1st story 新暦初の.....
学校が夏季休業に入った。夏休みだ。
高校生の夏休みといえば何だろうか。プール?海?お祭り?
いえいえ、部活です。
夏休みに入って一週間。その日、俺達武術部部員は校内の会議室に集められた。先生や部長からも何の説明もなく、椅子に座らされる。全員が椅子に座ると、顧問のスサノオ先生が教壇に立った。
「おはよう。今日は“アクピス教”から職員が一人いらっしゃっている。その方からみんなに、一つ報告があるそうだ」
どうぞ、と先生が廊下に声をかける。入ってきたのは、五十代くらいの男性だった。大きな紙袋を右手に提げている。
「初めまして。“アクピス教”軍事部広報委員会のロマネスク・ロカルノだ。今日は“アクピス教”から君達“勇者適性者”に報告があってやって来た。静かに聞くように」
ロカルノさんが簡単に自己紹介をする。あ、駄目だ。俺、この人苦手なタイプだ。
「本日早朝、“アクピス教”指針本会議において、新暦初の“魔族討伐隊”の結成が、正式に決定した」
「討伐隊!?」
俺達は驚きを次々に口にした。あの“人類の聖戦”以来も、人類と魔族があいまみえるのは初である。そして、“討伐隊”が結成されると言うことは.....
「静かに。まだ話は終わっていない。当然、君達も知っているとは思うが、我々人類は旧暦597年から648年まで続いた“人類の聖戦”で、魔族によって多大な被害を与えられた。そして、この戦いにおいて、魔族の戦闘能力が我々の予想していたもの以上だということが判明した。奴等は、これまでの我々の魔境遠征を、片手間に食い止めていたということだ。これは、我々にとって屈辱だった。我々の二千年近くに及ぶ努力が、丸々否定されたような気分だった」
ロカルノさんは遠くを見詰めた。うん。だから何なんだろう。
俺達には関係のない話にしか聞こえないんだが。
「結局、“人類の聖戦”は9%の領土と数多の死者を犠牲に、魔族を何とか撃退した。そして、終戦が近くになるにつれ、ポツリポツリと“勇者適性者”か現れていた。それ以来、君達を含め爆発的に“勇者適性者”の増加する“豊作の時代”がやってきた」
ここまでは、中学でも習うような、ごく一般的な内容だ。
「終戦からおよそ三十年。覚醒勇者の人口も今や数多に上り、我々は“人類”が“魔族”と同等以上の力を得たと見解を示した。よって、新暦初の“討伐隊”を、構成のほとんどを覚醒勇者で固めて結成することを取り決めた」
ロカルノさんは一端言葉を止めて溜めを作った。
「よって、全“勇者適性者”、主に“覚醒勇者”の中から、一万人をこの“討伐隊”に選抜する。方法は簡単。一人一人ステータスプレートでステータスを測定し、その中から我々の欲する人材が一万人引き抜かれていく」
出ました、ステータスプレート。
さて、“適性診断”から三ヶ月経った訳だけれど、一体俺は、どれぐらい強くなったんだろうか。
ロカルノさんが、持ってきた紙袋をドンと机の上に置いた。
「さて。一人ずつステータスプレートを取りに来い。それぞれ数値を測定し、出た結果を俺に手渡せ。測定方法は解るな?プレートの上に手をかざすだけだ」
最初に動いたのは部長だった。
ロカルノさんの前へ行き、ステータスプレートを受け取る。
ロカルノさんの見る前で部長はステータスプレートに手をかざし、その後それをロカルノさんに手渡した。
「ふむ。セム・ウルク。覚醒勇者か。なるほどなるほど。なかなか良い数値を出すな」
ロカルノさんが、部長のステータスを見て一人頷く。
「次は誰だ」
ロカルノさんに促され、教室の前の席に座る先輩から一人、また一人とロカルノさんの前に進んだ。
着々と事は流れる。三十分後、俺の番が回ってきた。
ロカルノさんからステータスプレートを受け取り、その上に手をかざす。プレートが微かに輝き、俺のステータスが盤上に表示された。
シェル・クライマン 男 十六歳 勇者適性者
身長 178.4㎝ 体重 75.4㎏ 練度 18
総合筋力 25000
瞬発筋力 31000
持久筋力 27410
純粋筋力 20700
体力 21000
物理耐性 14800
俊敏 23020
総合戦闘力 27000
お、身長伸びたな。前は確か、176㎝位だったはずだ。
俺はステータスプレートをロカルノさんに手渡した。ロカルノさんは、俺のステータスを一瞥すると、袋の中に入れ―――――――――なかった。
「ん?数値がおかしいな。一桁ずれてないか?済まない、シェル・クライマン君。どうやらステータスプレートに不備があったようだ。こっちのプレートでもう一回測り直してくれ」
ロカルノさんは、新しいプレートを取り出して俺に渡そうとした。
「いえ......プレートに不備はないはずです。その数値は正確ですよ」
どれも、前回の数値よりいい感じに上昇している。そろそろ、覚醒勇者の精鋭達にも負けないくらいにはなっただろう。
「いや、そんなはずはない。いいから、こっちを使いなさい」
だが、ロカルノさんはそれを否定する。俺は渋々それに従った。
結果は。
一切同じ数値。俺はそれを、ドヤ顔でロカルノさんに見せ付けた。
「ね?不備じゃないでしょ?」
ロカルノさんが冷や汗を流す。
「んな........馬鹿な........こんな数値........有り得ない........いや、見たことはある...だが......たかが十代の、しかも未覚醒の青臭いガキに......こんな数値が出せるわけが......」
なーんか、サラッとディスられてない?俺。
「き....君は...シェル・クライマンと言ったか?この記録は.....本物なんだな....?嘘なら、冗談では済まないぞ」
ロカルノさんが俺を睨む。
はぁ.......またこれか。
「何なら、教育委員会の方に問い合わせてください。四月の“適性診断”のときに、同じ様な理由で呼び出されたことがあるので。多分、直ぐに照会できると思います」
「そ......そうか」
もういいかな?俺はロカルノさんの表情を盗み見てから、席へと戻った。残りは十人程度だ。
第二章「遠征編」のスタートです。
しょっぱなからいきなり“魔族討伐隊”の結成が決議されます。いよいよ、シェルを中心に物語が大きく動き始めます。
序盤は少し早い展開になるかもしれません。
ロカルノさんの次回以降の登場予定は今のところありません。
次回更新は土曜日です。