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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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25th story 覚悟

まだ入部してから日が浅いため、先輩達との付き合いは余り多くない。赤の他人ではないけれど、そこまで進んで親しくするわけでもない、微妙な関係だった。


それでも........


知っている人間が目の前で獣に喰われていて、他人事で済ませられるような人間じゃない。


一歩。


俺は“トラキア”の群れへと足を踏み出した。護衛の二人の遺体の脇に、二人のものと見られる銃が二丁転がっている。もしあの銃に残弾があれば、この状況を脱することも可能かもしれない。


俺は拳を握った。失敗すれば最悪、俺も先輩達と同じ道を辿ることになる。だが、やらなくても同じことが言える。誰かが言ってたじゃないか。やらずに後悔するよりも、やって後悔しろって。


護衛の二人の元へ行くには、二匹の“トラキア”の横を通らなければならない。なるべく気付かれずに接近したい。だが、ゆっくりしている暇もない。早く部長達の方にも加勢しなければ。


先輩達の遺体を貪っている二匹の“トラキア”が、他所を向いた。


今だ。


俺は地面を蹴った。


あと数メートルの所で、“トラキア”が俺の存在に気付く。だが、俺は構わず走り続けた。


一匹の“トラキア”が俺に向かって腕を振り上げる。その瞬間、俺は更に地面を強く蹴って加速した。“トラキア”の腕が俺に到達する前に走り抜ける。


先輩方の遺体を飛び越え、護衛の男二人の遺体へと辿り着く。その横に転がるサブマシンガンを手に取ると、残弾を確認した。二丁で合計十発。俺の持っている物と合わせれば、十四発。そして残っている“トラキア”の数は六匹。何とか足りそうだ。


俺は三丁の銃を抱えてその場を離脱した。


“トラキア”に警戒しながら女勇者先輩の元へと戻る。女勇者先輩は未だにうずくまっていた。仕方のないことだ。むしほ、これが普通の反応なのだ。


やけに冷静な俺の方が可笑しいのだろう。


「.......先輩、大丈夫ですか?」


俺が尋ねると、女勇者先輩はキッと俺を睨んだ。


「大丈夫なわけないじゃない!!何でアグル達が死ななきゃいけないのよ!!何であんな風に殺さっ........」


女勇者先輩は、再び胃液を吐き出した。この様子じゃ、しばらく再起は無理そうだ。


俺は嘔吐する先輩をそっとし、部長達の戦っている方へと意識を向けた。


四匹の“トラキア”を一度に相手している六人は、既に満身創痍の状態だった。擦り傷や切り傷などの外傷は勿論。サルゴンなんかは片腕を切り取られ、部長も深く肩をえぐられていた。


六人は“トラキア”の攻撃からこそ辛うじて避け続けてはいるものの、反撃の手がないことに攻めあぐねていた。


だが、ここにはまだ弾の入ったサブマシンガンが三丁。これさえあれば、状況の打開も可能だ。


だが、念には念を。その前に、俺自身がまず一匹仕留めたい。


俺は肩に掛けられた三丁のうち一丁を構えると手始めに、一番近くにいる“トラキア”に飛び付いた。背中に馬乗りになる。


乗られた“トラキア”は、グワァーと叫ぶと二足立ちになった。


おっと、と“トラキア”の背中にしがみつく。さて、この状況になったはいいが、どうやってこいつを殺すか。“トラキア”の弱点は肉質の柔らかい部分で、それらは基本前方にある。


ふと、“トラキア”の背中に乗る俺に巨大な影が重なった。振り向くと、別の個体が俺に向けて腕を振り上げていた。


いや、思い付いたぞ。


“トラキア”の上皮は、確かに頑丈だ。だが、“トラキア”の攻撃の純粋破壊力は、それすらも上回るのでは?目には目を、歯には歯を。“トラキア”には“トラキア”を。


何であれ、試すのが一番だ。何かしらの行動を起こすことが、今は最善なのだ。


“トラキア”の腕が、爪が俺に迫る。俺は逃げ出したい気持ちを抑えながら、ギリギリまでそれを引き付けた。


ここ、というタイミングで、俺は乗っていた“トラキア”の背中を蹴って飛び退いた。


だが、背後から俺を殴ろうとしていた別の個体の腕は、咄嗟には止まらない。


その爪は、俺が今の今まで乗っかっていた個体の背中にザックリと刺さった。


〔ッッッッッッ!〕


声にならない悲鳴をあげる、仲間に刺された“トラキア”。うん、痛いと思う。爪の長さだけで、俺の肘から手の先までくらいの長さは余裕であるんだもん。


そして、仲間を刺したことを理解できず、何故俺が目の前から消えたのかも理解できていない、膠着状態の“トラキア”に一気に接近した俺は、銃口をあそこに突っ込んでぶっぱなした。


.......ほら、あそこだよ。排便するためのあそこ。


仕方ないだろ?そこが地上からじゃ一番やり易いんだから。


地面にドッと倒れた個体の生死を、一瞥で確認する。心なしか、恍惚の表情をしているような気がする。......気がするだけだ。奴らの感じる部分がそこだなんて聞いたことはねえしよ。ていうか、二度と開発なんてしたくないわ。


いや、そんなことはどうでもいい。俺はその場から離脱すると、部長達の元へ向かった。


部長達も部長達で、二匹を相手にしている。六人も居るから、そのうち片付くだろう。だが、俺はさっき気付かされた。


“そのうち”では遅過ぎるんだ。


俺は部長達に加勢すると、“トラキア”の隙を見て二人の部員にサブマシンガンを一丁ずつ手渡した。部長とサルゴンは元から一丁ずつ持っている。


「部長、シェル君が来ました。これで七人です。三・四に分かれましょう」


サルゴンが俺の存在に気付き、戦闘の中で部長に提案する。部長は、その提案に答えないまま“トラキア”の顔面に飛び込むと、口の中に銃を入れて引き金を絞った。


「そうか.........あと何匹だ?」


部長が“トラキア”の口から銃を引き抜きながら周囲に尋ねた。


「あと四匹です」


俺が答える。あと四匹......実際に口にしてみて、初めて気付く。


まだ半分しか倒してないんだ。


「.......分かれるか。シェルとサルゴン。それから......お前行け」


部長がある先輩を指差す。小柄先輩だ。ご無沙汰です。


「そっちは三人でやれ。シェルが居る限りは安全だ」


主人公補正付きのご都合主義ってヤツですね?解ります、部長。


「一グループ二匹ずつの相手になる.......アグル達の二の舞にだけは........なるんじゃねえぞ――――――」


部長が顔を曇らせる。何だかんだ、仲良かったからな。部長とアグル先輩。今一番辛いのは部長か。


「シェル君、行くよ」


サルゴンが俺の腕を引っ張る。


「そういやお前、その腕――――」


俺はサルゴンの千切れた右腕を示した。上腕の途中からねじ切れてなくなっている。


「シェル君。今は気にしちゃ駄目なんだよ。先輩達の敵をとるには、これぐらい、恐れてちゃいけないんだよ」


強いんだな。そう言おうとして、俺は口をつぐんだ。違う。逆なんだ。サルゴンや部長も、“勇者”である前に“人間”なんだ。強くなんてないんだ。


俺はサルゴンから視線を外すと、アグル先達を喰い殺した二匹の“トラキア”へと向かっていった。


もう誰も死なせない。これ以上仲間が死ぬのなんて、見ていられるか。


二匹同時に相手するから何だ。殺り方なんて、幾らでもある。相手は、自然界で底辺に位置する知能の持ち主。対する俺は、純粋戦闘力だけなら、覚醒勇者の精鋭とも同レベル.......いや、今はそれ以上なんだぜ?


これは怠慢とか自慢とかじゃねえ。


覚悟だ。

寝不足........

寝ないと駄目ですね。先日お風呂で、気付いたら洗顔用石鹸で体洗ってました。


次回更新は水曜日です。

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