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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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27th story 帰還

あの凄惨なキャンプから一週間が過ぎた。


最後の一匹の“トラキア”を倒した約一時間半後に、軍のヘリが到着。生き残った俺達八人と、できるだけの先輩達の遺体の欠片を回収し、ヘリは“はじまりのやま”を離れた。


一昨日までに、先輩方の葬儀も全て執り終えた。


俺達は今、人里から隔離された“アクピス教”所有の建物でまとまって生活をしている。心身の療養のためには、一度世間から離れる必要があったらしい。


ちょくちょく見舞いに来る両親や先生方、ユグから話を聞けば、あの事件は世間に大きな衝撃を与えたらしい。

どうやら教育委員会は今後、各校の“勇者適性者”の遠征活動について、色々と見直しをしていくらしい。


それがいい。こんなものは、もう二度と御免だ。


マスコミの取材やらも大変なことになっているらしい。学校の周りには常に記者が張り付いていて、隙あらば生徒にインタビューをしかけたり、どこから情報を仕入れたか、俺らの家やアグル先輩達の家にまで押し掛けて来ることもあるそうだ。


“アクピス教”の完全保護下にあるこの建物には、そういう輩が来ることはない。全て、事前に“アクピス教”が潰しているそうだ。


何だ、“アクピス教”っていい奴等じゃん、と思ってしまいそうだ。


ところがどっこい。“アクピス教”はここぞとばかりに俺達に布教してくる。心身参っている状況でこんなことされれば、誰だって心が傾くだろう。サルゴンなんか、もうその教えに酔っている。


誰にも邪魔されることなく、若く有望な“勇者適性者”を組織に取り込む。本当の狙いは、そこなのだろう。結局は、そういう奴等なのだ。


各々の怪我についてだが、俺の腕の傷や、部長の肩の傷のような、抉られたり打ったりしたような怪我は“アクピス教”から派遣された凄腕の回復魔法使いによって、ほぼほぼ完治しかけていた。


だが、サルゴンのねじ切られた腕は流石に治せないようだ。これからは義手生活になるそう。


仕方ないね、と苦笑いしていたサルゴンの表情が忘れられない。


医師の診断によれば、俺達はあと一ヶ月は養生が必要らしい。つまり、あと一ヶ月はこの建物に閉じ込められて、“アクピス教”がいかに素晴らしいかを、胡散臭い人達から聞かされなきゃならないということだ。


ここに居る方が疲れる気がするんだけど......




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一ヶ月は無為に過ぎて行き、ついに帰宅できるその日がやって来た。


俺達は自分の荷物を持って、玄関前のホールに集まっていた。建物の外では、それぞれの家族が総出で子供たちの帰還を待ち望んでいる。俺達も、久々に喜びを感じていた。


「さて、いよいよ家に帰れる時が来たな」


部長が、俺達七人を前に語る。


「あの悪夢のような絶望的状況から、よく生還できたと思う。本当に、お前達はよくやったよ」


隣で、女勇者先輩が涙ぐむ。


“トラキア”八匹をあの人数で相手してたんだよな。今になって振り返ってみると、恐ろしい話だ。


「だが、決して忘れないでほしい。この事件で、若く勇猛な命を散らしてしまった仲間達のことを。最期まで俺達を守ろうとしてくれた、軍部の二人の護衛のことを。俺達の“今”は、彼らの犠牲の上に成り立っているということを」


後ろに並ぶ部員が、嗚咽を漏らす。


「あいつらが犠牲になってまで、自分が生き延びる意味はあったのだろうか。これから先、何度もそういった自問自答を繰り返すことになるだろう。その答えが出る奴も居れば、出ない奴も居ると思う。出る答えも、一人一人で違うはずだ。だが、決して忘れないでくれ。“意味”とは、元から存在するものじゃない。作るものなんだ。あいつらが犠牲になってしまった“意味”、自分達が生き残った“意味”。それは、自分自身でしか見付けることが出来ない。決して、人と同じものではない、人の模倣ではない。自分だけの“意味”を探してくれ。その上で、自分達は生きているんだということを噛み締めるんだ」


部長が言葉をしめる。その後に言葉を発する者はなく、ホールには、ひたすらすすり泣く声だけが響いた。



十分か二十分か。暫くした後に、部長が再び口を開いた。


「..........いいか?家族達が待っている。みんな.........帰ろう」


俺達は自分の荷物を持つと、玄関口に立った。それを見届けてから、部長が扉を開く。


扉が開ききると、部長を先頭に俺達は外への一歩を踏み出した。そして、建物の前で待機していた、それぞれの家族の下へと向かう。


俺も両親を見付けて、その下へ向かった。


「おかえり、シェル」


親父が俺を迎える。母さんは、俺に優しく頷いた。


俺は二人を見据えて応えた。





「ただいま」








第一章 日常編 完

第一章「日常編」完結です。


寂しい終わり方になってしまいました。予定では、“はじまりのやま”は難なく終わるはずだったのに.......気付いたら、アグル先輩達が死んでました。


構想通りに話を進めるって、やっぱり難しいです。どうしても、作者も思いもしなかった方向へ話が進んでしまうことも......


とはいえ、大筋から話を離し過ぎないようにはします。


次回から新章が始まります。第二章では、かなり大きく物語が展開する予定です。シェルの力の秘密も、次の二章で半分程明らかに。


まだまだ拙い文章ではありますが、「Near Real」第二章からも、よろしくお願いします!




次回更新は水曜日です。新章に突入します。

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