉いさんに直接聞きに行ってくれ。俺は単位を取らなきゃ進級できないから仕方なくやるけどね。仕方なく。


最初の国語は順調だ。親が特殊な仕事のお陰で、子供の頃から本は沢山読んできている。字の読み書きは勿論文章読解だって難なくクリアだ。 次いで数学、魔族語と続く。魔族語に関しては、俺はある理由から得意だ。得意だと言っても、この学問自体がそんなに進んでいないから、ペラペラと喋るにはまだ至らないが。

問題なのは数学だ。これが辛い。何でったって、数学なんて勉強しなきゃならない。四則演算ができれば世の中生きてけるじゃないか。これまで何度もその疑問に直面した。答えはいまだに見えてこない。それでも、テストはちゃんと受けたからな。



それで、やっとこさテストが終わると、今度は“適性診断”。“適性診断”は午前の部と午後の部に分かれている。俺のクラスは、午前の部が両親の適性や職業、自身の将来の夢などといった質問に答える記述式診断。午後の部は技能テストになるそうだ。


ここで、俺と俺の両親について少し説明しておこう。

俺の両親は一風変わった仕事をしている。俺たち人類の生活する大陸から数百キロ離れたところにある大陸“魔境”に生息する魔族。俺の両親はその“魔族”について研究している。俺が魔族語が得意な理由もそれだ。家の本棚は、魔族に関連した本がところせましと並べられている。そういう本ばかり読んで育ってきた俺だから、魔族に関しては、先生も含めこの学校で一番の自信がある。

ちなみに、両親の適性だが、父親は政治家、母親は農民の適性だったそうだ。そんな二人が何処でどんな出逢いをし、何故研究者になったのか。ここでは、それは割愛しておこう。


それで、俺のことについてなのだが、一般的に考えると、俺の適性は両親の適性のどちらか、政治家か農民かになるはずだ。だが、母親曰く、俺の身体能力は異常らしい。というか、異常なのだ。

子供でも垂直跳びで建物の二階に地面から跳び移るなんて普通の事だと思っていた時期が俺にはあった。

だから、俺の適性は“勇者”何じゃないかと密かに期待していたりもする。


そんなわけで、俺は期待にまみれた軽い足取りで学校に向かっていた。その俺の脇をゆっくりと、黒塗りの、見るからに高級な車が走っていく。どこぞの金持ちだろうと俺がその車を眺めていると、その車は少し走り過ぎたところで停車した。助手席からダークスーツの男が降りてきて、後部座席のドアを開ける。ご苦労、と俺と同い年ぐらいの男が後部座席から降りてきた。身なりからするに、坊っちゃんだな、こりゃ。


「おはよう。神陵高校の生徒君」


坊っちゃんが、爽やかに挨拶をしてくる。戸惑いながらも、俺は挨拶を返した。坊っちゃんがゆっくりと俺に歩み寄ってくる。身長は、俺よりも十センチ近く小さい。


「朝からスキップで登校とは、なかなか楽しそうだね」


皮肉めいた口調で坊っちゃんが言う。どうやら俺は、足取りが軽すぎて、スキップになっていたようだ。全く自覚なかった。


「ふむ」


坊っちゃんは、俺の目の前までくると、値踏みするような目付きで俺を眺めた。実際、値踏みしてるんだろう。


「うん。無理だな。諦めろ」


坊っちゃんがポンと俺の肩に手を置く。身長差のせいで、えらくやりずらそうだ。


「諦めろ?何を?」


「聞くところによると、神陵高校は今日“適性診断”があるらしいじゃないか」


何処で聞くんだよ、と聞いてみたかったが、坊っちゃんはそれを許さないかのように矢継ぎ早に喋る。


「さしずめ、もしかしたら自分に“勇者”や“魔法使い”の適性があると期待しているんじゃないのか?」


図星だ。内心俺はギクッとした。


「ふむ、その反応からするに、図星かな?はっきり言わせてもらうとね、君に“勇者”や“魔法使い”の適性はないね?君ぐらいなら見てわかる。君の適性は農民だ。大体、どういう頭を持っていたら自分に“勇者”や“魔法使い”の適性があるかもしれないって思えるのかね?大した裏打ちがあるはずもないのに、無駄に自信ばかり持ちたがるよね、君達庶民は」


朝から変な奴にからまれたな。俺は閉口して坊っちゃんを見詰めた。


「おや、何か言いたそうな目付きをしているね。何だね?言ってごらん?もっとも、君にその勇気があるのならね」


一々、ムカつくものの言い方する奴だ。なら、と俺は躊躇わず口を開いた。


「あんた誰?」


その問いに、間髪入れずして坊っちゃんが笑い声をあげた。


「ははははは。僕のことを知らない輩が、まだこの世にいたのか。信じられないな」


わざとらしく驚いて見せる坊っちゃん野郎。テメェみたいなの知らねえっつうの。どんだけ自分に自信持ってんだよ。


「フン、まあいい。名前ぐらいは知ってるだろう。聞いて驚くがいい。僕は、かのムガル財閥の御曹司。シス・ムガルだ」


坊っちゃん、シス・ムガルが胸を張る。ムガル財閥。そういえば、人類一のお金持ちかなんかにいたな、そういうの。


「ふ~ん。それで?親の威厳を借りて威張ってるだけのお坊ちゃまが、俺になんか用?」


シス・ムガルの目付きが厳しくなる。


「今、何と言った?」


「聞こえなかったのか?自分は何もできないくせに、親が偉いからってえばる輩が、俺に何の用ですか?って聞いたんだよ」


シス・ムガルの頬がひきつる。


「おい、下民。口の聞き方に気を付けろよ。本来なら、君は僕と同じ立場に立つことすら許されないんだぞ」


その威勢を、親の威厳を借りてるって言うんだよ。


「おいおい、身分差別は犯罪だぜ?そう法律にあるじゃないか。みんな平等さ。同じ立場の奴に威張られたって、何も恐くないぞ」


「金も力もない下民が何をほざく!僕はムガル財閥の御曹司だぞ!そして・・・・」


シス・ムガルがニヤリとする。まるで、悪巧みを思い付いたときのガキのような顔だ。


「僕は“勇者”の適性を持つ」


「ふ~ん」


そう、そんなの興味ないね。俺はシス・ムガルを押し退けると歩き出した。


「逃げるのか!そうか!そうだよな!相手はこのシス・ムガル様だもんな!ムガル財閥の御曹司で“勇者”の適性を持つ僕に、下民何かが歯が立つわけないもんな!」


自分に酔って高笑いするシス・ムガル。はいはい。自己満足で終わらせてくれ。


シス・ムガルを他所に、俺は足を速めた。逃げる?そんなわけあるか。もうすぐチャイムが鳴っちまうんだよ。遅刻だけはしたくねぇんだ。スサノオ先生怒ったら恐そうだろ?

ご意見・ご感想よろしくお願いします。


次回更新は土曜日の午後四時予定

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